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七十話 プロポーズ


 三日目の演説が終わり、後は終わるまで大きな仕事は無い。ちょくちょくトラブル対応するくらい。戯れに始めた武道大会も人気があり、さっきはハイリーが飛び入りで参加していた。



 それが王のする事か、とも思ったが、グランベリアは戦いを好む種族だと俺は身をもって知っているので何も言わなかった。名指しでヒリュウと対戦して、結果はヒリュウの圧勝。


 経験年数にかなりの差があるから当然と言えば当然だが、俺が苦戦したハイリーにあっさり勝利したのは複雑な気分だ。

 しかも、実力の半分も見せていない状態で。そりゃあ下位種族の竜族をトカゲと言いたくなるわけだ。



 トーナメント戦になった時も余力を残した状態でトップになっていたし、現時点ではサージス一の実力者だろう。


 ヴェルザードも良い所までは行ったが、ハナエに敗北している。そして、マオは最早人間じゃない。

 瞬殺続きのヒリュウが本気で掛かっていた。過去の俺、疲労の中アイツに勝ったのが信じられない。



 流石、騎士団最強と言われていただけある。今は所属していないからそう言われているかは知らないけど。


 今回の武道大会で、サージスに喧嘩を売りたい国は相当なドMだろうという事が分かった。




 音楽隊の演奏も見事で、シルヴェリス含むエテルニオンの人達は語彙力が消し飛ぶ程感激していた。


 楽器提供してくれたから、セロと相談して広告も打っておいた。CDやレコードが有れば前世みたいに物販コーナーを作りたかったが、生憎そんな大層なものは無かった。

 こっちにも来て欲しい。エジソン。早く抜け出して欲しい。近世から。魔鉱石を使った電球が有るのに何で蓄音機とかレコードが無いのよ。



 守護者がもっと万能だったら良かったのに。

 コピー機とかも出したかった。今の広告はデザインの心得が有る人が集まって各商会ごとに大きなポスターにして壁に貼ってある状態だ。

 ご自由にどうぞの所から取れる様にしたかった。来世は有ると良いなぁ。便利道具達。



 後目立ってたのはポン達ガラス職人達かな。うちにも何人か人魚族が居るのだが、彼等は大理石を出すだけでなく、簡単な彫刻をする事も出来た。

 美術の教科書に参考作品として載っていそうなデフォルメデザインの。それをポン達ガラス職人の小人族達がガラス彫刻に昇華させた。



 ポンみたいな小人族の中でも上級者の子は魔鉱石を削って切子のランプとか作っていた。魔鉱石の機能は保ったまま、見た目は豪華になったという事で船のスイートルームに置いている。



 ガラスだとどうやったか素人には分からない、中に模様が入っている箸置きや人型ブランの実寸大彫像も作ったりとやりたい放題だ。


 日本だと、人魚族の彫刻は『職人の手作り』ポップが貼られたお土産コーナーとかに置いてありそうで、小人族の彫刻は国宝になっていそうだ。




 二日目に人魚族の工房と神社近くの売店に行ったらブランの蛇彫刻は完売していた。ブランが神力を込めていたお守り彫刻。

 本人達はお客さんと接した事によって売るための彫刻を作る事に楽しみを見出した様で、前よりも生き生きしていた。


 後は料理に自信の有る人達が集まって料理対決とかしてたな。結局皆作った料理も得意料理も違っているから『勝負にならん』って祭り時限りの合同食堂を開いていた。あれは美味かった。俺だけじゃなく、他の王達にも気に入ってもらえた。



 シルヴェリスはいつもの如く『フェリーチェと同じので』を発動させ、エリス女王はフルーツ百パーセント使用シロップのかき氷に舌鼓を打ち、ハイリーは豪快に骨付き肉を頬張り、ルーク王は定食を堪能していた。楽しそうで何より。


 こうして祭りやって好きな事させてみると、やっぱりエクレシアの人達は能力を発揮する場所が無かっただけで、技術は飛び抜けてる人が多いって思うな。小人族の力も大きいけど、潜在能力が高く無いと一年でこうはならん。



