第六章 焼却
五月末。
福岡と北九州の合同会議が、短波ラジオを通じて行われた。
中村と黒木が議長を務め、藤堂も参加した。議題は一つ。**遺体処理**。
藤堂が提案を述べた。
「北九州と福岡、両方の市街地で大規模焼却を行う。具体的には、各エリアの遺体を一箇所に集め、ガソリンと可燃物を使って焼く。一日に処理できる数は条件次第やが、百体から三百体。市街地の主要エリアだけでも数万体おるけん、作業は二、三ヶ月かかる」
ラジオの向こうで、沈黙が続いた。
中村が口を開いた。
「身元の確認は」
「しない」藤堂は即答した。「身分証や所持品から推測できる場合は記録するが、全体の一割にも満たんやろう。残りは無記名で焼却する」
「弔いは」
「焼却場に慰霊碑を一つ立てる。それ以上のことは、現状の人的資源では不可能たい」
ラジオの向こうから、黒木の声が割り込んだ。
「藤堂さんの案は効率面では最善やろう。だが、感情面で反発が出る。特に、自分の家族の遺体がどこにあるか探したいっちゅう人がおる」
「その気持ちはわかる。だが――」
「わかる、で済ませんでほしか。あんたの部下だけで作業するなら勝手にすればよか。だが、うちのキャンプの人間を動員するなら、全員の合意が要る」
空気が張り詰めた。
美咲はマイクの前にいた。中村の横で、議論を聞いていた。
美咲は思い出していた。母のことを。
母が死んだ時、美咲は母の顔を見た。苦しんだ顔。そして、蘇った母の灰色の目を見た。そして、自分の手で――
もし、あの日の母の遺体が、名前も知らない遺体の山の中に放り込まれて焼かれるとしたら。
美咲はマイクに手を伸ばした。中村が怪訝な顔をしたが、止めなかった。
「美咲です。一つ提案があります」
ラジオの向こうが静まった。
「焼却は必要やと思います。疫病のリスクは本物やけん。でも、やり方を工夫できんでしょうか」
「具体的には」藤堂の声。
「焼却の前に、遺体のある場所と特徴を記録する時間を設ける。全部は無理でも、着衣や所持品、場所だけでも。記録係を別に置いて、焼却班と並行して作業すれば、効率はそこまで落ちんはず」
沈黙。
藤堂が答えた。
「……記録係に何人回せる」
「三人。私と、もう二人」
「焼却班の人数は減らさんでよかとか」
「減らしません。記録班は焼却班とは別に編成します」
さらに沈黙。
藤堂が言った。
「いいだろう。ただし、記録作業が焼却の足を引っ張った時点で中止。それが条件たい」
中村が美咲を見た。小さく頷いた。
「了解。それで行きましょう」




