六十八話 開国祭前夜
クラリッサと遭遇した後、他の知り合いは来てないよな……? とビクビクしながらも、転生後初のハロウィンはしっかり楽しみ、明日から始まる開国祭に向けての最終確認をした。俺達幹部は勿論、祭りで屋台を出す人達も。
船は二日に到着するが、竜飛車はいつ来てもおかしくはない。今日の一件で改めて分からされたので迎賓館のスタッフも一緒になっての会議だ。
迎賓館のスタッフは厨房・清掃・接客等色々な担当があるが、いつ誰が来ても大丈夫だ、皆が揃って胸を張り、屋台を運営する人達も任せておけと言っていた。
ただ、パーティーのある三日目より前はそこまで緊張しなくても良い。俺が出した招待状は三日目以降を主軸にしているから。明日と明後日は例え王族だとしても国賓ではなく、お忍びの貴族扱いなのだ。
三日目以降でも、もし身分を盾に好き放題する様子が見られれば、俺が出るということが決まっている。一応、国王は皆の上司だからな。部下が対応出来ない事は俺が対処すれば良い。
平民出身とはいえ、今は連盟に加盟している一国の王。相手が正常な精神を持っている貴族なら、対等な話し合いくらいは出来る筈だ。
というか、もし何か俺達が不利益を被りそうになった場合が有れば魔鉱山をダシに脅しで示談を迫る覚悟である。その場さえ切り抜けられれば後は国王同士の会話でどうとでもなろう。
連盟加盟国外の人達は多分来ないから俺が相手をするのは顔見知りだけになる。エクレシアのルーカスとか、プライベートであまり会わないヴァレンシアのエリス女王はともかく、他は友達くらいの距離感。うん、余裕だな。ヴァレンシアもクリスタルおばさんが居るから。
そしたら後はルーカスだけになる。
ま、エクレシアから誰か来るかは分からないけど。国民の蜂起が眼前に迫っている中じゃ、必要最低限の移動すら命取りだろうから。一応社交辞令的な感じで招待状は出したが、それも暖炉に一直線かもしれないし。
「じゃあ明日からの開国祭、成功させよう」
「「おう!!!!」」
女性も多かったが、割合的に野太い掛け声が勝ち、男子校の体育祭直前の様な空気を一瞬感じた。
ま、そんな事はどうでも良い。明日に備えて寝るとしよう。
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「では、留守を頼む」
「「はっ!」」
十一月二日。ルークはスウィート公爵と共に国際空港に来ていた。三日に行われるサージスお披露目パーティーに出席するためだ。
これから七時間の飛行を経て、サージスには二日の夜に到着する予定だ。
このパーティーを心置きなく満喫するため、ルークは向こう一週間の仕事を全て前倒しで行っていた。後は余程の事が無い限りは臣下達だけでも十分乗り切れるくらいまでには終わらせている。
サージス国内での乗車は済ませていたルーク達だったが、国際便に乗るのは今回が初めて。妻達同様、サービスの内容と竜騎士と竜の関係性に度肝を抜いた。
が、守護者であるからか、初めからフェリーチェはどこか自分達と違う雰囲気を纏っていた。その部下が人間離れしていても驚くべき事ではないと言い聞かせ、受け入れた。
二度の軽食と竜騎士との会話を存分に楽しんだルーク達一行は、祭りの余韻が若干残った夜のサージスの国際空港に降り立った。
「ようこそおいで下さいました。この後は迎賓館までの牛車をご用意いたしましたので、そちらでご移動をお願いいたします」
「牛車……は荷運び用だったはずでは……?」
ルークが来た時はまだ作物や狩りで手に入れた動物を運搬する事以外には使用していなかった牛車。その印象が強かったルークは荷運び用の牛車に詰め込まれると想像して身震いする。
しかし、牛車の担当者は接客スマイルを浮かべて伝える。
「以前は荷運び用として使用していましたが、サージスには他の大陸とは違い、馬がおりません。そのためお客様のご移動に使用させていただくための牛車をご用意いたしました」
