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六十九話 お披露目パーティー


 十一月三日。

 今夜、お披露目パーティーが開催される。



 朝から料理や清掃等、皆忙しくしている。俺の方は挨拶のカンペを推敲しているところだ。これ以上は何をやっても変わらないだろう、という所まで練りに練っている。



 何で日本には次期国王専門学校みたいなのが無かったんだろ……。いや王が居ないからなのは分かってるけどさ、初心者にはキツいって。


 何て事をぐちぐち考えながらサンに文章のチェックをしてもらった。元々俺は文字書きを目指していたわけではないし、文章力も中の中といったところだ。作文の課題は嫌いな人間だった。答辞も経験がない。



 そんな奴が転生して初めて書く文が他国へのお披露目会用という……。

 マジ鬼だわ。


「失礼します。フェリーチェ様、ライムさんからお届け物が届いております」

 夕方頃、軍部との連絡を取るため離席していたヒリュウが戻ってきた。


「何だろ」



 ヒリュウから渡されたのは、俺が好きだと言った橙のスムージー。確か、バナナとミカンだった筈。

 一口飲むと、キンキンに冷やされたスムージーが精神的な疲れを癒してくれた。



 美味い……。


「それと、迎賓館のパーティーホールに一人目のお客様をご案内し始めました」

「分かった。頑張ってくるわ」


 サンとヒリュウの二人も今回着いて来てくれるから、この二人のためにも頑張らねば。



 迎賓館の演説壇場には衝立があり、後ろで控える事が出来る。

 参加者全員の入場を確認し、自分の名前が呼ばれた後、壇上に上がった。



「本日はお集まりいただきありがとうございます。先日サージス国の王と認めていただきました、フェリーチェ・サージスと申します。我が国は――」


 俺がスピーチで参考にしたのは高校の校長と就職説明会の時の面接練習についての話。



 この世界の貴族達は、どれだけ長い話をしてもそれが上位の立場に居る人間からのものであれば熱心に聞いてくれる。上に気に入られれば自分の家は優遇措置を受けられるかもしれないと考えたら、例え話がつまらなくても聞くものだ。聞いているふりでは個別で話した時にボロが出るからな。



 って事だから、とりあえずアピールはしておいた。それだけだとちょっと弱いだろうからマイナス面も。考え様によってはプラスになる程度のだけど。高校とか大学で自己アピールはそうするべきだ、と教わった。良い所だけ話しても胡散臭いだけだし。



「ご清聴ありがとうございます。簡単ではありますが、お食事をご用意いたしました。この後もどうぞお楽しみください」


 拍手で壇から退場し、転移で一度屋敷の自室に戻った。結構練習したのだが、もう少しマシにならなかったかと反省している。自分が使っていた言葉は目上の人に向けて使ったり、演説会で使う様な言葉だ。



 歴の違いはあれど、属国ではないから俺と他の王は対等。王という立場から見たら、貴族は下になる。

 いくら元が平民だったとはいえマズかったのではと思い始めてきた。謙り過ぎると舐められる。先輩後輩の間柄だったらまだ良いが、国トップがこれだと国益に関わってくるから大変だ。




