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第四章 残された者たち
四月十五日。福岡市の人口百六十万のうち、まだ「生きている」者がどれだけ残っているのか、誰にもわからなかった。
博多駅の地下街に、三十七人が立てこもっていた。
シャッターを降ろし、非常用電源で最低限の明かりを確保し、コンビニと地下食品街から集めた食料で命をつないでいた。
リーダー格は、元自衛官の中村恵介、四十三歳。彼は全員にルールを課した。
「死んだ者は、二分以内に頭部を破壊する。例外はない。三分じゃ遅か。一番早かったケースは三分で動き出した。余裕は、なか」
誰もがそのルールの意味を理解していた。そして、誰もがそのルールを自分の大切な人に適用する瞬間が来ることを恐れていた。
十七歳の少女、田中美咲は、隅で膝を抱えていた。隣には彼女の母がいた。母は三日前から咳が止まらなかった。風邪かもしれない。肺炎かもしれない。いずれにせよ、この世界では「病気」は死刑宣告に等しかった。
「お母さん、水飲んで」
「ありがとうね、美咲」
母は娘の手を握った。その手はひどく熱かった。
美咲は知っていた。あと何日だろう、と。そして、その時が来たら、自分は中村さんのルールに従えるのだろうか、と。