 俺の父さんの時計とか、小人族の助力で進化はしたけど最初から良かったし。オリヴァーのお父さん達が作った家具も貴族が使っていてもおかしく無い出来栄えだ。エトワール伯爵家にも幾つか家具はあったのだが、それの一部はオリヴァーの両親が作った物。


 貴族嫌いの俺は、例外は有れど基本は彼等にマイナスの偏見を持っている。見栄を張りたがる生き物が使っている家具は上質な物と相場が決まっているのだ。



 非常に不本意だが、貴族に認められるだけの腕を持っていると言って良いだろう。不本意だが。












「はい、リヴ。これは僕からのプレゼントね」

 路地裏から聞こえて来たその声に思わず足を止める。


 声のする方を少しだけ覗いてみると、オリヴァーがリヴの髪にガラスの簪を着けている所だった。来た当初はオリヴァーの勢いに引き気味だったリヴだが、最近はオリヴァーの片想いだけでは無い様な気がしている。



「ありがとうございます、オリヴァー様」

「ああ……リヴ…………」


 愛おしそうにリヴの名前を呼ぶオリヴァー。見てはいけないと分かってはいるが、そこに視線が縫い付けられる。一緒に居た王達も何だ何だと戻って来て、甘い雰囲気に息を呑んだ。



「リヴ、実はもう一つ贈りたい物があるんだ」

 オリヴァーが取り出したのは上品に装飾された小さな箱。

「これは……?」


 オリヴァーはリヴの左手を取り、そっと指輪を嵌めた。



「好きだよ、リヴ。これからもずっとリヴが好き。僕と結婚してほしい」

 俺達は揃って固唾を呑む。



「…………はい、喜んで」


 少し驚いた後、リヴがそう言って微笑んだ。俺は親友の恋が成就した事で歓喜し、舞を踊りたくなった。エリス女王は何か涙ぐんでいる。





「――って事だからお祝いよろしくね、フェリーチェ」

 声を出さずに歓喜していた俺の肩をがっしり掴んだのはオリヴァー。



「お、オリヴァー……気付いてたんだな……」

「勿論。こんなメンツ、知ってて気配に気付かないのは相当鈍いよ。あ、それとね。結婚式はいつが良いかな」


 ワクワクした表情でリヴの肩を抱くオリヴァー。リヴは恥ずかしそうにしながらも、満更でもなさそうだ。



「六月だな」


 ジューンブライドとか言うし。ヨーロッパの方では六月に結婚すると幸せになれるという言い伝えがあった筈。農作業が落ち着いて、多くの人から祝われるからそう言われる様になったとか。



 サージスの六月は秋頃だから丁度収穫シーズンに被ってしまうが、結婚式自体は直ぐに挙げられるわけでは無い。来年は多分無理だろう。まだ結婚式場とか無いし。二年後以降になるとなれば、まだスケジュールも調整し易いと思う。



「六月? 何か意味が有るの?」

「六月に結婚するカップルは、私がその年の幸せを祈って加護を与えるのよ。指輪を媒介にしてね」

 俺の背後からにゅっと出て来てヴィーネがそう言った。



『そんな話あったのか?』

 俺、そんなの聞いた事無いけど。指輪がヴィーネを表す物だっていうのは知ってるけどそれ以外って案外知らない。



『ハッタリに決まってるでしょ。でも、そういうのが有ったら私もテンション上がるじゃない?』

 あ、そすか……。



「ヴィ、ヴィーネ様……!」

 唯一、生ヴィーネを見た事が有るルーク王がそう言って跪く。それに反応して他の王達も膝を折った。


 ここが路地裏だったから人目は無かったが、もし大通りだったら二度見どころじゃ済まされなかっただろうな。




「そうなんですね! じゃあ僕、六月に結婚します。まだやる事が有るのでそれが落ち着いたらにはなりますけど……。それに僕、結婚式がどんな物かも分からないので勉強してからですね……」


 エクレシアの平民には結婚式の文化が無い。そんなお金の余裕も無い。俺が「いつか結婚式場とかも建てたい」って言ってから知ったくらい。




「「フェリーチェ……!」」


 オリヴァーとヴィーネからの期待に満ち溢れた視線に応えない訳にはいかず、大量の見届け人の中、結婚式場の建設依頼をする事に決まった。



 祭りが終わったらまた仕事だな……。

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