第十章 分裂
篠原の報告から三日後。
博多の拠点で、合同会議が紛糾した。
藤堂が席を立って発言した。
「情報を整理する。空の上に、あれと同じ存在が複数おる。次のやつが来る可能性がある。今度は蘇生とは違う方法かもしれん。――ここまでは全員の認識が一致しとうな?」
誰も異論はなかった。
「なら、やるべきことは明確たい。**防衛体制の構築**。あいつらがどんな手で来るかわからん以上、あらゆる事態に備える必要がある。そのためには、バラバラに動いとう場合やない。北九州と福岡の生存者を統合し、統一された指揮系統の下で――」
「待ってくれ」黒木が遮った。
黒木は立ち上がった。藤堂より頭一つ低いが、体の厚みは負けていなかった。
「統一された指揮系統。聞こえはよか。だが、それは要するに、**誰か一人がトップに立つ**っちゅうことやろう。そのトップは誰がやると?」
藤堂は黙った。
「あんたやろ。そう言いたいんやろ」
「俺が最適だとは思っとう。軍事的な指揮経験は、この場で俺が一番ある」
「軍事的な。そこたい」黒木は指を突きつけた。「あんたの頭ん中は、全部が軍事なんたい。遺体処理も軍事作戦。防衛体制も軍事編成。食料確保も兵站。だがな藤堂、俺たちは**軍隊やない**。生存者たい。市民たい」
「市民?」藤堂の声が低くなった。「市民が守ってくれるか。市民が次の脅威を防いでくれるか。一年前、市民がどうなったか忘れたか。自衛隊でさえ躊躇して崩壊した。今度同じことが起きた時に、話し合いで――」
「話し合いを馬鹿にするな」
声を上げたのは、美咲だった。
全員が美咲を見た。十八歳の少女。だが、この一年で誰もが知っていた。この少女が何をしてきたか。志賀島で送信機のダイヤルを回し続けたこと。「なぜ」という問いの始まりにいたこと。
美咲は立ったまま、藤堂と黒木の両方を見た。
「藤堂さんの言うことはわかります。備えは要る。でも、黒木さんの言うことも正しか。一人の人間に全部任せるのは危険たい」
「じゃあどうする」藤堂が聞いた。挑発ではなく、純粋な問いだった。
「分担すればよかでしょう。防衛は藤堂さん。生活基盤は黒木さん。研究と通信は篠原さん。一人のリーダーやなくて、**三人の柱**で回す」
藤堂は美咲を見つめた。
「それは民主主義か」
「民主主義がどうかは知りません。でも、一人に権力を集めたら、その人が間違えた時に誰も止められん。三人なら、二人が止められる」
藤堂は腕を組んだ。長い沈黙の後、口を開いた。
「……条件がある。防衛に関する判断は、緊急時には俺に一任しろ。会議を開いとう暇がない時がある」
「緊急時だけね。平時は合議」
「いいだろう」
黒木が美咲を見た。呆れたような、感心したような顔だった。
「……十八歳に仕切られるとは思わんかったばい」
「仕切っとらんです。提案しただけです」
中村が後ろの席で、小さく笑った。




