七十七話 戦の終わり
宴会の熱そのままに、最終日の三日目を迎えた。
準決勝は四組。サージス三組とエクレシア一組。両チーム二組ずつっていうのが良かったんだけど、俺達の想定以上にエクレシアが弱くて。
残った一組も、騎士団長等の幹部クラスの人達。大丈夫かエクレシア、と言いたい。
全員軽傷を負っていたのでそこはしっかり治しておいた。国の今後を左右するような勝負事だ。両チームハンデが無い状態でやらねば。
準決勝はヒリュウも出る。昨日のサンの試合を見て火がついてしまったようで。
しかも、サンとは別のチームに入って。サンと勝負する気だな。サンはサンで、好戦的な表情浮かべてたし。ヒリュウと戦うとか、俺だったら裸足で逃げだすのにさ。
準決勝一試合目は、エクレシアチーム八人に対し、サンとマオの二人。魔法系の人よりも肉弾戦に特化した人が多く残った印象だ。
ここでエクレシアが敗北すれば、エクレシアの統治権が俺の元に渡る事になる。だが、ここまで俺達は騎士達に良い所を見せてきた。
昨日の宴会で酔った騎士に絡まれた時、一方的に聞かされたから向こうがこっちに抱く印象が悪いものではないと知っている。
あの騎士、俺のことを向こうに残してきた妻だと勘違いしているようだった。酔いすぎだ。因みに酔いが覚めた後しっかり怒られていた。
何はともあれ、家族を持っている人からの高評価を得たからサージスチームには遠慮せずしっかり勝ってきて欲しい。
昨日までの試合では、一対一で戦っているところも見たが、準決勝一試合目は八対二で一気にカタをつけるようだ。全員がリングの上に立った。
今回のルールは昨日と同じ。場外・ダウンはテンカウントでアウト、上空は可、対戦形式は両チームの合意の元決める。武器の指定も無し。各自使い慣れた物で。
それから、俺が守っているから闘技場を破壊するレベルの魔法や剣技の披露も可。まあ昨日はそんな奴現れなかったけど。奥にとんでもない何かを秘めた選手が居るかもしれない、と今日は少しワクワクしている。
「第一試合――はじめ!」
審判の号令で先に飛び出していったのはエクレシアチーム。
流石騎士団長クラス。連携の取れた動きでサンとマオに向かっていく。二人はそれに対して焦ることも無く、どっしりと構えたままだ。
相手チームが二人を捉えた思った瞬間、サンとマオは姿を消した。と思ったら反対側に移動しており、騎士はドサッと倒れ込む。早く移動しながら木刀を打ち付けたようだ。詳細どころか残像さえ見えなかったが。
しかし相手は向こうの陣営でトップクラスの実力者。この程度では終わらない。カウント四で立ち上がる。
サンが自分から一番近い騎士に向かって木刀を一振りすると、その騎士は勝手に場外に落っこちる。単純に風圧がヤバ過ぎたのか他に理由が有るのかは分からないが、その騎士は場外に設置された壁に身体を打ち付け気絶。
テンカウントアウト。これで七人になった。
マオは一人アウトにしたサンを見て、張り合うように一人削った。今回、槍は危険だからと言って使っていなかったマオが、槍の柄部分で薙ぎ払うようにして一人をダウンさせたのだ。
騎士側も剣で対応したが、ここは受け止めるよりも逃げた方が良かった。薙ぎ払われた騎士の近くに居た二人の騎士は後ろに避けたことで衝突を回避した。
剣ごときでは、樹木型魔物から作られた柄は止められない。相手がマオなら尚更。判断ミスの敗北だな。
そして、六対二。マオは槍を背中に仕舞い、木刀に持ち替える。今度は調理する事無く、鮮やかにダウンさせた。
しかし、しぶとい人間はどこにでも居るもので。一人、リーダーっぽい顔の騎士がテンカウントアウトになる直前、立ち上がった。
しかし、それもやせ我慢だったようで、前に倒れ込む。リングの石板を叩き割って。
「石頭……」
「あの騎士だけは怒らせんとこか……」
「そ、そうだね……」
俺とオリヴァーは思わず自分の額をさすってしまった。ルール上、リングの破壊は合法だが奥に秘めたとんでもない力とやらをこんな形で見たくはなかった。
さて、敗者復活戦が無いためここでエクレシアの敗北は決まったわけだが、試合はまだ続行される。
準決勝第二試合はサージス護衛隊チーム対、ヒリュウ率いるサージス竜騎士チーム。ヒリュウが入ったことで、丁度五対五になっている。ここで勝った方がサンのチームと決勝戦で対戦する。
護衛隊チームは魔族が三、人間が二。対する竜騎士チームはヒリュウ以外全員人間。昨日はヒリュウが入っていなかったから人間四人だけで魔族を蹴散らしてきた、最強チーム。
空を制する鳥人族にも勝ち、筋肉量が端からケタ違いな鬼人族にも勝って来た。あのチーム、やけにサージスと当たってたんだよな。
エクレシアチームとは序盤に少しやりあったくらいで、後はずっと身内だった。俺なんかじゃ話にならないくらい強い。
だが、護衛隊チームも負けてはいない。全員、一人で複数人を軽くあしらえる猛者達だ。
一対一の勝負になり、お互い二勝二敗で大将戦になった。ヒリュウと戦うのは、ヒリュウの弟子だったらしい鬼人族の少女。俺は彼女の名前に覚えがないからオブシディアンが付けた子だと思う。
ヒリュウは火属性に偏っており、弟子の少女は見たところ水属性に偏っていそうだ。
先攻は珍しくヒリュウ。一気にたたみかけて潰す気だろう。だが、相手はヒリュウの弟子。そう簡単にはやられない。瞬時に判断し、避ける。
