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七十三話 宣戦布告


 お披露目パーティーから約一ヶ月。もう少しでヴィーネ神生誕祭という事で、再びお祭りムードに入ったサージスに、エテルニオンから一通の手紙が届いた。



『緊急月例会を開くから一週間後、エテルニオンの会場まで来て欲しい』



 月例会は開国祭終了直後に既にやっていて、十二月の月例会は十五日。まだ開催まで十日以上早い。何か有ったのだろうか。


 緊急月例会はエクレシアとグランベリアの鉱山戦争の時に開かれたのが最後らしいけど、休戦のまま終戦か?




「ネス」

「はい!」

「シルヴェリス王、どんな感じだったか分かるか?」


「うーーん……疲れてそうな感じ……?」

「ありがとう。返事を書くから少し待っていてくれ」

「はい!」


 サージスとエテルニオンの連絡役竜、ネスは座椅子に座って鼻歌を歌っている。向こうでの生活は結構楽しいみたいで、俺が返事を書いている間はエテルニオンでの生活について話してくれた。



 元々ボロボロの保護竜だったネスが幸せそうにしてくれているのは嬉しい。


「ネス、今幸せか?」

「もっちろんです! おねーさんおにーさんにチヤホヤしてもらって、優しいご主人様で、ししょーもいるんで! これ以上無いくらい幸せです!」


「そうか、ありがとう。これ、お願いな」

「はいっ! 行ってきます!」

「行ってらっしゃい。気を付けて」

 大きく手を振ったネスはそのまま周囲に擬態して消えて行った。





 何が始まるのか全く知らされないまま一週間が過ぎ、俺はヒリュウを連れてエテルニオンに飛ぶ事になった。


「おはようございます、シルヴェリス王」

「おはよー……ねむい……」


 朝が早かったせいか、シルヴェリスはまだ眠そう……というよりほぼ寝ている。手土産のサンドイッチも目を閉じながら食べている。



「うまぁ……ぐぅ……」

 食べ終わってすぐ、テーブルに突っ伏して寝てしまった。弱すぎる。あまりにも弱すぎる。朝に。もう八時だぞ。


 今日は招集者だし、緊急の月例会だったから絶対寝坊出来なかったのだろう。

 この前睡眠時間は七時間くらいって言ってたから、十時間は必要なロングスリーパーなのかもしれない。そう思うと少し気の毒になったのでブランケットだけは掛けてやった。



「相変わらず寝てんな。コイツ」

「おはようございます。ハイリー王、ルーク王。手土産有りますよ」


「おはよう、フェリーチェ。こちらからも手土産だ」

「ありがとうございます。ルーク王」



 皆も何が有るのか知らされていなかった様で軽口を叩きながら俺の手土産を食べていたが、最後に来たエクレシアの人間を見て警戒心を露わにした。

 勿論、俺も例外ではない。殺気を発しなかったのは王の顔を知らなかったヒリュウと、立場上無礼に当たる各護衛達くらいだ。護衛達も、指摘されない程度の警戒はしていた。



 現れたのは、エクレシアの大臣(仮)。寝ていたはずのシルヴェリスもむくりと起き上がり、眼光を鋭くする。



「どういうつもりだ。国王は――ルーカスはどこに行った」

 ハイリ―に凄まれた大臣(仮)は一瞬怯むが、すぐに立ち直ってニィと嗤う。


「ルーカス殿はもう国王では無い。これからは私がエクレシアの国王……」

 そこで一度言葉を区切り、大臣(仮)は続ける。



「国王としてフェリーチェ・サージスに告ぐ。魔鉱山と、その技術を我が国に戻すように。貴様は元々我が国の平民。貴様の持つ技術は我が国の物である。受け入れぬと言うならば、我が国は既に軍の用意が有る。友人の死は見たくなかろう」



 パーティーから一ヶ月分の間が空いていたのはこのためか。つまるところ、お前さんとこの技術と物をよこさんかい。力ずくで奪ったろか? あ? ということだ。


 ちょっと何言ってるか分かんない。技術は小人族に助けてもらったけど、頭一つ以上抜けた技術を持つ小人族相手にまともに話が出来るのは、エクレシアに住んでいた人間だ。


 確かにエクレシアには原材料は無いかもしれないが、それを補えるだけの加工技術は有している。建国しながらそれを実感していた。搾取ばかりじゃ手に入るものも手に入らないのだよ。



