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七十六話 二日目


「っ……。何だ、これは」

 迎賓館を出た俺達は、目の前で起きている状況を上手く飲み込めずにいた。


 歓迎の料理は中庭に用意して、ガーデンパーティーのようにするとは聞いていた。でも、こんな状況になるのは予想外だ。



 テーブルに突っ伏して鼻提灯を作っている騎士。


 顔を真っ赤にして回らない呂律でトピアリーを口説いている騎士。


 なぜかパンイチで地面に穴を掘っている騎士。


 何を言っているかは理解できないが、ぺしょぺしょになって泣いている騎士。




「申し訳ございません……! お酒をお出しした結果、手が付けられなくなってしまって……」


 料理担当だったエルフの女性はそう言って頭を下げる。



「い、良いんだ。な、何か嫌なことはされなかったか?」

「それは無かったのですが……一人、酔って護衛隊に喧嘩を売った騎士が居まして……」



「…………阿保すぎる……」


「護衛隊はサージスの中でも特に強い者が集まっていますが、その騎士は無事なのでしょうか……」



 サンは護衛隊員よりも喧嘩を売った騎士の心配を始めた。俺もその騎士が少し心配だ。相手が酔拳の使い手でなければ護衛隊員が勝つはずだから。


「ええ……あそこに」

 指さされた先に居たのは困惑している護衛隊員とイビキをかいて寝ている騎士。どちらも見た感じ無傷だ。



「何されたんだ?」

「と、特に何も……? け、喧嘩を売られたには売られたのですが彼、自分の足に躓いてそのまま眠ってしまって……」


「………………。こんの酔っぱらい…………」


 エクレシアにザルは居ないのかザルは。どれだけ飲んだらこうなるんだ。酒に弱いで有名な日本人以下じゃないか。



「とりあえず……全員部屋に連れてくぞ」

「「「はいっ!」」」

 強化魔法で一時的に成人男性を複数人担げるようにして、四人ずつくらいで部屋にぶち込んでいった。



 でも相手は五百人以上居る。エクレシアの軍は夕方に着いたのだが、今はもう九時過ぎ。そして全員を部屋に放り込み終わったのは日付が変わってから暫くして。部屋を汚して欲しくないから、と風呂に入れていたのが時間ロスだった。


 起きたのは寝坊ギリギリ……ではなく遅刻寸前。俺もサンも、途中で来て手伝ってくれたヒリュウも揃って寝坊した。寝ぐせは朝風呂ならぬ朝行水で無理矢理直し、急いで朝食をかき込んで転移で闘技場に向かった。



「寝坊?」


 既に着いていたオリヴァーは優雅に軽食を摂っていた。俺も寝坊が発覚した時点でお弁当にしてもらえば良かったかも……。



「そう。夜中まで酔っぱらいのお世話。力持ちな迎賓館スタッフ総動員して、サンとヒリュウにも手伝ってもらって、終わったのが三時くらい」


「……何でそんなことに……?」

「あっちが酒弱すぎただけ」



 昨日の事を話すと「それだけ気を許してくれたって事だよ」と適当なフォローと苦笑を貰った。


「向こうの陣営、戦えそうな状態か?」

「…………」

 エクレシアの様子を見てきてくれたヴェルザードは黙って首を横に振る。


「相手が二日酔いで戦えません、は白けるよな……。仕方ないから擬態で隠れて治癒魔法掛けてくるよ……」



 今回の戦――公開軍事演習は、年齢制限を設けて観客を入れている。客にとっても戦う側にとっても敵に不足が有れば萎えてしまうな。



「行ってくる」


 擬態で隠れてエクレシアチームの控室に行くと、死屍累々と言うべきか。二日酔いでダウンしている人が八割くらいだった。これは無理そうだな。

 頭痛、吐き気等の二日酔いの症状から訓練で付いたであろう怪我まで治しておいた。



 サージスチームの控室に居た軽傷人もしっかり治しておく。


 魔族以外は俺の気配に気付かなかったらしく、自分の傷が突然治るという怪奇現象に『?』を浮かべていた。コテンと首を傾げる様子は、どこか小動物みたいで愛らしい。



「ただいま。二日酔いと、怪我も治してきた」

「お疲れ様。後は挨拶だけだね」


「ああ。それが終わったら後は武道大会と同じ様な流れだ」


 俺の挨拶が開演じゃなくて開戦になるくらいしか違わない。





「今日は集まってくれてありがとう。今回は十人以下で一組になってトーナメント式で戦ってもらう。優勝した国には褒美が有るから是非とも頑張ってくれ」



 向こうが勝てば魔鉱山の利益が、こちらが勝てば俺にはエクレシアの国土。

 皆には俺を一日好きに使える券を発行すると約束している。こんなので良いのか? と思ったが、滅茶苦茶喜んでくれた。ので、全体で一枚発行する他、優勝チームのメンバーには一人一枚発行する予定だ。

