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番外編二 強制休憩請負人


「お待たせしました、シルヴェリス王」

「時間前だし平気平気」



 今日、俺はシルヴェリスと一緒にエテルニオンに新しく出来たスイーツショップに来ている。時々俺をこうして連れ出すから、サンとヒリュウからは『フェリーチェ様強制休憩請負人』と言われているらしい。とても長い肩書きである。



「じゃあ、今からは王呼びと敬語無しね、フェル」

「ああ、シル兄」


 シル兄呼びはシルヴェリスに言われてやっている。流石に公共の場で堂々とシル兄呼びは出来ないから王を付けているが、市井に出る時はずっとこれ。数年で大分板についてきた。


 もう四十代のシルヴェリスを兄呼びはどうかと思ったのだが、初めて出会った時から顔が全くと言って良い程変わっていないのでセーフ。




「ここだ」


 外観はとってもファンシー。これこそスイーツショップって感じだ。くすみピンクとくすみグリーンを基調とした可愛らしい店内には、予想通り女性ばっかり。この世界って中々男性のスイーツ文化が広がっていかないんだよな。


 こういうお店には大体ドレスコードが暗黙の了解的に有るのでいつもシルヴェリスに見繕ってもらっている。


 建国から十一年。二十一歳になった俺は成長期も終わったのだが、シルヴェリスには「どれだけデカくなるの?」と聞かれてしまった。

 この世界では百九十の男って人間には中々居ない。俺の知り合いだとハイリーくらいだが、俺はハイリーよりも背が高い。



 女性視点だと自分よりも四、五十センチ高いピンク頭の大男が美丈夫を連れて入って来た図になる。

 仕方ないとはいえ、悲鳴が上がった時はちょっと凹んだ。


 シルヴェリスが慰めてくれたけど、それが俺の悲しみに拍車をかけている。シルヴェリスも小さくはないのに何で俺は悲鳴を上げられて、シルヴェリスが歓声上げられるんだ、と。



 シルヴェリスの奢り、という事でドカ食いさせてもらった。

 モンブラン、タルト、ショートケーキ、マフィン……。


 こちらのも美味しい。

「美味い美味い」

 怖がられてさえいなければ、悪い意味で注目されていなければもっと美味く感じた筈だ。


「怒ってる?」

「別にぃ」

「フェルはいつでも可愛いよ」

「可愛いって言ってほしい訳じゃないし」

「よしよし」


 シルヴェリスは一体いつまで俺をお子ちゃま扱いするんだろうか。頭を撫でられて機嫌を直すなんて、一ケタまでじゃなかろうか。俺が初めて月例会に参加した時からお子ちゃまとして扱われてたけどさ。二十五年の差って怖い。



「ほらぁ、機嫌直してよ。次は別荘に招待してあげるからさ」

「シル兄はサージスに来なくて良いのか?」


 俺の言葉にきょとん顔を披露するシルヴェリス。それは思い付かなかった、と言いたげだ。



「来ないのか?」

「い、行く。死ぬ気で仕事する」

「死ぬ死ぬ。ほんとに死ぬから」


 仕事中毒はやめてほしい。死ぬ気とかじゃなくて、本当に死ぬから。俺の心の平穏の為にも仕事は抑えめで。



 え? 俺も似た様な物? ……善処します。


 という事で。急ぎの仕事を何とかしたからサージスに連れて行って、という連絡を連絡竜ネスから貰い、竜飛車でひとっ飛び。転移は何か情緒が無くて旅行には嫌らしい。我儘め。まあ、こっちに竜飛車代が払われるから得ではあるんだけど。



「前来た時からすごい変わったね」

 前って……もう十年近く経つぞ。そりゃあ、変わる。


「どうだ? シル兄。結構発展しただろ」

「うん。空き地が大分減ってる。それに、あんな建物あったっけ? 場所的には多分、コンサートホールだけど……」


 この国で一番大きい建物、コンサートホール。前にシルヴェリスが来た時は所々足場が組んであったが、今は違う。少し前に完全体を迎えたのだ。



「見てみるか? 今日は特に何の演目も無いから見学出来るぞ」

 音楽隊の拠点である小ホールは全くと言って良いほど変わっていないが、大ホールはとてつもない進化を遂げている。



「行く!」


 ルンルンのシルヴェリスを連れてエントランスに入る。エントランスは地元にあったホールを参考に、休憩スペースや飲食店を入れている。



「エテルニオンのホールとは全然違うね。装飾もライトもカーペットも無い」

「このホール、ガラス張りだから光は入って来るんだよ。夕方とか天気が良くない時は目立たないように配置したライトが作動する。カーペットとか装飾は掃除が大変だから」


「でも、こういうのも好きだなぁ」


 人魚族が生成した白い大理石の柱に手を添えて、うっとりとした表情を浮かべるシルヴェリス。こら。ただの柱に色気を振り撒くな。R指定が付くぞ。



 このままでは色気にあてられて死人が出そうなので柱から引っぺがしてホールの方に連れて行く。

 とくと見よ。これが進化した大ホールであるぞ。




「……! ……! ……!」


 ステージを指差しながら俺の腕を掴んでブンブン上下に振るシルヴェリス。興奮し過ぎて声が出ていない。



「エテルニオンの商会とスポンサー契約をしていたからな。宣伝も出来るようになったし作ってもらったんだ。パイプオルガン。どうだ?」

「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい……」

 完全に語彙力が消し飛んでるな。とても王族とは思えない若者言葉が出ている。



「最高だよ! ねね、演奏しても良い? ぼく、パイプオルガンもちょっとは弾けるんだ!」

 これが本当に四十代なんだろうか。すごく眩しい。


「良いぞ。シル兄の休息日だからな」



 音楽隊の演奏だけならパイプオルガンは使わなくても良いが、サージスは海外からプロの楽団も演奏に来るようになった。中にはパイプオルガンを使いたいという人も居るだろう。という事で用意した。とても豪華だ。


 俺はパイプオルガンは全く分からない。有名所というと、アメイジング・グレイスとか結婚行進曲だろうか。



 その程度の知識だったが、商会の人達は打診したら二つ返事で引き受けてくれた。ありがたや。



 シルヴェリスが弾いた曲、名前は無いらしい。何でも、小さい頃自分で作ったのだとか。王子教育とか王太子教育のストレスから逃げる為に趣味で。

 シルヴェリスの髪事情が少し心配になった。四十代になった今でもフサフサだけど、将来的にどうなるか分からない。



 意味が有るかは分からないけどパイプオルガンを弾く後ろ姿に、禿げませんようにと祈っておいた。もし禿げても治癒魔法が効くなら生やしてあげるから心配しないでほしい。

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