第十七章 タイムスタンプ
拠点の会議室に、主要メンバーが集まった。
中村。美咲。佐々木。原口。黒木。藤堂。永田。そしてラジオの向こうに、鹿児島と熊本のリーダーたち。
篠原はホワイトボードの前に立った。十二日間の不眠不休で、頬はこけ、目の下の隈は黒かった。だが目だけは鋭かった。
「第十ブロックの解読が終わった。重大な情報が含まれとう。先に結論を言う」
篠原はホワイトボードに大きく書いた。
**「第二ノードの接触予定時刻が記録されている」**
会議室が凍りついた。
「最初のノードが他のノードに送った報告には、単なる観測記録だけやなくて、ネットワーク全体のスケジュール情報が含まれとった。各ノードが地球に対して接触するタイミングが、あらかじめ設定されとう」
「いつ来ると」藤堂が立ち上がった。
篠原は数字を書いた。あいつらの時間単位を地球時間に換算する計算を、翔太と三日かけて検証した数字を。
「換算に誤差がある。最大で前後二週間のブレがある。それを踏まえた上で――」
篠原はペンを置いた。
「第二ノードの接触予定は、**今年の十二月から翌年一月の間**」
二ヶ月後。
「早すぎる……」黒木が呟いた。
「あと二ヶ月しかなかっちゅうことか」藤堂が言った。
「最短で二ヶ月。最長で三ヶ月半。ただし、これはあいつらの『予定』であって、変更される可能性もある。最初のノードの報告を受けて、第二ノードが予定を早めることも、遅らせることも、あるいは中止することもありうる」
「中止の可能性は」中村が聞いた。
「低い、と私は見とう。最初のノードが『対象から問合を受信した』と報告しとう以上、むしろ第二ノードの興味は増しとうと考えるのが自然たい」
美咲が口を開いた。
「篠原さん。第二ノードが何をするか、データに書いてありますか」
「書いてない。各ノードの具体的な行動は『独自判断』やけん、事前には決まっとらん。ただ――」
篠原は新しいページを開いた。
「第十ブロックには、もう一つ情報がある。各ノードの**特性記述**たい。四つのノードにはそれぞれ異なる特性が割り当てられとう」
篠原は四つの項目を書いた。
ノード一:**生命活動の観測** → 蘇生を実行。我々が止めた。
ノード二:**認知活動の観測**
ノード三:**集団行動の観測**
ノード四:**環境適応の観測**
「第二ノードの特性は『認知活動の観測』。つまり、次の相手は人間の**思考や知性**に興味がある」
「蘇生ではなく、頭の中を覗きに来る?」藤堂が言った。
「わからん。だが、蘇生のような肉体的な干渉ではなく、**精神的・知的な干渉**をしてくる可能性がある」
会議室に重い沈黙が落ちた。
美咲は考えていた。
最初のノードは死者を蘇らせた。それは物理的な脅威だった。鉈で、火で、壁で対処できた。
次のノードは、頭の中に来るかもしれない。
それに対して、鉈は振れない。
永田が冷静な声で言った。
「つまり、準備すべきことは二つ。一つは、返答データの残りを全て解読して、相手の情報をできるだけ多く得ること。もう一つは――」
永田は美咲を見た。
「前回と同じように、**対話の準備**をしておくこと。前回は『なぜ』の一言で止まった。今回も止まるかはわからん。でも、問いかける手段を持っておくことは、最低限の備えやろう」
藤堂が頷いた。
「永田さんに同意する。軍事的な防衛は意味がなか。だが、何もせんわけにもいかん。篠原さん、あいつらの言語――あのプロトコルは、第二ノードにも通じると?」
「通じるはず。ネットワーク内で共通のプロトコルを使っとうけん。私たちがあの言語を使える、ということ自体が、最大の武器たい」
中村が立ち上がった。
「やることは決まった。篠原さんと翔太はデータの解読を続ける。残りのブロックに、もっと詳しい情報があるかもしれん。俺たちは――」
中村は全員を見回した。
「生き延びる。何が来ても、生き延びられるだけの基盤を作る。畑を広げる。水を確保する。人を増やす。コミュニティを強くする。どんな脅威が来ても、崩れんだけの土台を作る。それが俺たちにできることたい」
美咲は窓の外を見た。
十月の空。高く澄んだ秋空。
あの向こうに、次の観測者が待っている。「認知活動の観測」を特性に持つ、二番目のノードが。
あと二ヶ月。
美咲は胸ポケットの写真に触れた。
最初のノードが来た時、美咲は十七歳で、何もできなかった。母を失い、地下街で膝を抱えているだけだった。
今、美咲は十八歳で、記録ノートを持ち、鉈を振るい、会議で発言し、千五百人の中で一つの役割を果たしている。
次のノードが来た時、美咲は何をするのか。
わからない。だが、「なぜ」と問いかけることだけはやめない。
それだけは、決まっていた
*――返答データの解読が進んだ。*
*――観測者は四体。次は「認知」を司るノード。*
*――二ヶ月後、それは来る。*
*――千五百人の人類に残された時間は、あまりにも短い。*
*――だが、問いかける言葉は、もう持っている。*




