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八十一話 クラリッサとの茶会


 ルーカスをエクレシア領の領主に据えてからは、目の回るような忙しい日々が始まった。


 サージスの事、偶に呼び出される竜ヶ丘の街作りに対するアドバイス、魔族誘拐の根絶、魔族の勧誘、ヒリュウとの稽古、シルヴェリスからの食事の誘い……。そこにエクレシアの街作りも加わったのだ。



 本格的に分身したい。


 今なら喋りながらでも眠れそうだ。疲れ過ぎて。



 そして改めて実感する。エクレシアは技術の国だと。


 鉱石資源は一切無いが、総合技術は世界一と言っても良い。

 別の視点から俺が提案した事をスルスルと飲み込み、それを自分達の技術で現実の物にしていく。



 エクレシアはもう俺の領地。という事で、樹木型魔物と元々有った林業の木材を組み合わせて、衝撃に強い建物を作った。

 王宮や元領主館を学校に改装する時、折角だからと柱や床に使ったのだ。壁は林業の木材。



 王宮の修繕が出来なかったのはお金の問題も有るが、木材が足りないからというのも有る。植林で少しずつ林業エリアが広がる様にした。


 ルーカスと相談して税率を少し下げ、製紙業の投入と紙幣の発行で最低給金を上げた。硬貨を作るのに使う鉱山資源を輸入しなくて済む様になるからその分だ。



 それから空港と旅客船の停泊所も作った。エクレシアは他の国と陸続きになっているから今までは漁業用の小さな港しか無かった。

 だが、サージスとのやり取りをするには空と海に路を作る必要が有る。



 その建設でかなりの種類、雇用が生まれ、いくつかあったスラム街というやつが無くなった。子供達はルーカスが運営している養護施設に全員預けられ、王宮をリフォームして作った学校へ通う手続きをする事になる。



 エクレシアには他国が弱い部分を担ってもらいたい。


 この世界は農作物のクオリティーがとても低い。ライムみたいな農業者の小人族が居なければいつまでも低いままだろう。そこでエクレシアが出てくる。主食になる小麦は勿論、果樹にも力を入れて欲しい。



 シロップ漬けに頼らなくても甘い果物が食べたい。いずれは果物といえばエクレシアだと言われるくらいにしたい。そういった話をすると、農家の人達がすごいやる気になってくれた。やっぱり職人気質だな。


 それでお酒やお茶が作れると売れることは間違い無しだ。宣伝ならいくらでも出来るし、月例会は盛り上がるだろう。



 エクレシアでこれは凄い、と思ったのはもう一つ。アクセサリー作りが有る。飾りボタンをいくつか見せてもらったのだが、模様の緻密さが半端じゃない。



 世界のエテルニオンの王、シルヴェリスも「ここまでの技術、うちの王室ご用達職人にも負けてないよ」と目を丸くしていた。


 服飾なら何でもござれなミラも「アタシも負けていられないわ」と言うくらい。



 エクレシア陥落から五年が経った今は、色々なジャンルの職人が集まった大きな商会が沢山作られ、前世で言うブランド品という物が出来上がった。平民の手取りが上がったり、税率が下がったりと前よりもお金が貯めやすくなったという事で、王都だとよく見られる様になった。



 学校の制服も専門商会が出来た事で、少し前まで寂れていた国とは思えない変わりようだ。



 そして、サージスの方も発展を続け、国外の商会支部も少しだけ導入した。旅行客や移住者も増え、建設ラッシュ続きだ。


 この間の月例会で、武術の世界大会を開催することも決まり、初めての会場にサージスが選ばれた。



 種目は、剣技、体術、流鏑馬の三つ。他にも細かい武具は有ったりするのだが、騎士の履修人口がずば抜けて多いのがこの三種目だから。


 大きな問題は無く順調……と言いたいところなのだが、今、とても大きな問題を抱えている。





「またお茶の誘い……」


 そう、俺が十六歳――この世界における成人年齢に到達してしまった事。婚約者という存在を決めなければならなくなった。

 成人パーティーの振袖納品日から、ずっと俺に求婚し続けている家が有る。それがスウィート公爵家。



 そこの長女、クラリッサから何度も何度もお茶の誘いを受けている。他の貴族からも釣書が大量に届いている。顔も知らない人からも来ているから、若い王って凄い。



 俺の次に若い王って、ルーク王とシルヴェリスの四十一歳。しかもどちらも既婚者。四十代の第二夫人以下を狙うよりも十代の正妃になりたいのだろう。


 俺も分かってはいる。ルーカスは自分の子供に後継ぎをさせられなくて、俺の子供が将来サージスとエクレシアを担う事になる。だから、いつか向き合わないといけない問題だってのは分かっている。分かっているけども。



