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八十話 陥落


「大体分かった」


 月例会から戻ってすぐに幹部会議の招集をかけた。今回ばかりは情報伝達が早い方が良い。俺のものになった国を貴族に土足で荒らされるのは気に入らないからな。



「とりあえず、ルーカスとサンを連れてエクレシアの案内をしてもらおうと思う。ヒリュウ、竜飛車で行きたい」

「かしこまりました。その様に準備します」


 俺がヒリュウ以外の竜が動かす竜飛車に乗ろうとすると、ヒリュウを苛立たせる事になるのでそういう風に言った。



「それとロイ」

「はい」


「エクレシア全土の地図が欲しい。今抱えている仕事は有るか?」

「ポンにデザインを上げた直後なので、特には」

「なら一緒に来て欲しい」

「かしこまりました」


 サージスで詳細な地図を作れるのはロイだけ。ロイは弟子を取って教えてはいるが、今はロイじゃないと出来ない。建築デザインも出来るロイなら一緒に着いて来てもらった方が良い。




「オリヴァー」

「うん、こっちは任せて。フェリーチェが間に合わなくても生誕祭が出来る様に動いておく」


「ありがとう。後は……」

「フェリーチェ様」

 必要な人員を紙に書き出していると、アレンが挙手をした。




「どうした? アレン」

「僕と何人かの弟子を連れて行ってください」

「しょくざいは、ボクがだしてあげる」


 確かに。食事係は必要だな。エクレシアは困窮しているし、ライムの協力もありがたい。




「分かった。竜飛車は八人乗りを二台体制で行こう。エクレシアの騎士も一人連れて行く。エヴァン、竜騎士を一人と護衛隊から何人か頼む」

「では、シノをリーダーとして三人配属します」


 シノがリーダーは超助かる。護衛隊で一番視力が良く、弓の実力はサージスで一番。そして、自分の護衛対象に害を為そうとする奴への容赦が一切無い。

 万が一ヴィンセントが対応出来ない敵が来ても安心だ。ヴェルザードも居るから余程腕に自信が無いと襲撃は出来ないだろう。




「ブランはどうすれば良いの? また、行くの?」

「いや、エクレシアの騎士たちを見張っててほしい。迎賓館の厨房スタッフも、ブランに味見してほしい菓子があるみたいだ」


「お菓子……! すぐに行ってくるの」

 パタパタと慌ただしく出ていくブラン。言うの、早かっただろうか。




「じゃあ幹部会議はここまでにしよう。ルナ、ルーカスとヴィンセントをサージス国民にするから準備しておいてくれ」

「分かりました」

「では解散!」


「「お疲れさまでした」」


「じゃあ、二人は俺について来て」

「「はい」」




 エクレシアには平民は戸籍登録や住民登録がされていなかったが、ここではルナの部下がサージス国民全員の戸籍を管理している。

 登録は簡単。名前や職業等を指定の用紙に記入するだけ。それを書き終わると、身分証明カードが発行される。




 二人も難なくカードを手に入れ、晴れてサージス国民となった。後は一度サンとヴェルザードを派遣して王族名簿を発見、ルーカスと血の繋がりが有る人間がこの世に居ない事を確認してから燃やしてもらった。

 前国王、王妃共に死亡していて親族もいないらしい。サンは火属性一級なので超高火力が出せる。灰すら残さず抹消してくれた。



 食材の用意や人員派遣、急ぎ仕事の片付けを済ませ、出発したのは生誕祭一週間前。これは間に合わんな……。作業しながら国全体を確認して、貴族を粛清したり掃除したりしてってなると一週間じゃとても終わらない。帰国は早くても年明けになるだろうから。



「じゃあ、出発しよう」


 無限収納に自分の荷物を仕舞い、御者台に座る。他の皆の荷物はトランクケースに仕舞って座席の下に置いてある。



 エクレシアまでは大体十時間くらい。ヴェルザードとサンが超特急で行って片道八時間くらい。


 普通の竜飛車で行くとなると、プラスで二時間はかかるだろうという読み。エクレシアには国際空港が無いから王宮に併設されている騎士団の訓練場に停めるつもりだ。

 そこなら広さがあるし、着陸の時に誰かを巻き込んで事故る心配も無い。



 そして想定より少し長めの十一時間の飛行を経て、エクレシアの王宮に到着した。


 宣戦布告をしてきたタプタプ達は流石にもう戻っていたよう。急に現れた異物の報告に血相変えてやって来た。



 やっぱり王宮に居座ってたんだな。俺は完全武装にビビリ散らかしているタプタプ達に、俺とルーカスのサインを入れた公文書を見せた。


 今回の作戦にあたり、ルーカスはあくまでも国王代理としてサインしたに過ぎないというシルヴェリスからの公文書も併せて見せた。



「な、な、なにをした!」

「言いましたよね。三日で終わらせるって。終わったのでその報告です。国王は貴方だと伺っていますし、まずはご挨拶にと」


「勝手なことを……!」


「貴方の帰国があまりにも遅くて……戦勝国の王がわざわざ出向いてあげたのです。守護者の力で殺されたくないのなら、国中の貴族当主を集めろ。男爵から公爵まで、全部だ。すぐに集めろ。異論は認めない」



