第二十二章 福岡タワーへ
六本松から福岡タワーまで、残り約二キロ。
樋井川沿いを北上し、百道浜を目指す。住宅街を抜け、大きな通りを避けて進んだ。
異変に気づいたのは、美咲だった。
「……中村さん。ゾンビの動きが、変じゃないですか」
中村が足を止めた。
通りの向こうに見えるゾンビたちが――全員、同じ方向を向いていた。
北西。百道浜の方角。福岡タワーの方角。
「気のせいやろ」佐々木が言った。
だが、次のブロックでも同じだった。路上のゾンビ、民家の庭にいるゾンビ、倒れたまま這っているゾンビ。全てが、北西を向いていた。
そして、動き出していた。ゆっくりと、だが確実に。同じ方角に向かって。
「嫌な予感がする」中村が呟いた。「ペースを上げろ」
五人は走った。発電機を載せた台車を翔太と佐々木が引き、中村が先頭、美咲と原口が左右を警戒した。
百道浜の海岸通りに出た時、福岡タワーが見えた。
二百三十四メートルの三角柱が、冬の曇り空を突いていた。ミラーパネルの外壁は一部が剥がれ落ちていたが、塔自体は健在だった。
だが、その足元に――
「うそやろ……」佐々木が声を漏らした。
福岡タワーの周囲を、数百体のゾンビが取り囲んでいた。
あらゆる方角から集まってきていた。住宅街から、商業施設から、海浜公園から。まるで何かに引き寄せられるように、タワーに向かってゆっくりと歩いていた。
「なんで……タワーに集まっとうと?」美咲が言った。
翔太の顔が青ざめた。
「……もしかして。タワーの送信設備。あの増幅装置。14.7ギガヘルツに近い帯域を扱える装置がある場所に――集まっとうんじゃ」
中村が翔太を見た。
「どういうことたい」
「あいつ――空の上のあいつが、自分の信号を増幅できる装置を守ろうとしとう。俺たちがそれを持ち出して妨害に使うかもしれんと――気づいとう」
沈黙が落ちた。
あの空の上の何かは、ただ信号を送り続けているだけの機械ではなかった。こちらの意図を読み、先回りし、駒を動かしてきた。ゾンビは――駒だった。
中村は福岡タワーを見上げた。数百体の壁の向こうに、彼らが必要とするものがある。
「……突破する」
「正気ですか」原口が言った。島で一番冷静な女が、初めて声を荒げた。
「正気たい。正気やけんこそ言いよう」
中村は周囲を見回した。海浜公園。広い芝生。遊具。そして、ヤフオクドーム――今はただの巨大な廃墟――が隣に建っていた。
「佐々木、お前消防士やったろう。火ぃ使えるか」
佐々木は一瞬考え、そして頷いた。
「ガソリンがありますけん」
「奴らは音と光に反応する。ドームの方で派手にやって引きつけろ。その間に俺と翔太と美咲でタワーに入る。原口は船の近くで待機」
「私も行きます」美咲が言った。
中村は美咲を見た。反対する理由は、もうなかった。
「……五分で取って来い。それ以上は持たん」