「理久への想いを捨てられない俺が悪いんだよなぁ……」

 俺が向こうで死んでから十六年。そろそろ吹っ切れないと。


「クラリッサの誘い……受けるか……」


 俺は誘いの手紙に返事を出し、何か着ていける服は有るかとクローゼットを漁った。




「来てくださって嬉しいですわ」

「誘ってくれて、ありがとう」


 一週間後、俺は転移でスウィート公爵家のガーデンテラスに行った。この日の為に仕事を徹夜で片付けて、三日間の休暇申請を通した。今日から三日間、ヒリュウとサンもお休み。俺はクローシアを満喫する。



「お疲れでしょうか?」

「いや、何とも無い」

 めっちゃ眠いけど、数時間お茶するくらいなら何とか大丈夫そう。



「俺が紅茶飲めないの、覚えててくれたんだな……」

 ガーデンテーブルに置かれていたのはケーキセットと果実ジュースの入ったグラス。


「ふふんっ! お慕いしている殿方の好みを忘れるはずがありません!」

 お慕いしている殿方、か……。クラリッサはずっと、俺を好いてくれている。五年以上、真剣な気持ちから逃げてばかりいる俺を。


 クラリッサは今二十一歳。貴族令嬢としては、婚期を逃した行き遅れと揶揄される。



 今日こそ応えないといけない。

 深呼吸をして、椅子に座った。


――――――――――――――――――――


 フェリーチェと喋りながら、クラリッサはどうしたものかと思案していた。プロポーズをするつもりで茶会の誘いを出したものの、現れたフェリーチェは、顔に『休ませろ』と書いてありそうなくらい疲弊していた。



 果実ジュースを飲みながらクラリッサの話に相槌を打つフェリーチェの目はほぼ閉じられている。


(プロポーズは明日に変更ね……)

 ドサッと椅子から落っこちたフェリーチェを肩に担ぎ、クラリッサは昔フェリーチェが泊まった客室に連れて行った。



「ん……あれ……」

「まだお休みしていないといけませんわ。お茶会の途中で倒れてしまいましたのよ?」


 フェリーチェはものの数十分で目覚めた。起き上がろうとするフェリーチェをベッドに押し込み、軽食を用意させようとしたクラリッサはフェリーチェに呼び止められる。



「すまなかった……。実は、言わなければならない事がある……」

「……聞かせてくださいまし」


 ベッドサイドの椅子に座り直したクラリッサは、続きを促す。

「俺は、恋愛が出来ない。誰か一人を特別に想う事が、出来ない……」



 そこでクラリッサは、この五年間で盗み聞きしたフェリーチェの発言達を思い出す。


『結婚はまだ考えられない』

『俺は臆病なんだよ』



 これはリヴと結婚し、挙式を終えたオリヴァーとの会話の中でフェリーチェが漏らした言葉だ。


(つまり、私からの告白を流していたのは、私に原因があるわけじゃなくて、単に恋愛するのが怖いから……ってこと?)


 クラリッサはここでフェリーチェを丸め込む事に決めた。婚約書への署名は別日でも良い。とにかく弱っているフェリーチェに『うん』と言わせれば勝ちなのだ。




「私は、女性としては変わっていると思いますの」

「……?」


「自分が抱く愛と同じ愛を、好きな人から与えられなくても良い。家族愛でも、友愛でも、恋愛でも。愛であることに変わりは無いのですわ」

「俺が、君を恋愛対象として見られなくても良い、という事か……?」


「正直、その方が安心しますわ。恋愛は熱しやすく、冷めやすい。でも、家族愛や友愛なら長続きしますもの」




 クラリッサの母は、過去に婚約破棄をされている。現公爵アルストロと出会う前に。相手は伯爵家の令息で、一目惚れしたと言ってクラリッサの母エルサを婚約者にした。


 しかし、十三歳から十六歳まで通う学園で、エルサは当時の婚約者に捨てられる。一時の熱に浮かされた婚約者に。



 そういった経験から好きな人から向けられる愛の種類は、必ずしも恋愛感情でなければならない、という拘りは無いのだ。









「…………婚約を、受けよう」


 聞き逃しそうなくらい小さい声で、フェリーチェがそう呟いた。もう一度、とクラリッサが思った時には既にフェリーチェは眠っており、夢か現実かを判断するのに少しの時間を要した。


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