第二章 博多駅
博多駅に着いた時、中村は足を止めた。
「……懐かしか」
一年前、三十七人で立てこもった地下街。ここが全ての始まりだった。中村がリーダーになった場所。ルールを決めた場所。美咲が母と最後の時間を過ごした場所。
地下街への入口は暗かった。篠原の警告を思い出し、中村は全員を止めた。
「地下はダメたい。腐敗ガスが溜まっとう。換気されるまで入れん」
代わりに、駅の地上部分を調べた。
博多駅のコンコースは、一年前の混乱の痕跡をそのまま残していた。砕けたガラス。倒れた案内板。散乱するスーツケース。そして、床に横たわる十数体の遺体。
だが、意外なものもあった。
駅のコンビニの棚には、缶詰やペットボトルの水がまだ残っていた。カップ麺。レトルト食品。菓子類。一年が経過していたが、賞味期限内のものも多かった。
「食料は確保できそうやな」佐々木が棚を確認しながら言った。
「医薬品は?」原口が聞いた。
「駅ビルの中にドラッグストアがあったはず。見てくる」
佐々木と原口が駅ビルに向かった。
美咲は中村と二人で、コンコースの奥を探索した。
改札を抜け、ホームに出た。新幹線が一編成、そのまま停まっていた。ドアは開いていた。車内に数体の遺体があった。あの日、逃げようとして逃げ切れなかった人たちだろう。
美咲はホームの端に立った。線路は雑草に覆われていた。南に向かうレールが、緑の中に消えていた。
「中村さん。この線路、鹿児島まで繋がっとうんですよね」
「繋がっとうはずたい。新幹線は動かんけど、線路は残っとう」
「歩いて行けますかね。鹿児島のキャンプまで」
中村は美咲を見た。
「何考えとう」
「人手が要るんです。この街を片付けるのに、三十三人じゃ足りん。鹿児島にはもっと人がおるんでしょう。合流すべきやないかと」
中村は線路を見つめた。
「……鹿児島までは約三百キロ。歩いて十日から二週間。途中の熊本にも生存者がおるっちゅう話やった」
「行きましょう」
「待て。まず拠点を作る。話はそれからたい」