 コイツを殺す気は無いが、ルーカスを殺さなかったという事は、宣戦布告の責任をルーカスに丸投げして死んでもらおうという算段だったのだろう。

 生にしがみつくこのタプタプなら、俺がちょっと殺気交じりにそう言えば簡単に従ってくれる。



 今のエクレシアは冬で、貴族は王都のタウンハウスから領地のカントリーハウスに引き籠っているのが殆ど。休憩や宿泊もあるので一週間以上かかる事もザラに有るのだとか。

 まあ、そんな事は俺に関係ない。乗り換えを駆使して来てもらおう。



「早く。死にたいの? エトワール伯爵の二の舞になりたいのならご希望に添えるようにするけど?」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


 重そうな体を全力で持ち上げて、タプタプは王宮の中に戻っていった。

 全員が揃ったのはそれから四日後。まあ、及第点。



 この四日間は王宮の使用人を片っ端から懐柔したり、地図班は国中を飛んで回ったりと忙しくしていた。ルーカスは王都の孤児院に行ってアレンの弟子と炊き出しをしていた。



 それとなく街の人達にも聞いてくれたみたいで、王都の人間でも国王の顔を知っている者は居なかったらしい。


 ルーカスはいつも家名を名乗らず、服もそこまで煌びやかではなかったから目の前に居るのが王だとは思えないのだろう。しかも、ルーカスが国王であれば、という人も居たらしい。

 計画通りどころか、良い方向にしか進んでいない。




 後は貴族。一応謁見の間は存在したのでそこを使う事にした。


 サンは姿を消してヴェルザードと共に入口を守り、ヒリュウはシノと共に俺の近くに控える。後はタプタプ達を謁見の間の外に拘束すれば準備は完了。ルーカスも謁見の間の外で待機している。



 そして、集まり、隊列を組んだ貴族たちの間をすり抜けて玉座にドカッと腰掛けた。

 足を組み、恐怖を与えるための笑顔を作る。



「まず。この部屋に入った時点で君達に魔法を掛けた。こちらに危害を加える様子が有れば、作動する。少し見てもらおうか。どんなものか」


 まずは戦意を喪失させるのが大事。


 俺がずっと練習していた、人間の体を蒸発させる魔法。それをここで披露する。材料は一つ。俺が練習台にしていた肉塊。



「こ、これは……」

「さあ。誰のだろうな」


 俺がエクレシアの貴族を一瞥した瞬間、肉塊は炎上。二秒ほどで炎諸共消滅した。



「逃げた場合、抵抗した場合、俺を不快にさせた場合。これが作動する。精々気を付ける事だ。では、本題に入ろう」


 両サイドのヒリュウとシノが二枚の公文書を読み上げる。終戦の事、国王の事、今後のエクレシアの処遇等々。徐々に貴族の顔色が悪くなっていく。




「ふざけるでないわ! 我らをどこまでも愚弄しおって!」

 後ろの方に居た貴族の一人がこちらに向かって剣を抜いた。


「敵意有り、と……さようなら」



 瞬間、その貴族は煙を残して消えた。


 本当は蒸発させる魔法ではなく、俺の半径二メートル以内に来た人間を地下牢に転移させる魔法を掛けている。

 大事な労働力。死なれちゃ困るからな。転移の瞬間に俺が火魔法を使えば、あたかも蒸発したかのように見える筈だ。



 地下牢の看守はエクレシアの騎士を使って懐柔済み。俺が連れてきたのは騎士団最強と謳われている騎士で、看守はすんなり従ってくれた。



「……まずは一人。次に消えたいのは誰だ?」

「う……うおぉぉぉぉぉぉぉ!」


 雄叫びを上げて、一気に十人が剣を抜いて向かってくる。しかし、彼らも儚く地下牢送りに。



「……これで十一人。さて、皆が静かになるまでに何人が消えるかな……?」

「な、何が望みだ……!」


 語気は強めるものの、剣は抜かずに一番前に立っていた貴族がそう吐く。




「俺はエトワール伯爵家の影響で貴族が嫌いでね。貴族の家は例外なく取り潰すつもりだ。資産も権力も没収……」

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「はい。これで半分以下まで減っちゃった」



 前に居る貴族は全て見ているから手を出してこないが、後ろに居る奴らはもう殆ど居なくなった。もう前三列くらいしか残っていない。後ろの方で残っている人は、貧乏貴族っぽい出で立ち。