 新技の実験台にでも決闘の審判でも何でもやったろうじゃないの。



 親戚の子供を甘やかしたくなる現象ってこういうのだろうか。


 雄叫びが上がり、いよいよ公開軍事演習が始まった。




 ――のだが。


「イマイチかぁ……?」

 うちのチームが強すぎて、エクレシアが可哀想な事になっている。向こうも健闘はしているが、努力と気合いだけではどうにも出来ない現実も有るのだ。



「出来レース感が否めないな……」

「うん。でもハンデ付ける訳にはいかないもんね。想定よりも敵が弱かった時の訓練と思うしか無いよ」


 何人か見どころが有りそうな人も、うちの騎士達には敵わず儚く散っていく(死んでないけど)。中には感動の再開を果たした喜びで油断する者まで……。



「殺さないように立ち回るの上手いね、皆」

「そうだな」


 かなりの戦力差だが、どちらの陣にも死人は出ていない。怪我人は居るみたいだが、軽傷ばかり。エクレシアがサージスに弄ばれているみたいだ。


 今日はサンとマオも演習メンバー。二人でペアになって、十人の騎士を相手に無双していた。良かった。最初の方に二人の枠作らなくて。



 俺が特に強いと判断した数人は、シード枠ということで初戦は入れていなかったのだ。入れたらその瞬間二人の出来レースまっしぐらだ。


 般若の面で顔を隠した謎の男、ということでサンは視覚的にも怖がられている。いやぁ……顔を公に出せないんだから仕方無いよね……。

 因みに般若の面はヒリュウ特製だ。ハナエ、ヒリュウ、サンで同じ型が使われている。



 俺がヴィーネから貰った指輪型の魔法具と同じで、魔力や魔素を抑制する効果を持っている。

 これを顔面に付けている間は実力の半分以下の魔法しか使えないのだ。曰く、強くなるために必要なアイテムらしい。



 バトル漫画とかで有る、重石を手首や足首に付けながらする地獄の特訓に似ているのかもしれないな。


 魔法をバンバン使う相手数人をサンがで相手しているのだが、自分の魔法を殆ど使わずに相手の戦力を削いでいっている。魔法を使わない騎士の相手はマオだ。



 あの面は、相手の魔力・魔素を吸い取る事も出来る。


 自衛を重要視した魔族らしい。魔法で攻撃された時の対処法を用意した上で、肉体を鍛えるとは。


 ズルだと思われるかもしれないが、戦は情報を制した方が有利になる。こちらの備品能力を把握していなかった向こうの落ち度だ。



 魔力を吸い取られて魔法が使えなくなった相手を木刀で追い詰めるサン。木刀を使っていることからも、サンの本気が窺える。サンは火属性だから少しミスをすると木刀は炭になる。そんな彼が木刀を使うという事は、得意な魔法に逃げないという意思表示。つまりはガチモードだ。



「あんなの、僕が向けられたら絶対逃げるな……」

「俺もだ、オリヴァー……」


 オリヴァーがエトワール家に捕縛された時点でこっちに引き込んでおいて本当に良かった。今のサンは無理。俺じゃ手が付けられない。




「かなり手加減しているようです。サンも人が悪い……。まだ楽にしてあげないなんて」


 そう言ったヒリュウも悪い顔だ。ヒリュウも喧嘩を売ってきた相手をゆっくり調理していく癖が有るからな……。




「ハイリー王とどっちが強いんだろ……」

 俺が半分反則技みたいなので勝ったハイリー。他の王達はボコボコにされているらしいし、かなり強いんだと思う。俺が対戦した時、ヒリュウと戦ってるような感覚だったし。



「……体格や年齢、持久力等の分の悪さで言えば確実にサンでしょうが、あの王は脳筋気質な分アドリブに弱そうです。そこを上手く付けば一勝は出来るかと。ですが、一度型を見破られてしまえばまず勝てないと思います」


 サンの指導を請け負っていて、俺とハイリーの戦いを見ていたヒリュウからの評価。的を射ていそうだ。



 ヒリュウはアドリブに強く、型に嵌めるのも得意。俺の師でもあるのだが、勝てた事は無い。惜しかったことすらない。



 対してハイリーは王族だからか、型に嵌めた動きが多いらしい。弟子の動き方は師匠の気質にも左右されるが、恐らくは生真面目な人に当たったのだろう、と。

 故に、知らない動きには対応するよりも先に動揺が来る。力技でゴリ押せない限りはその瞬間に負けるタイプ。



 ――というのを初顔合わせの時に見抜いたらしい。凄すぎだろ……うちのヒリュウ。何で俺の側に居てくれているのか分からないくらい凄い。


 たっぷり調理してからサンは勝利をもぎ取り、その直後のマオは一瞬で終わらせた。見た目の雰囲気から受け取れる印象だとマオが調理派、サンが一瞬派に見えるけど逆なんだよな。



 師匠の性格と戦い方の違いだな。マオは真面目なエヴァンが師匠、サンは調理派なヒリュウが師匠。その結果がこの試合に出ている。




 こうして、準決勝、決勝を残して一日は終了した。今夜も宴会だ。

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