七十八話 親睦会
シルヴェリスに手紙を出してすぐ、返事は返って来た。
『了解。転移使ってくれるならすぐに招集出来るよ。この手紙を読んだら一度エテルニオンに来てくれないかな? 城門まで来てくれたら案内させるから』
という事なので、ある程度の後処理をしてからオリヴァーにその場を任せてエテルニオンに飛んだ。
門番は偶然俺の顔見知りだったため、俺が飛んですぐに案内された。顔パスというやつ。
「本当に三日でカタを付けるなんてね。流石としか言いようがないよ」
「俺は全く手出ししてないんですけどね……」
俺が直接絡んだ事が有るとすれば、客船とスタッフを転移させた事くらいだ。後は皆が全部やってくれた。
「とりあえず、最短で三日後に緊急月例会の招集が出来るけど予定つきそう?」
「俺は大丈夫です。問題はエクレシア側なんですよね……。多分あの大臣、まだエクレシアに着いて間もない気がするんです。海も渡らないとなのでまだ帰国出来てない可能性も……」
俺がエクレシアからサージスまで船を出して、大体一週間。戦は三日間。つまりまだ十日しか経っていない。旅客機も使わず、馬車と船を乗り継いで帰国するとなると、まだ帰国出来ていない可能性も十分有り得る。しかもあのタプタプ。馬もさぞ大変だろう。
「本当の国王、ルーカスは?」
「サージスの迎賓館で療養中です。ショック状態で、まともに話が出来る状態ではないですが……」
「敗戦国の国王って事になるんだから拷問でもして無理矢理聞き出せば良いんじゃないの? フェリーチェは国王なんだから権限使えば出来るよ」
ご、拷問……? 優男っぽい風貌だけど、やっぱり生粋の王様だわ……。
「拷問はちょっと……痛そうっていうのが勝つというか……」
「ふーん……。まあ良いや。三日後の招集までにルーカス使える様にしててくれたら。月例会でサージスとエクレシアの今後、エクレシアとグランベリアの今後について決める事になると思うから」
「分かりました」
「それじゃ、この招集状を連盟国全部に出してくれる?」
「はい。行って来ます」
転移で各国の王宮まで飛び、事の顛末を報告。招集状を渡して帰国した。
さあ、ルーカスと話すとするか。
「ただいま、オリヴァー。問題無かったか?」
「うん、何の問題も無いよ。そろそろ公開軍事演習お疲れ様のお祭りが始まるみたい」
「祭り? そんな予定有ったか?」
「お祭りって言っても出店とかが有るわけじゃなくて、広場に集まって飲み食いしようって会。一応敗戦国って事で武器は全部没収してるからそこまで大きな問題には発展しないだろうから。何か有ってもパトロールとか警備班が何とかするって言ってた」
それは頼もしい。要するに、戦終わりの親睦会が始まるって事だな。
酒を出したら目も当てられないくらいベロベロに酔っ払うのだろうが、今回の宴は子供も多く参加するとの事で、誤飲を防ぐ為にも酒は用意していないそうだ。
「そうか。俺はこれからルーカスんとこ会いに行ってくるから楽しんでな」
「誰か連れてくの?」
「いや、今回は単身で乗り込む。向こうにシノ達が居てくれてるし」
「分かった。それじゃあ僕は広場の方に行くから何か有れば呼んで」
そこでオリヴァーとは別れ、ヒリュウとサンには威圧係として広場に向かってもらった。圧倒的な強さを身を持って体感したエクレシア側が暴れ出すリスクはこれで更に低くなっただろう。
迎賓館の最上階に行き、ルーカスの部屋の扉を開ける。
最初に比べるとかなり落ち着いた様で、二人は軽食を摂っていた。
俺を視認するなり急いで姿勢を正す二人。それと同時に部屋の中に漂う美味しそうな香りに腹の虫が鳴いた。恥ずかし。
そういえば休憩時間も怪我人治したりリング直したりで全然お昼食べてなかったな。
「ご飯食べて出直してくる」
「でしたら、厨房で新作の味見係を募集していましたよ」
「ありがとう、シノ。急いで食べて来るよ」
建物内はまだ転移が出来ないので廊下の窓から風魔法で飛び降りて正面玄関から入り直した。迎賓館ってほんと階段数多いんだよな。
厨房からは美味しそうな香りが……。
「あ、フェリーチェ様!」
「いらっしゃい!」
「し、新作の味見係を募集していると聞いて……」
これ、スタッフにたかってるみたいで恥ずかしいな。
顔に熱が集まって来る。
「そうなんですね! ではこちらの試食室にどうぞ!」
厨房の奥の試食室に案内され、ナプキンを渡される。試食って聞いてたけど結構本格的だな。
「こちらです! どうぞ召し上がってください!」
出て来たのは高級フレンチのメインになりそうな見た目の料理。一回だけ食べた事が有ったけど、こんな見た目だった気がする。それよりは大きそうだけど。
「い、いただきます」
パチンと手を合わせてナイフを入れる。もきゅもきゅ、と咀嚼するとお肉という事は分かった。相変わらず何の肉かは分からない。
「ん……! 美味しいよ!」
「本当ですか! 嬉しいです……!」
ああ……お腹が満たされていく……。
他にもパンの新作や果実ジュースの新作も味見係特権で平らげて、ルーカスの元に戻った。
「お待たせ」
戻ると、ルーカスもヴィンセントも軽食を摂り終わり、応接スペースでちょこんと小さくなっていた。