「ちゃんと最後まで話を聞いてもらわないと。ただし、領民が領主に君達を望めば、為政者の一人として認める。だが、領内独自のルールは認めないし、数年に一度、再選考する事になる。選考に受かれば現在の屋敷が使える。落ちれば受かった人間に明け渡してもらう。そうそう、賄賂が見つかったらその時点で立候補資格は剝奪だからそのつもりで」


 貴族たちの反応はここで二分された。絶望する者と自信に満ち溢れる者。自分は破滅する、と言う者と、高貴な血を引く自分が選ばれないわけがないとたかを括る者だ。



「まだまだ有る。この王宮や貴族の屋敷についてだ。リフォームして学校を作ってもらう。王宮は今いるメインの建物を全て学校の校舎とする。別で大きな学校を建てる事もまあ出来なくはないが、エクレシアには金が無いからな。安定して収入を得られる目途が立ったら考えてやる」


 これは俺がルーカスに言われた事だ。自分の住処は粗末な物で構わない。だから王宮を学校に改装してくれ、と。



 寮を作って、校舎を作って。図書館を作って。子供達に光を与えてほしい、と。ルーカスという名には、『光』という意味が込められているらしい。


 名前に違わぬ提案だ。王宮勤めの使用人は基本的に学が有るので教師にしても良い。料理人には給食を作ってもらったり、寮での食を支えてもらう。

 出来るだけ廃業する使用人が少なくなるようにルーカスが采配をしてくれるそうだ。



 王の住処が建設されるまでは離宮にでも住んでもらう。


「それで、今回の騒動を引き起こした国王の処罰と、新たな王を紹介しようと思う。入ってくれ」


 ギギギと音を立てて、団子状に縛られたタプタプと、民衆が推薦した次期国王が入室する。ルーカスはこの数週間で、かなり肉付きが良くなった。


 肌質や髪質も変化した。ミラお手製の正装を纏い、母さん達に散髪もしてもらったからか、昔の面影は一切無い。



「今回の騒動を引き起こした国王は、公開処刑。そして、新たな指導者にルーカスを指名する。これから新たな時代が始まる。ルーカス・エクレシアと名乗り、サージス国エクレシアの発展の為に力を尽くしてくれ」

「拝命いたします」


 ここで言う公開処刑は、現代日本で使われるタイプの公開処刑だ。みんなの前での自己紹介や発表等がそれに近い。

 恥ずかしい部分を丸出しで磔にされるのだから、公開処刑と言っても良いだろう。



 そして、エクレシアは今日を以て国ではなくなる。サージス国の領地の一つとなるのだ。海を隔てているから代表を付けているだけであって、陸続きなら新たに指名はしていなかった。



 因みに、サージスの戸籍はルーカス・エクレシアとなっている。王家の戸籍を燃やしたからもう良いや、という事で。



「ルーカス・エクレシア……? 彼が……?」

「ルーカス陛下がその国王ではないのか……?」


「異論があるなら消すが、異論は無いな?」


 ザワついていた貴族達が水を打ったように静まる。



「連れて行け」

「はっ」


 連れて来たエクレシアの騎士にそう指示を出し、解散。残った貴族達を客室に押し込む。部屋が足りない分は客室に併設されている使用人部屋に。

 そして、地下牢に向かった。



 ここから出してくれと騒ぎ立てる貴族達。もう動物園の舞台裏だろこれ。


「気分はどうだ? 従う気になったか? 転移までの一瞬とはいえ、かなり熱かった筈だ」

 髪がチリチリになっていたり、服の大半が無くなっていたり、火傷していたり。




「感謝しろよー。俺の部下に任せてたらあっという間に消し炭だからな?」


 サンもヒリュウも、俺が何とかするって言っていなければ遠慮無く炎上させていただろう。周りも巻き込みかねない勢いで。俺の言葉に頷くサンとヒリュウ。そこは頷かないでほしかった。冗談で終わらせてほしかった。



 一気に回復魔法を掛けて、もう一度聞く。


「で? 従う気になったか?」





 貴族達は無言でコクコクと、もげそうなくらい縦に首を振り、エクレシアは陥落した。


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