第十五章 問いの形
十一月十七日。
その日、美咲は畑仕事の帰りに篠原と二人きりになった。
しばらく黙って歩いた後、美咲が口を開いた。
「篠原さん」
「ん?」
「あれは――あの空の上のやつは、お母さんが死んだこと、わかっとったんですよね」
篠原は足を止めた。
「……そうなるね。死の瞬間の電磁パルスを検知して、蘇生信号を返しとうけん」
「じゃあ、お母さんが苦しんどったことも、わかっとったと?」
篠原は答えなかった。
美咲は続けた。
「私がお母さんの頭を――あれしたことも、わかっとうと?」
篠原は美咲を見た。十七歳の少女の目に、涙はなかった。代わりに、篠原が見たことのない光があった。
「美咲ちゃん」
「止めたいんじゃなかとです」
美咲の声は静かだった。
「止められんのはわかっとう。三万六千キロ先で、ロケットもなくて、言葉も通じんかもしれん。それはわかった」
美咲は空を見上げた。昼間の空は青く、何もないように見えた。
「でも、聞きたい。なんでこげなことしようとか。お母さんを、あげな姿にして、何がしたかったとか。私が自分の手でお母さんを殺さないかんようになったのは、あれのせいたい。それなのに、黙って空の上からただ見とうだけなんて――そんなん、許せん」
篠原は黙って美咲の言葉を聞いていた。
「止められんでもよか。答えが返ってこんでもよか。でも、問いかけたい。あんたは何者で、なんでこげなことをしようとか。それだけは、聞かんと気が済まん」
篠原は長い間、美咲を見つめていた。
そして、小さく笑った。この島に来て初めての笑みだった。
「……あんた、山際先生に似とうね」
「え?」
「山際先生も、最後まで『なぜ』を手放さんかった人やった。答えが出んとわかっとっても、問い続けることをやめんかった。それが科学者っていうもんやけど――科学者じゃなくても、そうあれる人はおる」
篠原は美咲の肩に手を置いた。
「14.7ギガヘルツ。あいつが送っとう周波数はわかっとう。同じ周波数で信号を返すことは、理論的にはできる。問題は、何を送るか。そして――相手がそれを聞くかどうか」
「聞かんかもしれんでしょ」
「うん。聞かんかもしれん」
「それでも、送りたか」
篠原は頷いた。今度は、美咲の目を真っ直ぐ見て。
「……私も、実はずっと考えとった。科学者として、問いを投げんまま終わるのは――耐えられんかった。ただ、一人では踏み出せんかった」
二人は畑の真ん中に立ったまま、しばらく空を見上げていた。




