第九章 篠原の発見
七月一日。
志賀島から、篠原の緊急通信が入った。
――*全員に伝えてほしか。返答データの第五ブロックの解読が終わった。重要な内容が含まれとう。できれば全員集まって聞いてほしか*
翌日、博多の拠点にラジオが設置され、福岡と北九州の主要メンバーが集まった。中村、美咲、佐々木、原口。北九州から黒木と藤堂。志賀島から篠原と翔太の声がラジオで繋がった。
篠原の声は、緊張していた。
「第五ブロックの内容を報告する。結論から言うと、**あいつは一体ではない**」
沈黙。
「返答データの第五ブロックには、あいつ自身の存在形態に関する記述がある。あいつは自分を『観測者』と定義しとったけど、第五ブロックでは、より詳細な自己記述が出てきた」
篠原は咳払いをした。
「あいつは、**ネットワークの一部**たい。同種の存在が、複数ある。あいつの記述をそのまま訳すと、『観測網の端末ノード』。つまり、あいつは巨大な観測ネットワークの、**一つの端末に過ぎん**」
藤堂が低い声で聞いた。
「他にもおるってことか。あれと同じものが」
「そう。何体おるかは記述されとらん。ただ、ネットワークという以上、最低でも複数。そして――」
篠原の声が一段低くなった。
「あいつが蘇生信号を止めたのは、あくまで**あいつ個体の判断**たい。ネットワーク全体の合意ではなか。つまり、他のノードが同じ判断をするかどうかは――わからん」
長い沈黙が落ちた。
美咲は拳を握った。
止まったと思った。終わったと思った。「なぜ」と問いかけて、あれが答えを返して、蘇生信号が止まって。それで少なくとも、ゾンビの脅威は去ったと。
だが、空の上にいたのは一体だけではなかった。
「もう一つ」篠原が続けた。「第五ブロックの最後に、一文だけ、不気味な記述がある」
全員が耳を澄ませた。
「翻訳すると、こうなる」
篠原が読み上げた。
**「他ノードへの報告:対象から問合を受信。応答済み。観測モードを移行する。後続ノードは独自判断で対象への接触を継続せよ」**
誰も動かなかった。
「あいつは、自分の仲間に**報告しとう**。人間から問いかけを受けた、と。そして、**次のノードに引き継いだ**」
藤堂が椅子から立ち上がった。
「次のノードが来るっちゅうことか」
「来るかもしれんし、来んかもしれん。『独自判断で接触を継続せよ』やけん、次のノードが人間に興味を持つかどうかは、そいつ次第たい。ただ――」
篠原は言った。
「次のノードが、蘇生以外の方法で『観測』しようとする可能性は、排除できん」
ラジオの向こうで、篠原の声がかすかに震えていた。
「私たちは一体を止めた。でも、ネットワーク全体を止めたわけやない。あれが何体おるのか。次にいつ来るのか。今度は何をするのか。全部、わからん」
美咲は空を見上げた。会議室の窓の向こうに、夏の青空が広がっていた。
あの空の向こうに、まだ「何か」がいる。一つではない。いくつも。地球を観測し、理解しようとしている何かが。
一つ目は「なぜ」で止まった。
二つ目は、「なぜ」で止まるとは限らない。
*――一つの問いが、一つの観測者を止めた。*
*――だが、観測網は広大だった。*
*――次の観測者が、何を見て、何をするのか。*
*――それは、まだ誰にもわからない。*




