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死者の目覚め  作者: モモンガ太郎


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第十七章 鶴田の死

十二月二十二日。冬至。


送信を始めて一週間。毎日、素数列を送り続けた。返答のようなパターンは不規則に現れたが、解読には至らなかった。篠原は寝る間を惜しんでデータを分析し、翔太がそれを支えた。


島の生活は続いていた。変わったのは、空気だった。あの浜辺の夜に島全体を覆っていた重い沈黙が、少しだけ薄くなっていた。人々は相変わらず空の話を避けていたが、高台の送信機をちらりと見上げる目には、以前にはなかった何かが宿っていた。


その日、鶴田は一人で島の南端の崖を補修していた。


冬の海風で崩れかけた見張り台の土台を直す作業だった。誰かと組んでやるべきだったが、鶴田は昔から一人で黙々と作業する男だった。


足場の板が折れた。


鶴田は五メートル下の岩場に落ちた。


駆けつけた中村が見たのは、岩の上に横たわる鶴田の体だった。後頭部から血が流れ、目は半開きで、呼吸はなかった。


「鶴田ッ!」


中村は脈を取った。なかった。


「……あかん」


中村の顔が強張った。ルール。自分が作ったルール。二分以内。


中村は腰の鉈に手をかけた。そして、止まった。


この男と一緒に柵を作った。見張り台を建てた。嵐の夜に並んで島を守った。半年間、言葉は少なかったが、背中を預けた相手だった。


一分が過ぎた。


「中村さん!」後から駆けつけた美咲が叫んだ。


中村の手は動かなかった。


一分三十秒。


「中村さん、時間がなか!」


中村は鉈を握り直した。歯を食いしばり、振りかぶった。


二分が過ぎた。


中村は鉈を振り下ろせなかった。


二分三十秒。三分。


美咲が中村を押しのけ、自分の手で鉈を拾い上げた。あの夜、母にそうしたように。何度やっても慣れることのない、この世で最も重い動作。


三分三十秒。


美咲は振りかぶった。


四分。


鶴田は――動かなかった。


五分が過ぎた。十分が過ぎた。


鶴田の体は、岩の上に横たわったまま、動かなかった。


篠原が息を切らして到着した時、美咲は鉈を持ったまま立ち尽くしていた。中村は膝をついて鶴田の傍らにいた。


「……蘇らん」美咲が呟いた。「蘇らんとです」


篠原は鶴田の体に駆け寄り、脈を確認し、瞳孔を確認した。死んでいた。間違いなく。


十五分。二十分。三十分。


鶴田は、蘇らなかった。


篠原は観測装置を取りに走った。戻ってきて、鶴田の遺体の傍に設置し、信号を確認した。


14.7ギガヘルツの蘇生信号は、確かに降り注いでいた。いつもと同じように。


だが、鶴田の死の瞬間に発せられたはずの電磁パルスに対する蘇生応答が――記録されていなかった。


「信号は来とう。でも、鶴田さんに対する個別の応答がなか」


篠原の声が震えた。


「……どういうことですか」美咲が聞いた。


篠原は自分のノートパソコンを睨みつけた。データを何度も確認した。そして、ある一点に気づいた。


鶴田が死亡した十二月二十二日午後二時十七分。その直前、午後二時十五分に――島の送信機から、定時の素数列信号が送信されていた。


「まさか」


篠原は過去一週間の送信ログと蘇生応答のデータを重ね合わせた。翔太が横からノートパソコンを覗き込んだ。


「先生、これ……」


翔太の顔から血の気が引いていた。


「送信中に死亡した場合、蘇生応答がなか。一件だけやけん偶然かもしれん。でも――」


篠原は全員を見回した。


「もし偶然じゃなかったら。私たちの送信が、あいつの蘇生プロセスを阻害しとうとしたら」


沈黙が落ちた。だが、あの浜辺の夜の沈黙とは違った。


中村が立ち上がった。目が赤かったが、声は震えていなかった。


「……鶴田が、教えてくれたんかもしれん」


中村は鶴田の遺体を見下ろした。


「あいつはいっつも、黙って一番大事なことば残す男やった」


中村は美咲を見た。そして篠原を見た。


「もう一回、送ってくれ。今度は――止めずに、ずっと」



――それは希望ではなかった。 ――ただ、絶望の壁に、初めてひびが入った音がした。



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