 しかも、戦を吹っ掛けるつもりならもっと長い期間準備をしないと。食料の確保、補給班の編成。やらなければいけない事は腐るほど有る。

 剣を振るうしか能の無い人間が集まったって戦は勝てない。戦国時代を生きたわけでも、戦争を経験した事も無い俺ですら分かる。エクレシアは負け戦を申し込んでいる、と。



「ヒリュウ」

「はい」

 俺はヒリュウを隣に呼び、小声で伝えた。



「サンとヴェルザードをエクレシアに送ってくれ。王の所在が知りたい。それと、オリヴァーにも宣戦布告されたと伝えて」

「はっ……」


 ヒリュウは敢えて竜の姿を見せ、擬態で消えた。

 俺の予想が正しければ、エクレシアの王はどこかに監禁されている。

 あの王は良くも悪くも臆病。そんな奴がハイリ―の警告と自身の警戒を無視してまでこの大臣(仮)を王に据えるとは思えない。




「それで、何だっけ。俺にエクレシアをくれるって話だっけ?」

「どたわけが! 誰がそんな事を言った!」


 たわけって、この世界の人でも使うんだ。初めて聞いたわ。埼玉に住んでた時も北海道に移住した時も聞いたこと無かったから、多分どっかの方言だよな?



「じゃあ何て? 美味しいお店の話だっけ。あれ、今日の朝ごはん何だっけって話? ごめん、俺、あんた達の朝飯知らんわ」

「ブッ……!」


 シルヴェリスが吹き出した。エリス女王やルーク王、ハイリ―も肩が震えている。俺が大臣(仮)をコケにしたのがそんなに面白かったのだろうか。



 俺は別に面白くないんだけど。本当はこの場で処してやりたいのを我慢してあげているのだ。対人戦では冷静さを欠いた方が負けるって相場が決まってるから煽ってみたけど思ったより煽り耐性低かったな。


 大臣(仮)はここまで馬鹿にされる経験が無かったのか、ワナワナと震えている。派手な服の中では立派な贅肉もタプタプと揺れているのだろう。



「じゃあ何。あんた達の言い方だとサージスを寄越せって言ってるように聞こえるんだけど。優しい俺が冗談で済ませている間に撤回することを強く勧めるよ」


『私も出た方が良い?』

 ヴィーネが心配そうに問うが、俺は小さく首を振る。

『いや、大丈夫』



 本当にヤバくなったらお菓子を餌にブランを呼ぶ。ヴィーネよりもブランの方がまだ良い。ヴィーネは最終手段過ぎるから。他の王達が口を挟んでこないという事は、ここは俺が対処すべきだろう。



「撤回するのか、このまま開戦にゴリ押すか。どっちか選ばせてあげるよ。エクレシアは今、どこかの誰かさんと休戦中らしいし」

「ふん、サージスを手に入れればグランベリアへの勝利は我が国が貰った様なものだ」


「手に入れば、の話だけど。第一さ、サージスの場所知らないでしょ? 俺、地図は開国祭の月の月例会でしか公開してないんだけど。エクレシアは確か居なかったよな?」


 どこに有るかも分からないまま攻撃するとか。熱でも出ているんだろうか、このタプタプ達は。ここまで酷いとルーカスが可哀想に思えてくるわ。




「我らに公開すれば良いだけの話だ」

「どうやらエクレシアの中枢達は、余程頭が悪いらしい」


「何だと……!?」

「どこに自分の国を攻めに来て欲しい阿保が居る?」



 こればかりは本気で理解出来ない。さっきまでは冗談で流してあげようと思って色々言っていたけれど、これは本心で言った。幾ら何でも脳味噌ツルツル過ぎるだろう。


「エクレシアって俺達平民に教育受けさせて無かったけど、国の中枢部担う人間も大した勉強してないのか? その腹を見る感じ、上層部には学費に充てられるくらいの金は有り余ってそうだけど……」



