第十三章 九月一日
夏が終わりかけていた。
遺体の大規模焼却は、八月末でひとまず一区切りがついた。福岡市中心部の主要エリアは処理を終え、地下水の汚染リスクは大幅に下がった。疫病の流行も、水源の切り替えと焼却の加速で、九月に入る頃にはほぼ収束した。
死者は十一人だった。
三百人のうちの十一人。大きな数字か、小さな数字か。美咲にはわからなかった。ただ、十一人分の名前がノートに書き加えられた。
九月一日。
藤堂が、中村と美咲を呼んだ。
「話がある。二人だけに」
拠点の校舎の裏。夕暮れ。
藤堂は珍しく落ち着かない様子だった。腕を組み、ほどき、また組んだ。
「……俺は、お前たちに謝らないかんことがある」
美咲は驚いた。この男の口から「謝る」という言葉が出るとは思わなかった。
「最初に北九州で会った時、俺は正直、お前たちを――志賀島の三十三人を、甘いと思っとった。弔いに時間をかけて、記録にこだわって、感情で動く連中やと」
藤堂は空を見た。
「だが、この夏を一緒にやって、わかった。お前たちのやり方は甘いんやない。**丁寧**なんたい。そして、丁寧さがなかったら、人はただの作業機械になる。俺の部下が焼却場で何も感じなくなっとったのを見て、それに気づいた」
中村は黙って聞いていた。
「あと、もう一つ」
藤堂は美咲を見た。
「三人の柱、っちゅう提案。あれは正しかった。俺一人がトップに立っとったら、夏の間に必ずどこかで判断を誤っとった。黒木が止めてくれた場面が何度もあった。――悔しいが、認める」
美咲は言った。
「藤堂さんがおらんかったら、焼却は間に合わんかったです。それも事実ばい」
藤堂は苦笑した。
「おべっかは要らん」
「おべっかやなかです。本当のことです」
三人はしばらく黙って夕焼けを見ていた。
藤堂が口を開いた。
「篠原さんの報告。次のノードの件。あれについて、俺なりに考えた」
「聞かせてください」
「軍事的な防衛では対処できん。相手は衛星軌道上におる。ミサイルもロケットもなか。仮にあったとしても、ネットワークの一端末を破壊したところで、別の端末が来るだけたい」
「そうですね」
「つまり、力では勝てん。お前たちがやったように、**対話するしかなか**」
美咲は目を見開いた。
この男が「対話」と言った。軍事的合理性の権化のような男が。
「驚いとうやろ」藤堂は美咲の顔を見て言った。「俺もびっくりしとう。だがな、俺は合理的なだけたい。勝てん相手に力で挑むのは合理的やなか。なら、別の手段を取る。それだけのことたい」
中村が初めて口を開いた。
「藤堂。お前は変わったな」
「変わっとらん。合理的な判断をしとうだけたい」
「それが変わったっちゅうことたい」
藤堂は何も言わなかった。ただ、少しだけ肩の力が抜けたように見えた。




