第十二章 三点目
九月。島の生存者は、漂着者や他の島から合流した者を含め、四十三人にまで増えていた。
篠原は島で観測装置の制作に取りかかった。14.7ギガヘルツを受信できるアンテナ。材料は廃屋から集めた電子部品と、漁船の無線機から取り出したパーツ。翔太と、元電気工事士の島の生存者・鶴田が、篠原の設計図を元に組み上げた。
十月三日。装置が完成した。
その夜、島の見張りが本土側に一体のゾンビを確認した。橋の跡まで歩いてきて、海の前で立ち止まり、意味もなく腕を振っていた。
篠原はアンテナをそのゾンビに向けた。
「次に島の近くで何かが死ねば、信号を捉えられるかもしれん」
三日後、それは起きた。
島で飼っていた犬が老衰で死んだ。動物も蘇ることは、すでに世界中で確認されていた。
篠原は犬の遺体の傍らで、装置を起動したまま待った。
七分後。
装置の針が振れた。
「来た」
同時に、犬の体が痙攣した。濁った目を開き、歯を剥いて唸り始めた。かつて尻尾を振って子供たちに寄り添っていた老犬の面影は、もうなかった。鶴田が無言で鉈を振り下ろした。誰も責めなかった。
篠原の手が震えた。翔太がノートパソコンに数値を記録した。方位角、仰角、信号強度。
篠原は京都のデータと福岡のデータ、そして今ここ志賀島で取得したデータを重ね合わせた。三本の線を、三次元空間で交差させた。
計算には二時間かかった。
篠原はペンを置いた。顔が青白かった。
「……わかった」
全員が息を呑んだ。
「発信源は――地上じゃなか」
篠原は紙の上の数字を指差した。
「高度、約三万六千キロ」
誰も声を出せなかった。
「静止軌道たい」
美咲が小さな声で言った。
「それって……宇宙?」
篠原は頷いた。
「正確には、静止衛星軌道。地球の赤道上空三万六千キロ。通信衛星や気象衛星が置かれる軌道。そこから――信号は来とう」
中村が低い声で言った。
「人工衛星が、死者を蘇らせとうってことか」
「いや」篠原は首を横に振った。「既知の衛星の位置とは一致せん。どの国の衛星カタログにもなか位置たい。少なくとも、四月八日以前の記録には存在せんかったものが――そこにある」