 終わったら反省会だな。


 両頬をパチンと叩き、気合を入れてから会場に戻った。会場では既に料理の大半が並べられており、後はデザートくらいという所まできていた。



「お疲れ様ー」

 パーティーホールには立食用の机エリアとちゃぶ台の畳エリアがある。畳エリアはルーク王のために作ったと言っても過言では無い。

 気に入ってくれたようで、他の王と共に座布団に胡座をかいて既に料理を堪能していた。



「今日はありがとうございます」

 やっぱりルーカスは居ないか……。


「あの男ならお前のスピーチが終わって直ぐ帰ったぞ」

 俺がキョロキョロしている理由を察してくれたのか、ハイリー王が教えてくれた。



「あ、来てくれてはいたんですね。全然気付かなかったです」


 他の参加者は参加の可否を送ってくれたけどエクレシアだけは返事くれなかったから、ほんとに捻り出した時間で来てくれたんだろうな。

 エクレシア自体は消えて欲しいくらい嫌いだけど、ルーカスへの評価は改めておこう。



「それにしても、王なんだからあんな畏まった喋り方しなくても良いのよ」

「そうだぞ。会議の時のあいつらみたいだ」

 エリス女王の言葉に同意しながらハイリーが自分の部下を指し、他の王達も頷いている。



「仕方無いじゃないですかぁ。俺、人前で演説するの初めてなんですよ。母親が元貴族ってだけで、一般教育以外は全然受けてないですし」


 あの演説だって、サンと二人で考えたものだ。あの親の元じゃ、サンだって碌に勉強出来ていないだろう。初心者二人が顔突き合わせて考えたんだから少しくらい(?)粗が有っても見逃して欲しいものだ。



「え、本当にそれだけ?」

「お前元々平民だったんか」


「はい。ルーク王とシルヴェリス王はもう知っている事ですが……」

 周りに聞かれたら色々とマズいので、驚きながらも大声は出さないでくれるエリス女王とハイリー。



「何が有ったら平民が王になるんだ……?」

「色々です。要らぬ恨みは買わぬが吉なのでここでは言えませんけど」

「後で聞くからな」


「……はーい」


 ハイリーの人とナリを少しだが知った今、俺がエクレシア出身というだけでハイリーが殺しに来る事は無いと言える。


 敵国の大将を見ても全く敵意を向けない人間だ。俺が少し隠し事(聞かれてないだけで、隠してはいないと言い張れる)をしていた所で大した問題にはならないだろう。

 出席している貴族が周りにいる人達のオーラで近寄って来られないのを良い事に、俺はパーティー料理をしっかり堪能した。



 パーティーが終わった後、月例会の時に使った広間に集まり、俺はハイリーとエリス女王に詰め寄られていた。後回しにしていた、昔話のお時間だ。

 一応、自分んとこの領主やそこに勤める人間を消してしまった事は伏せた。



「俺はエクレシアの内情については他の奴より知っている。平民の蜂起、あれは並の人間じゃ出来ない。俺でもだ。あれはフェリーチェがやったと判断して良いか」

「…………さぁ。俺からはもう何も」


 俺が喋ったのは、『父親を脅された事にムカついて国を逃げ、着いて来てくれた人と一緒に国を興した』という事。サンやルナの生家については一切触れなかった。因みに、ルーク王とクリスタルおばさんは全部詳細に知っている。



 俺の土地を国と認めるに当たって、俺の素性は知っておいた方が良いだろうと思い、話していた。勿論、俺を紹介したアルストロも知っている。



 まあ、『最果ての商人』という通り名だけで本当の俺に辿り着いた彼なら話さなくてもそのうち暴きそうだったから、というのも理由ではある。






「十中八九、お前の仕業だと思っておく」


「そうね。天下の守護者なら、簡単に出来るでしょうから」


「仲間と認めた相手の事は全力で護り、敵対者には容赦しない。そう解釈するよ。って事で、これからも仲良くしようね」



 これ以上はシラを切るつもりだという俺に仕方無さそうに手を振るハイリーと、それに同意するエリス女王。そして、驚く程いつも通りなシルヴェリス。ルーク王は顔色で悟られない様、全力でスルーを決め込んでいた。



 王になると決めた以上、大多数の人間に後悔させてはいけない。手を汚すのは覚悟の上だ。正直あれはやり過ぎな気もしたが、オリヴァーの両親は俺に協力した事を後悔していなかった。俺が大切なのはあくまで身内。敵対者の身内じゃない。


 って事で今はせめてもの詫びの気持ちを込めて、主運の無かった人達の来世が良いものになる事を願い、命日に手を合わせている。



 エクレシアの方角に墓まで立てて。俺が出て来たのが去年の十月だからまだ一度しか墓参りはしていないが、手入れは自分でやっている。

 早朝や夜中にやっているから今の所は誰にも気付かれてはいない筈だ。

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