第十一章 信号
篠原の説明は、誰にとっても理解しがたいものだった。
「山際先生は、遺体の周囲の電磁環境を記録しとった。死の瞬間、ごく微弱な――本当にごく微弱な電磁パルスが発生する。これ自体は既知の現象。細胞が死ぬ時の生体電気の残響みたいなもんたい」
篠原はノートパソコンのキーを叩いた。
「でも、四月八日以降、そのパルスに対して――返答がある」
沈黙が落ちた。
「返答?」中村が聞き返した。
「死の瞬間に微弱な電磁波が出る。すると、約三分から十五分後に、外部から別の電磁波が届く。周波数は14.7ギガヘルツ。変調パターンは毎回異なるが、基本構造は同じ。そしてその信号を受信した直後に――遺体が動き出す」
美咲が口を開いた。
「それって……誰かが、信号を送っとうってこと?」
篠原は美咲を見た。
「わからん。山際先生もそこまでしかわからんやった。ただ、信号の発信源を三角測量で特定しようとした記録が残っとう。三箇所の観測点で同時に記録すれば、信号がどこから来とうかわかる」
「で、わかったと?」中村が前のめりになった。
篠原は首を横に振った。
「観測点が二箇所しかなかった。京都の研究所と、共同研究先の九大――私の研究室に置いた観測装置。三箇所目を設置する前に、京都が陥落した。でも、二点からの方位角だけは記録されとう」
篠原は紙にペンで二本の線を引いた。福岡と京都から伸びる二本の線。
「私が山際先生のデータを持っとうのは、共同研究者やったけん。四月に入って先生から直接データが送られてきた。『何かあったら、これを頼む』って」
「この二本の線の交点が、もし三点目で確認できれば、発信源がわかる。山際先生の最後のメモにはこう書いてあった」
篠原はファイルを一つ開いた。手書きの文字をスキャンしたものだった。
# 「信号は上から来ている」
全員が、反射的に天井を――空を見上げた。




