番外編三 旅の恥は……
今日は家族で旅行に来ている。発展したエクレシアを見せるため、クラリッサと三歳になる双子、護衛達を連れて。
旅行と称した視察のようなものだ。因みに変装はしている。今の俺は黒髪だ。とても懐かしい。ウィッグだが、ずっとこれで生活していたい。
オリヴァーも行きたがったので、帰って来たらもう一度向こうへ行くことになる。両親はサージスに居る方が楽しいらしく、お断りされた。
今回の竜飛車は八人乗りを二台。男性組と女性組で分けている。
俺の方を引くのは勿論ヒリュウ。御者係は俺だ。ヒリュウは竜族から竜人族に進化した個体よりもずっと賢いので、御者というよりは話し相手の面が強い。飛行中、暇だろうから。
今回はクラリッサが国を空けている事もあり、なる早でエクレシアまで飛んでもらった。オリヴァーが残ってくれているとはいえ、国王代理としての来客対応とかも有るし、クラリッサが担っていた仕事を全部オリヴァーとルナで出来るわけがない。滞在も二日くらいにしておく予定だ。
ただ下の子、リタはいずれサージスの王族としてエクレシアのトップになる。護衛隊から志願してくれて、リタ専属護衛になったシノと数名のお世話係と共に、一ヶ月程滞在する事になる。
俺も一ヶ月ずっとは無理だが、暇を作って会いに行くつもりだ。リタは幼児らしく寂しがりでもあるからな。それに、放置しすぎてシノっ子になったら俺が悲しくなる。
上の子ウナはクラリッサと一緒に二日の旅行を終えたらすぐに帰る。ウナは俺が嫌いなのか、会う度に引っ叩いてくるからちょっと近寄りがたい。
俺がクラリッサを恋愛対象として見ていないのに気付いて不快になっているのだろうと思っているが、本当の所は分からない。クラリッサと先に帰る様に言ったら俺と一緒じゃない事を喜ばれたので、嫌われようが窺える。
今回の宿泊場所はルーカスの屋敷。城ではない。城は学校兼図書館になったので新たに建てた。
貴族制度を廃止したから王宮主催のパーティーなんかも無くなったわけで。大きさや豪華さよりも利便性重視で建ててもらった。
パーティーホールも大ホールが一部屋、小ホールが一部屋とかなり減らした。世界のエテルニオンの王宮にはパーティーホールだけで五部屋くらいあるらしいけどエクレシアにはこのくらいが丁度良い。
因みに内装モデルは無い。徹夜明けでハイになったロイが建築担当に無理言った結果だから、ロイ本人にもほぼ記憶が無い。
失業対策をするのは本当に大変だった。
特に王侯貴族を対象にした服飾師。金持ちはどこにでも存在するが、頻繁に開かれていたであろうパーティーが無くなることでコンスタントにオーダーが入らなくなるので、代わりとなる公共事業への斡旋とか、商会との提携とか……。思い出しただけで倒れそうになるレベルで大変だった。
「ちちうえ……? だいじょうぶですか?」
思わず口を押えてしまった俺をリタが心配してくれた。ああ……罪悪感。この優しい子を同じ目に遭わせないためにも俺が頑張らねば。中央に寄った顔パーツを戻し、笑顔を向けた。
「大丈夫だ。さ、行こう。ルーカスを待たせてる」
はぐれないようにとリタを抱き上げ、屋敷の門番に身分証を見せた。本当はクラリッサとウナの様に手を繋ぐのが一番なのだが、身長差があるから……。このままだと俺は腰痛待ったなしだし、リタは肩関節が外れるかもなので。
案内役の男性に付いて行くと、応接室に通される。
「ご無沙汰しております。フェリーチェ陛下、王妃殿下、王女殿下、王子殿下」
「ルーカス、二週間ぶりくらいだな。紹介するよ。姉のウナと、弟のリタだ。リタにはルーカスの後を継いでもらうから今後もよく会う事になると思う」
「ルーカス・エクレシアと申します」
ルーカスは二人が生まれた頃に一度だけサージスに来ているが、二人は覚えていないだろう。三年前よりもがっしりした男性らしい骨格になっている。ヴィンセントも同様に。
「はじめまして。ルーカスどの。リタ・サージスです」
「ウナ・サージスよ」
「今回は今日含めて二日間の滞在になる。三日目以降はリタが残る事になるから、人員配置はよろしく頼む。俺はいつもの所に泊まらせてもらうよ」
「承知いたしました。近いうちにリタ殿下のお部屋と、こちらでのお世話係も用意させていただきます」
「ありがとう、ルーカス」
部屋に案内してもらい、荷物を置いたら観光スタートだ。時間が無いので転移で行く。定員の問題で同行するのはヒリュウだけになってしまうのが申し訳ない。
「さて。どこに行きたいんだ?」
「私は貴方の故郷に行きたいです」
「故郷……元エトワール伯爵領か。今は全部果樹農園になってるけどそれでも良ければ行こう」
クラリッサの希望で元エトワール伯爵領跡地へ行く事になった。
地図タップ転移で領の入口まで行くと、かつての建物は領主館含め全て壊され、リンゴの木が大量に植わっていた。地属性の人達が土の改良をしたので十年で世界一とも言われるまでに成長している。
「わあ……! 綺麗……!」
丁度収穫期だということもあり、リンゴは鈴生りだ。クラリッサはウナの手を引いて農家の家らしき所に話を聞きに行った。
リンゴ農家の人達は休憩中だった様で、俺達に気付くと軽食にとっておいたというリンゴを分けてくれた。
「ありがとうございます。あの……」
一人一つという破格の対応に目を瞬きながらもぎたてリンゴの丸齧りを楽しんでいた俺は、お礼を言ったリタの次の言葉でリンゴを喉に詰まらせかけた。
「フェリーチェ・サージスについてどうおもわれますか?」
本人の前で何て事を……!