 あの王、ルーカスにはそんな余裕も無さそうだったけどこいつらは贅肉がたっぷり付いているのだ。いや、でもサンとルナの親も肉塊みたいな物だから分かんないな。


「ど、どこまでも我らを馬鹿にする……!」

「俺だって、敬意を示す相手は選びたいからな」



 生産性の無い会話に周囲はだんだんと退屈そうな色を見せ始め、シルヴェリスにいたっては爆睡。俺も早く終わらないかなと思い始めた頃、顔を般若の面で隠したサンと気配を視認できるギリギリまで消したヴェルザードがやって来た。


 二人の気配には寝ていたシルヴェリスも気付いた様で一瞬顔を上げる。が、余所者でない事を確認した後はまた寝てしまった。




「エクレシアの王及び側近騎士ヴィンセントはヒリュウに預け、治療のため一度サージスに連れ帰りました」

「分かった。サージスにはオリヴァーも居るし大丈夫だな」

「そこぉ! 何をコソコソとしているのだ!」


 ルーカス達がどの様な状態だったかは知らないが、再生・治癒属性二級のオリヴァーが居れば大抵の治療は出来る。



「それは俺も気になるな」

「余も何が有ったのかは知りたい」


 ハイリーとルーク王のリクエストも有ったので、俺は話せる範囲で話した。




「エクレシアの王は治療を必要とする状態との事でした。この宣戦布告に王本人の意思は関与していないと断定して良いでしょう」

「まあ、そうだろうな。ルーカスは俺んとこと休戦中の今、新たな火種を作る様な性格じゃねぇ」



「…………? 宣戦布告、ですか?」


 首を傾げるサン。ヒリュウから詳細を聞く前にエクレシアに行ってくれたんだな。


「ああ、サンには伝わっていなかったな。オリヴァーには伝えてもらったけど、サージスはついさっき、エクレシアの王を名乗る人間から宣戦布告を受けた。あれなんだけど、知ってるか?」


「いえ……両親であれば会っている可能性も有りますが……。お役に立てず申し訳ございません」

「良いよ、知らなくて良い人間である事に間違いは無いから」



 そこまで言った時、天啓とも思える妙案が自分の中に浮かんできた。


「シルヴェリス王、質問が有ります」

「うん……? なあに」

 目を擦って顔を上げるシルヴェリスは普段より五歳くらい若く見える。




「生まれ故郷の王があまりにも可哀想なので、エクレシアは一度潰しておきたいのですが」

「休戦中の国と開戦を宣言する、と?」


「そう捉えていただいて構いません。ただ、こちらは公開軍事訓練と称させていただきます。弱い者いじめは趣味ではありませんので」



 軍事訓練と言った瞬間、サンの瞳が輝いたような気がした。そう、サージスの人達には普段の訓練の成果を発表する場が無い。この前の開国祭で有った武道大会が初めて。それではモチベダウンに繋がってしまう。


「この公開訓練であなた方が勝てば魔鉱山の利益はくれてやりましょう。その代わり、こちらが勝てばエクレシア全土の統治権をいただきます」

「ふ、ふん! その言葉、覚えておけよ! 後でベソかいても知らないからな!」


「二人はエヴァンの所に行って伝えてくれ。お前達の願いを叶えてやれそうだ、とな」

「はっ」



 軍事訓練って事だけど、闘技場を使おう。山とか森とかは魔物も居て危ないからな。

 それにしても、ヒリュウが竜の姿を見せてあげたのにノって来るとは。



「フェリーチェがエクレシアの統治権を得たら、俺んとことはどうすんだ?」

 ハイリーが顎に手を当てる。エクレシア側が何か喚いているが、ガンスルーだ。



「俺としては魔鉱山も持っているサージスにこれ以上力を持って欲しく無いってのが本音だが……」

「俺、鉱山はちょっと管理出来ないかもなんでグランベリアにお任せします」


 魔鉱山と違って、掘れば掘る程減るわけだし。鉱山事故とかも俺には対処しきれないから。




「なら俺は構わないぜ。公開訓練、やっても」

「エクレシア側には後日招待状送ってやる。首はしっかり洗って来ることだな」



「〜〜〜〜〜〜!」

 大臣(仮)達は、顔を真っ赤にして会場を出て行った。


「あんな事言って、何か策でも有るのかしら?」

「人海戦術で攻め込まれたらそちらも無傷では済まないだろうに」



 エリス女王とルーク王の言う事はご尤も。でも、俺には考えが有る。敵も去った事なので、皆に作戦の共有といこう。

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