第二十七章 三日間
一月十六日。二日目。
夜明けとともに、南の浜から七体が上がってきた。中村と佐々木が処理した。
篠原と翔太は高台で作業を続けていた。増幅ユニットの既存送信機への接続。配線の引き直し。周波数の調整。篠原の左腕は包帯で吊られていたが、右手だけで半田ごてを握った。
「あと何日かかると?」中村が聞いた。
「三日。最短で」
中村は南の海を見た。
「三日か」
一月十七日。三日目。
南の浜に十二体。東の浜に四体。西の岩場に二体。
合計十八体。前日の倍以上だった。
処理班を三つに分けた。中村が南。佐々木が東。美咲が西。
美咲は初めて、自分の手でゾンビを倒した。
海から上がってきた女だった。年齢はわからない。海水でふやけた顔は、生前の面影を留めていなかった。ただ、左手の薬指に指輪が光っていた。
美咲は鉈を振り下ろした。一撃で倒れなかった。二撃目で、動かなくなった。
手が震えた。母の時とは違う震えだった。母の時は悲しみだった。今のは――何だろう。わからなかった。ただ、指輪だけが目に焼きついた。
夜、篠原が作業の手を止めて全員に報告した。
「増幅ユニットの接続は終わった。明日、周波数のキャリブレーションと最終テストをやる。問題がなければ、明後日の朝には起動できる」
「明後日。あと二日」中村が復唱した。
「ただし」篠原が続けた。「起動の瞬間、大電力を食う。発電機をフル稼働させても、起動シーケンスに九十秒かかる。その九十秒間、既存の送信は一時停止する」
沈黙が落ちた。
「九十秒間、丸裸になるっちゅうことか」佐々木が言った。
「そう。蘇生阻害が切れる。その間に誰かが死んだら――蘇る」
美咲は思った。九十秒。たった九十秒。だがこの世界では、九十秒は永遠にも等しかった。
一月十八日。四日目。
南の浜、三十一体。東の浜、十五体。西の岩場、八体。北の入江にも、初めて三体が現れた。
合計五十七体。
全周から来ていた。
処理が追いつかなくなりつつあった。中村は見張り以外の全員に武器を持たせた。鉈、斧、鉄パイプ、漁で使う銛。七十歳の老人も、十二歳の子供も。持てる者は全員が持った。
六歳のユキだけは、翔太が背中に負ぶった。
「翔太にいちゃん、あの人たち、なんで海から来ようと?」
「……わからん。でも、大丈夫やけん」
「大丈夫って、嘘やろ」
翔太は答えられなかった。六歳の子供は、大人の嘘を見抜くのが上手かった。
夜。篠原がキャリブレーションを完了した。
「明日の朝、やれる」
篠原の目は充血していた。三日間、ほとんど寝ていなかった。左腕の傷は原口が毎日手当てしていたが、微熱が続いていた。
「篠原さん、熱があると」原口が額に手を当てた。「三十八度五分はあるばい」
「風邪たい。大したことなか」
「風邪やなかかもしれん。傷口から――」
「大したことなか」篠原は繰り返した。強い声だった。「明日、起動する。それだけたい」
原口はそれ以上何も言わなかった。