案内されるがまま、ルーク達は牛車乗り場に移り……。
「な、なんだこの緻密な装飾は……」
「ここまで細かい装飾は、クローシアだと王宮でもごく一部だけだろうな……」
ルークとアルストロはどちらも王宮育ち。アルストロは公爵令息として産まれはしたものの、家に居るよりも王宮でルークと過ごした時間の方が長い。一緒に王宮内を探検した事も有る。そんな二人から見ても牛車の装飾は異様に見えた。
凝り性のデザイン技師であるロイと彫刻技師、小人族の技術力が集結した作品だ。フェリーチェが参考にしたのは日本で観光用に作られた牛車だったので、大体どれも十人分程度の座席がある。
座面に置かれた座布団も、小人族から指導を受けた機織り師達の最高傑作。地味なわけがなかった。
妙な敗北感を覚えたルーク達は、移動先の迎賓館でも驚愕した。ルーク以外は来た事がなかったからその完成度に驚き、ルークは前よりも進化していた事に驚いた。
月例会の時も良かったが、以前よりも庭装飾が増えていたのだ。フェリーチェがゴーサインを出したということで、庭師が張り切って個性豊かなトピアリーを作ったのが原因だ。
芸術的で、個性的なデザインだが、全部が全部、建物との親和性があるかと問われたら微妙。しかし、迎賓館でも好き放題やるフェリーチェの姿勢にルークは好感を持った。
歴史がほぼ無いから、そしてフェリーチェが国民全員と顔見知りであるからこその自由だろう。
中途半端に歴史があるクローシアや世界最古の国、エテルニオンでは例え王が主導したくてもどこかで反発が起こる。目に映るのは目新しいものばかりで、新鮮に映った。
月例会から大して日も無かったはずなのにこんなに変わるものなのか。
和風別館に案内され、ルークは今日何度目か分からない驚きの声を上げた。
一度フェリーチェの屋敷に泊まった事があるから大体の予想はしていたが、フェリーチェの屋敷にあった部屋よりも色数が多くないか、と。予想に反し、かなり豪華だった。
フェリーチェは元々が万年金欠大学生だったため、自分の屋敷は最低限の物しか置かず、客室も質素倹約を体現した様な間取りだった。
しかし、ここは迎賓館。別館とはいえ、国賓を招く事が多くなるのだ。フェリーチェが参考にしたのは高校の時に福引で当て、卒業旅行で行った旅館のスイートルーム。
その旅館には室内露天があり、雑魚寝が出来る畳のスペースと和モダンなベッドルームがそれぞれ独立して存在していた。
そして、一般的なビジネスホテルと違い、部屋がドアで仕切られていた。ソファーのあるリビングルームやパソコン作業が出来るデスクも当然ある。
それをほぼ、丸パクリしている。流石にテレビや炬燵は技術力の問題で置く事は叶わなかったが、その他の家具は大体同じである。何なら、配置も。
スタッフによって部屋の機能説明等をされたルークは早速室内露天に向かう。
竹の柵で目隠しがされ、安全のため、ガラスの上からフェリーチェが結界を張っている。魔王オブシディアンも破る事が出来ない強固な結界のため、人間が窓側から襲撃する事は出来ない。入り口の扉にも同様の結界が施されているため、部屋に居る間は危害を加えられる事が無い。
勿論、護衛隊も配置されているので危険はほぼ無い。あるとすれば、来客の身内に敵が居た時くらいだ。フェリーチェの国民はフェリーチェを慕うか恐れるかなので、間接的だろうが直接的だろうが敵対行為は避ける。
そのため、フェリーチェが認知している来客の安全は保障されている。
安全面に関してルークに不安は無い。一度ヴィーネにも凄まれているし、自国の軍隊が束になっても勝てそうに無い魔族を何人も従えている。ついでに魔王。フェリーチェの恐ろしさは知っているのだ。
ならず者も、サージスで自分を襲撃するよりクローシアで襲撃する方が楽だろうと考えている。
開放感がありながらもプライバシーは保たれている客室露天で、ここ最近の疲れを癒した。