そして俺を見るなり慌てて立ち上がり……。
「い、いやいや、そんな畏まらなくても良いから。やりにくいから」
礼なんてしなくて良いから。
用意してた台本のセリフ緊張して飛んじゃうから。
とりあえずもう一度座らせて、俺はその向かいに腰を下ろした。
とりあえず事の顛末を最初から説明し、三日後に行われる緊急月例会についても説明した。今後の展望も含めて。今回の月例会には国王であるルーカスを参加させるつもりだ。メンタル面で不安は残るが、あんなプニプニよりも余程話が通じる。
威圧感は出さない様に気を付けて、中学の時に行った職場体験先の小学生に話す感じで……。
「――という感じです」
今、エクレシアの騎士達とサージスの人達が広場で親睦会をしている事も伝えた。死人は一人も出さなかったとも付け加えて。
二人は顔を見合わせ、目をぱちくり。
「私達にも、騎士達にも、許しを与えてくれた事、心から感謝申し上げます。ありがとう」
「主をお救いくださり、ありがとうございます」
座ったまま、最上級の礼をしてくれた二人。
エクレシアに居た時に、この人を知っていれば逃げ出すのも踏み止まっていたかもしれないな。だけど、俺が逃げてエクレシアを俯瞰して見る事が出来たからこそ知れた本心でもあるのだろう。
「二人も参加します? 親睦会。お酒は出ませんけど、うちの人達の料理は絶品ですから」
少し考えてから、二人はゆっくり頷いてくれた。
シノとあと数人の護衛隊を付けて、二人の拘束を解く。
「そんじゃ、行きましょ」
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迎賓館の装飾には不釣り合いなくらいラフな格好をしたフェリーチェの後ろを、ルーカスとヴィンセントはついて行く。
拘束されていた事もあって足首に違和感は残るが、痛みは無い。ヴィンセントも手首に少し赤く痕が残ったくらいで、一切危害を加えられなかった事に驚いていた。
それどころか、親睦会に参加しても良い等……。
敗戦国の王は通常、反乱分子排除のため親族含め処刑される筈なのに。ここで暴れたとしても死者を出さずに制圧できる、という自信が有るからだろうがそれにしても理解出来ないルーカス。
そこで思い出す。自分がサージスに居る理由を。
「フェリーチェ殿、急で申し訳無いのだが、やはり親睦会は……」
「何か問題が?」
「そ、その……」
不思議そうな表情のフェリーチェに、ルーカスはヴィンセントと共に王宮の騎士によって捕えられた事を話す。
「そうですか。でも、何が有っても俺達が護るんで。それに、心配している騎士達も多かったですよ。酔っ払って絡んできた奴が、心配で昼も夜も眠れないんですって」
渾身の演技で酔っ払った騎士のモノマネをするフェリーチェに、思わず吹き出してしまう。
「俺が貴方を殺さないのは、貴方が俺の仇ではないからというのもありますが、騎士が貴方を慕っているからですよ。敵は少ない方が良いというのが俺のモットーなので」
「騎士が、私を……?」
ルーカスが知っている騎士は、実父の近衛が多い。彼等は前王の考えと真逆の場所にいるルーカスに対する当たりが強く、常に高圧的だった。プライドが高く、国王である自分よりも着飾って出かける頻度が高かった。だが、強さは一流。
戦をけしかけるつもりが無かったルーカスは、サージスに誰が来ているか分からずビクビクしながら迎賓館の敷地を出る。
「フェリーチェ! もう終わったんだね。初めまして、フェリーチェの幼馴染で補佐をしている、オリヴァー・エアマイアです」
「ル、ルーカス・エクレシアだ。こちらはヴィンセント」
「よろしくお願いしますね」
にこやかに握手を求められ、オリヴァーの手を握るルーカス。自分より小さいが、健康的な手だった。
「フェルちゃん、待ってたぜ」
「丁度お肉が焼けたんだよ」
「フェル兄のお客さんもどうぞ!」
毒味の習慣が無かったルーカスとヴィンセントは何の抵抗も無く渡された肉串を口に入れた。
「どう? どう?」
「上手く焼けてる?」
「あ、ああ。美味しいよ」
自分に話しかけてきた少女達は、頭から角のような物が生えていた。
これは自分は勿論、ヴィンセントですら敵わない。ルーカスは直感的にそう思った。
「ねえ、これ触ってみる?」
「私のも触って良いよ。ずっと見てるでしょ?」
そう差し出される頭。こちらが危害を加えなければ何もしない、という意思表示だろうか。
「ひんやりしているんだな……」
エクレシアにはこういった行為を馴れ馴れしい、と嫌な顔をする貴族が居るが、一人の人間としてルーカスに接してくれる二人に涙が溢れそうになっていた。今まではヴィンセントと二人でやってきた。
何をしても上手くいかなくて、何をしても大臣達に否定されて。街で見てきた国民はいつも暗い顔をしていた。
このように、幸せに満ちた国を作った人間になら――。
「……国をあけ渡しても、良いのかもしれないな…………」
(エクレシアが良い国になる頃、私はきっと居ないのだろうが、それでも良い。皆が幸せになれるのであれば、こんな命、いくらでも捨てられる)
鬼人族の子供を撫でながら、ルーカスは緊急月例会への覚悟を決めた。