ヒリュウが振り下ろした刀は石板を粉々に粉砕していた。もし受け止めるという判断をしていたら武器と腕は壊れていた。
てか、ヒリュウは何で刀で石を破壊出来るんだろうか。
武器が棍棒系ならまだしも、刀って無理だよな? 俺は無理。
ヒリュウは避けられる事も想定済みだった様で、相手が避けた先に魔法の罠を張る。火属性と水属性の場合、本来なら水属性である相手に分が有る。
しかし、ヒリュウは魔族の中でも一握りしかいないAランク。オブシディアンやルナールの次くらいに強い。
この場合、相手が魔法を使ってしまうと格上であるヒリュウに魔素を吸い取られてしまう。魔法以外で脱出するしか方法は無い。
これは想定外だったようで、ヒリュウの勝利となった。普段ヒリュウって擬態以外の魔法使わないからな。対処しようが無かったのだろう。
という事で、準決勝は竜騎士チームとサン・マオペアが勝ち越し。決勝戦に移行した。
昼食休憩を取り、頭突きと刀で破壊されたリングは再生魔法で直しておいた。
決勝戦はエクレシア側にはもう関係ない、身内だけの馬鹿騒ぎではあるが、エクレシアの騎士達もちゃっかり観戦はしていく模様だ。リベンジ戦でも挑むのだろうか。
特に準決勝で負けた人達は悔しさもあるだろう。このゴタゴタが落ち着いたら連盟の方に働きかけて、色々なジャンルの世界大会とかも出来たら良いな。
決勝戦は人数差があるものの、一対一の勝負になる。五対二だからどちらかが三人を相手にする事になる。十五回連続あいこの末、サンが三人を相手取る事に決まった。十五回連続って、仲良いな。
最初にリングに上がったのはマオ。そして、相手はマオの元同僚。今日はマオも本気を出す様で、槍を装備している。
「決勝戦、第一試合――はじめ」
審判の号令と共に二人の武器がぶつかる。今回のマオの相手は、竜騎士の中で唯一の棍棒系武器。
ああいうの、メイスって言うんだっけ。振り下ろしたりぶん回したりするタイプの武器で、エトワール伯爵家からサージスに移って来てから転向していた。予選でも一体何人の剣をへし折った事か。
しかし相手はあのマオ。そう上手くはいかないのだ。殺傷能力が高そうな所が高跳び棒代わりの槍に直撃してもマオはバランスを崩さないし、槍は槍で何で無傷なのか分からない。高跳び棒にされて、武器当てられて。
「……あの槍って、樹木型魔物が原料なんだっけ」
「ああ。丈夫で程良くしなるから良いって武器職人が言ってたな」
「魔物って万能なんだね……」
「ああ……そうだな……」
俺とオリヴァーは語彙力を完全に失い、人外と化した人達の戦いを見る。今日は解説のヒリュウも不在、マリーの横に控えているハナエは吸収しようと身を乗り出す勢いで見入っている。
誰からの解説も受けられず、残像さえ見えない戦いを見るのだ。今の戦いを説明しろというお題が出ても答えられない。
側から見たら俺達はさぞかし間抜けな顔をしているのだろう。
改めて実感する解説者ヒリュウの偉大さ……。
俺が説明出来るのは、マオが優勢という事だけ。気付いたらその試合は終わっていたし、最終戦でヒリュウと戦ったサンはダウンしていた。
「何があったか分かった……?」
「…………いや……」
俺達含め、観客もポカンとしたままだ。
期待を込めてハナエの方を見るが、興奮している様で落ち着いて話は出来そうにない。後で直接聞こう。
俺の方は最後に挨拶をする予定だったから、一度休憩を入れて閉会式? を行った。
俺を一日好きに出来る券をヒリュウチームの五人分と全体で一枚発行し、全体用として表彰状とトロフィーも用意した。勝った方にはトロフィーと表彰状、負けた方は表彰状だけだ。騎士団の寮にでも飾ってほしい。
「皆、二日間の試合お疲れ様。今回の勝敗としてはサージスチームの勝利になるが、今後こういったものを世界規模で開催したいと思っている。エクレシアチームはその時にリベンジ戦を挑んでほしい。ここからは表彰に移る。両チームの代表と、優勝チームの代表は前に出て来てくれ」
サージスチームからはヒリュウとエヴァン、エクレシアチームからは準決勝で敗退したチームメンバーが出て来た。
それぞれに賞状達を渡し、三日間の公開軍事演習は幕を閉じた。
が、まだ問題が残っている。ルーカスと自称国王の大臣との確執、エクレシアとグランベリアの関係、等々。その他にもエクレシア国民をどう納得させるかという問題も出てくる。
三日で終わらせるとは言ったが、エクレシアチームはまだ帰国出来ない。一度緊急月例会を開いて、今後の事を決めてからの帰国となる。
一応、敗戦国の騎士だから表向きは捕虜なのだ。ただ、迎賓館での接待になるため民間人とは関わらないから大部分の人の生活は前と変わらない。
迎賓館のスタッフ達はまだ大変だろうから後で差し入れを持って行こう。シルヴェリスから貰ったお酒がまだ有ったのと、果実ジュースも結構生産出来てきたからそれを。
三日間サージスに留まっていてくれたエテルニオンの連絡竜ネスに『カタを付けたから緊急月例会を開いて欲しい』という旨を書いた手紙を持って行ってもらった。
連絡竜、こっちに留まるのとあっちに住むのとで、二頭ずつ必要かもな。
特に、サンの補助にも入っているヴェルザードの負担がとんでもないからそれについても早めに解決しないと。




