第三章 拠点
五月中旬。
帰還隊は博多駅南側の、ある中学校を拠点に選んだ。
理由は三つ。校庭が広く、テントや仮設住居を置ける。校舎は鉄筋コンクリートで頑丈。そして、プールがあった。雨水を溜めれば生活用水になる。
最初の一週間は、校舎内の遺体を運び出し、清掃することに費やされた。
三体の遺体があった。教員か、あるいは避難してきた住民か。白骨化が進んでいたが、身元を示すものは何もなかった。
中村は遺体を校庭の隅に仮埋葬した。全員で黙祷した。名前もわからない死者に対して。
「これから、こういうことが何千回もある」中村は全員に言った。「一体一体に時間をかけとったら、夏が来る。でも――」
中村は仮埋葬した地面を見た。
「雑に扱うわけにはいかん。あの人たちは、誰かの家族やった。できる限りのことはする。やれる範囲で」
拠点が整い始めた六日目、短波ラジオに新しい声が入った。
――*こちら、北九州市八幡。生存者約二百名。福岡方面、応答ありますか*
中村がマイクを取った。
「こちら福岡、博多。三十三名。応答する」
相手は元北九州市の消防署長、黒木という男だった。声は太く、落ち着いていた。
「助かった。ようやく繋がった。そちらの状況は?」
中村が簡潔に報告した。志賀島からの帰還。博多駅南に拠点を設営中。物資はある程度確保。だが人手が足りない。
黒木は言った。
「こちらは八幡の製鉄所跡地にキャンプを作っとう。二百名おるが、食料が逼迫しとう。畑を始めたが、夏の収穫まで持つかどうか。そちらに食料の余裕があるなら、物々交換を提案したい」
「こちらが欲しいものは?」
「人手。そちらの街の復旧に人を出す。代わりに、保存食を分けてほしい」
中村は即答しなかった。
「相談して折り返す」
通信を切った後、中村は全員を集めた。
「北九州の黒木さんから申し出があった。人手と食料の交換たい。悪い話じゃなか。ただ――」
中村は言葉を選んだ。
「相手のことを何も知らん。二百人がどういう集団か。どういうルールで生きとうか。合流した後にトラブルになったら、三十三人の俺たちは数で負ける」
美咲が口を開いた。
「でも、三十三人だけじゃこの街は片付けられんです。人手は要る」
佐々木が言った。
「まず会って話すべきやろう。会わんことには何もわからん」
中村は頷いた。
「会おう。ただし、最初は少人数で。俺と佐々木と美咲の三人で北九州に行く。話をして、信用できるか見極める」




