第十八章 十二月
十二月三日。
最初の異変は、些細なものだった。
朝の配給で、佐々木が自分の名前を一瞬忘れた。
配給係に名前を聞かれ、佐々木は口を開き――そして閉じた。三秒ほどの空白の後、「佐々木」と答えた。その場では誰も気に留めなかった。佐々木自身も、寝不足のせいだと思った。
同じ日の昼。畑の作業中に、鹿児島から来た女性が手を止めて、じっと空を見上げた。十分間。声をかけても反応がなかった。やがて我に返り、「ぼーっとしとった」と笑った。
夕方。北九州の黒木から通信があった。
「こっちでも妙なことが起きとう。キャンプの三人が、今朝から同じ夢の話をしよう。赤い光の夢。内容が全く同じらしか」
篠原が通信に割り込んだ。
「いつからですか」
「今朝。いや――昨夜か。昨夜の夢らしか」
篠原は翔太と目を合わせた。
「観測装置を起動しろ。14.7ギガヘルツ帯だけやなく、全帯域をスキャンしてくれ」
翔太が走った。五分後、戻ってきた。顔が蒼白だった。
「先生。14.7ギガヘルツは沈黙のまま。でも――」
翔太はノートパソコンを篠原に渡した。
「**0.5ヘルツ帯**に、微弱な信号があります。極超長波。前回の帯域とは全く違う」
0.5ヘルツ。人間の脳波のデルタ波と同じ周波数帯。
篠原の手が震えた。
「来た」




