第十六章 解読
十月十一日から、篠原と翔太はサーバールームに籠もった。
拠点の一室をサーバー用に改装し、発電機を直結した。発電機の音が二十四時間鳴り続けた。
篠原が数学的解析を行い、翔太がプログラムを書いてサーバーで処理を回す。結果を篠原が検証し、次のブロックに進む。二人は交代で仮眠を取りながら、ほぼ不眠不休で作業した。
一日目。第六ブロック解読完了。
三日目。第七ブロック解読完了。
五日目。第八ブロック。
篠原が翔太を呼んだ。声が震えていた。
「翔太。これを見ろ」
画面に表示された数列。篠原が赤いアンダーラインを引いた部分。
「第八ブロックに、ネットワークの**ノード数**が記述されとう」
翔太が画面を覗き込んだ。
「……いくつですか」
篠原は数字を指差した。
「人間の十進法に変換すると――**四**」
「四」
「四体。あの観測者ネットワークは、四つのノードで構成されとう。最初の一体は、私たちが止めた。残りは三体」
「それは……多いんですか、少ないんですか」
篠原は首を振った。
「わからん。ただ、無数におるわけではなかった。有限。しかも少数。それは重要な情報たい」
七日目。第九ブロック。
ここで、篠原は初めて長い沈黙に落ちた。
翔太が心配して声をかけた。
「先生?」
篠原は画面を見つめたまま動かなかった。
「先生、大丈夫ですか」
「……翔太。これを、どう読む」
翔太が画面を見た。
第九ブロックの内容は、最初のノードが「なぜ」を受け取って自己問合を実行した後の**内部処理ログ**だった。つまり、あの存在が自分自身と「対話」した記録。
翔太は十分かけてそれを読み、そして顔色を変えた。
「先生。これ――」
「うん」
「あいつは、自分がやったことを**後悔**しとう?」
篠原はゆっくりと首を振った。
「後悔、という言葉が正しいかはわからん。あいつの言語に『後悔』に相当する概念があるかも不明たい。ただ、自己問合の結果として、自分の行動が対象に**予測外の変化**を与えたことを認識し、その変化を**負の評価**で記録しとう」
「負の評価」
「つまり、あいつのフレームワークの中で、あれは**失敗**やった。少なくとも、あいつ自身がそう結論づけとう」
翔太は椅子に崩れるように座った。
「じゃあ……あいつにも、何かしらの善悪の基準がある?」
「善悪とは違う。あいつには善悪はなか。あるのは**目的との整合性**だけたい。観測と理解が目的やった。だが、蘇生によって対象(人間)が破壊されたことで、観測対象そのものが失われた。目的達成の観点から、自分の行動は逆効果やった。それを『負の評価』と記録しとう」
篠原は画面を見つめた。
「あいつは反省しとうわけやない。人間の苦しみに心を痛めとうわけでもない。ただ、**自分の目的にとって非効率だった**と認めとう。それだけたい」
翔太は黙っていた。
篠原が続けた。
「でもな、翔太。それは重要なことたい。あいつが自分の行動を『失敗』と記録したということは、**その失敗情報も他のノードに共有されとう**ということたい。次のノードは、蘇生が『失敗した方法』であることを知った上で来る」
「つまり、次は蘇生ではない」
「おそらく。ただし、何をするかはわからん。蘇生以外の方法で、かつ『対象を破壊しない方法』で観測しようとするやろう。それが人間にとって良いことかどうかは――」
篠原は言葉を切った。
「全くの未知数たい」
十二日目。第十ブロック。
篠原の手が止まった。
「……翔太」
「はい」
「全員を呼んでくれ」




