表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死者の目覚め  作者: モモンガ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/38

第十五章 問いの形

十一月十七日。


その日、美咲は畑仕事の帰りに篠原と二人きりになった。


しばらく黙って歩いた後、美咲が口を開いた。


「篠原さん」


「ん?」


「あれは――あの空の上のやつは、お母さんが死んだこと、わかっとったんですよね」


篠原は足を止めた。


「……そうなるね。死の瞬間の電磁パルスを検知して、蘇生信号を返しとうけん」


「じゃあ、お母さんが苦しんどったことも、わかっとったと?」


篠原は答えなかった。


美咲は続けた。


「私がお母さんの頭を――あれしたことも、わかっとうと?」


篠原は美咲を見た。十七歳の少女の目に、涙はなかった。代わりに、篠原が見たことのない光があった。


「美咲ちゃん」


「止めたいんじゃなかとです」


美咲の声は静かだった。


「止められんのはわかっとう。三万六千キロ先で、ロケットもなくて、言葉も通じんかもしれん。それはわかった」


美咲は空を見上げた。昼間の空は青く、何もないように見えた。


「でも、聞きたい。なんでこげなことしようとか。お母さんを、あげな姿にして、何がしたかったとか。私が自分の手でお母さんを殺さないかんようになったのは、あれのせいたい。それなのに、黙って空の上からただ見とうだけなんて――そんなん、許せん」


篠原は黙って美咲の言葉を聞いていた。


「止められんでもよか。答えが返ってこんでもよか。でも、問いかけたい。あんたは何者で、なんでこげなことをしようとか。それだけは、聞かんと気が済まん」


篠原は長い間、美咲を見つめていた。


そして、小さく笑った。この島に来て初めての笑みだった。


「……あんた、山際先生に似とうね」


「え?」


「山際先生も、最後まで『なぜ』を手放さんかった人やった。答えが出んとわかっとっても、問い続けることをやめんかった。それが科学者っていうもんやけど――科学者じゃなくても、そうあれる人はおる」


篠原は美咲の肩に手を置いた。


「14.7ギガヘルツ。あいつが送っとう周波数はわかっとう。同じ周波数で信号を返すことは、理論的にはできる。問題は、何を送るか。そして――相手がそれを聞くかどうか」


「聞かんかもしれんでしょ」


「うん。聞かんかもしれん」


「それでも、送りたか」


篠原は頷いた。今度は、美咲の目を真っ直ぐ見て。


「……私も、実はずっと考えとった。科学者として、問いを投げんまま終わるのは――耐えられんかった。ただ、一人では踏み出せんかった」


二人は畑の真ん中に立ったまま、しばらく空を見上げていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