「わ、私も聞きたいですわ!」
クラリッサも乗るんじゃない! 旅行先で地元民を困らせるな……!
だが、ここで俺が下手な事を言うと変装した意味が無くなる。この人達は何度も俺と品種改良の為に話をしていて、俺の顔を知っている筈。
俺が変装したのは家族旅行を知り合いに見られるのが恥ずかしかったから。正直今もバレているんじゃないかとヒヤヒヤしている。
ほらこっち見てる……! リタもクラリッサも頼むから気付いてくれ…………。
「そうだなあ……俺達に未来をくれた人、だな」
うっ……。
「貴族の横暴をなくしてくれた素晴らしい方よ」
ううっ……。
「そうそう、息子達に勉強の機会も与えてくれたし」
うううっ……。
「わしらみたいな人間にも気さくに話しかけてくださる」
ぐはっ……。
もうバレてるわ……。皆チラチラこっち見ながら笑ってる。
「もう……勘弁してください…………恥ずか死ぬ」
「フェリーチェ様……」
「ヒリュウ……」
「ご安心ください。古今東西、恥で死んだ者はおりません」
何か違う。フォローの仕方が何かズレてる。俺だってほんとに死ぬとは思ってないんだよ。言葉の綾というものだよ。
「やはりフェリーチェ様でしたか」
「という事はこの方々は……」
「妻と子だ……」
もうやめてくれ……俺は限界だ……。気不味いやら恥ずかしいやらで。
「そうでしたか~……では、お祝いを持ってきますね」
女性農家がそう言って小屋に入り、採れたてリンゴを使って作ったというパンとパイを持って来た。
「どうぞ。お祝いに」
「あ、ありがとう……大切に食べるよ……」
頬が引き攣っている気がする。けど、きっと気のせいだ。
その後クラリッサが帰りたいと言い出してくれず、俺は農家達に囲まれて散々揶揄われた。全く……男子高校生か。俺は無駄に辱められて終わった。それで一日目が終わってしまったのだ。
何であんな事を質問したのかリタに聞いてみた。そしたら「自分が将来治める事になるから、先輩として父上がどう思われているのか知りたかった」と言われた。君は本当に三歳なのだろうか。にわかには信じられない。
よく俺やオリヴァーの執務室に入り浸り、勉強にも精を出しているリタ。リタなりの考えが有ったのなら許す。旅の恥はかき捨て、という言葉が存在するからな。俺の場合、微妙にかき捨てられないけど。
翌日もリタは同じ質問を違う職種の人間にして回った。その度に恥ずかしさでどうにかなりそうだったが、息子の成長のためだと言い聞かせて我慢した。俺、偉い。
俺が賞賛されるのが気に食わなかったのか、ウナはクラリッサを連れて屋敷の探検に行ってしまった。まあ、二人が居ない分シノを観光に連れて行ってあげられたから別に良いけどさ。
俺の計算外だったのは、シノが俺を信者レベルで慕ってくれていた事。街の人が俺に向けた賞賛に同意して回り、更には私生活までバラされ、恥ずかしさが倍以上になった。
対抗するようにヒリュウもシノに乗っかるから、最早恥ずかしいを通り越していたたまれなくなった。新手の新興宗教かと思われていそうだ。
今度は一人で街に降りる時、ガチガチに変装して行こう。




