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六十七話 前夜祭


 今日は十月三十一日。明日から開国祭が始まるという事なので、俺も皆も忙しいが、今日は十月三十一日なのだ。ハロウィンなのだ。



 前世のハロウィンは元々、お盆と収穫祭と大晦日を一気に祝うキメラ行事だった気がするが、そんな事は知らん。日本であったように仮装してお菓子を交換するイベント、で良いのだ。



 という事を幹部会議で提案してみると、前夜祭にピッタリだ、と意外に賛同してもらえた。仕事を爆速で終えた俺は仮装用の衣装を被り、教えてもらいながら作ったお菓子をバスケットに詰めて外に出た。


 料理が壊滅的に出来ない俺だが、アレンの素晴らしい手腕により屋敷のキッチンが破壊される事は無かった。



 シルヴェリスに貰ったお酒を開けようかとも思ったが、後夜祭をやりたいとの事なのでその時までお預け。どっちにしろ、俺は飲めんけど。


 屋敷の外は、いつも以上に賑わいを見せている。

 特に子供達は大はしゃぎだ。祭りは明日からだが、まだ他国の人間は殆ど来ていない。誰かが来た、という報告も特に受けてはいない。少しくらい身内ノリでバカ騒ぎやっても問題無いだろう。



「「とりっく・おあ・とりーと!!」」

「フェリーチェ様、お菓子くれなきゃいたずらだよ!」


 早速来た。十歳前後の集団だ。俺は綺麗にラッピングしたお菓子を一人に一つずつ、渡していった。中身は不恰好だが、何とか形になった物達だ。

 ラッピングは得意なので問題無い。ただ、紙を贅沢に使ってしまった。ビニールとかが無いから仕方ないっちゃ仕方ないけど、ちょっと反省。




「わぁ……! ふくろ可愛い!」


 ラッピングされているから中は見えない。そして、ラッピングはめちゃくちゃ綺麗に出来た。開けてから中身とのギャップに落胆されたくない。


「あ、あのな、そのお菓子、俺がアレンに教わりながら作ったんだ。だから、めちゃくちゃ不恰好だけど、許して」

 アタフタしながら子供達にそう言う俺。我ながらかなり見苦しいかな、と思う。



 そんな俺に、キョトンとした子供達は顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。子供らしい、純真無垢そうな笑顔だった。



「フェリーチェ様のお菓子!」

「食べてみたかったから、うれしい!」

 ホクホク顔で次のターゲットに向かっていく彼らに手を振って、ホッと胸を撫で下ろした。


 が、次に聞こえてきた声に、俺の心臓は跳ね上がった。吃驚して。



「とりっく・おあ・とりーと……!」


 慣れない様子で、そして少し困惑の色を滲ませてそう発音するのはクローシア国、スウィート公爵家長女のクラリッサ。



 まだ祭りが始まってもいないのに、と彼女の護衛騎士に視線で訴えると、気不味そうに視線を逸らされた。始まる前に来るなとは言ってないけど、来るなら来ると伝えてほしくはあった。

 こんな身内ノリのバカ騒ぎを見せるのは恥ずかしい。しかも、仮装をした俺はこの世界の人達から見たら奇妙に写っている筈だ。



 前回女装を披露した時はメイド服だったし、何より俺が俺だとはバレていなかった。でも今着ているのはトイレの花子さんのコスプレ。

 サスペンダーの付いた赤い膝丈のスカートに半袖のワイシャツ。


 それを知り合いの男が着ているのだ。女装文化の無い世界に生きる彼女達からしたら、奇妙を通り越して不気味とも言えるだろう。

 流石の俺も羞恥を覚え、挙動不審になりながらも何とかお菓子を渡す。



「じょ、女装が出来るのは男性だけですものねっ! とても男らしいと思いますわ!」


 お菓子を受け取ったクラリッサは、俺の格好に共感性羞恥で真っ赤になりながらそう言って走り去っていった。少し……いや、かなり誤解を与えているような気がする。



 まあ……追いかけて誤解を解こうにも、この格好じゃ余計な誤解を生む事になるんだよな……。俺に女装癖が有るという誤解を払拭するのは諦めよう。

 彼女は貴族だし、他国の国王の醜聞は余程の事でなければばら撒かない筈だから。女装を余程の事と認識されたらそれはもう仕方が無い。いざとなった時のためにも弁明用のカンペを準備しなければ。



 サージスに作った別荘で余生を謳歌しているクリスタルおばさんも仮装はしているが、違和感は無い。魔法使い風だからだ。

 この世界では誰もが魔法を使えるが、魔法使いという職業は無い。だから、日本でよく見た三角帽子の魔法使い衣装は、有りそうで無かった物なのだ。



 俺のは、絶対に有ってほしくない物だ。俺すらも後悔している程。自国の知り合いなら……と思ったけど、外国人の知り合いに見られるのは恥ずかし過ぎる。


「フェリーチェ。今のって……」

「見られたくなかった格好、見られた。傷心だわ……」



 俺とほぼ同じようなデザインの花子さんコスだが、タッチの差で見られずに済んだオリヴァ―を少し恨んだ。見られたとしても、オリヴァーならそんなに違和感無い気がするんだよな。

 俺より華奢だし、身長も同年代の男と比べると低いし。こういうの言うと怒られるから言わないけどさ。



 よしよし、と同情の言葉を掛けられるけどオリヴァーの口元は上がっている。俺が恥ずかしい思いをしたのが相当笑えるのだろう。


 お前も見られてしまえ、と悪態を吐きたくなる気持ちを堪え、俺はオリヴァーからお菓子を受け取った。


――――――――――――――――――――


(ちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!? 何でフェリーチェ様があんな変な格好してるのよぉぉ!)


 クラリッサは初めて見るフェリーチェの女装姿にテンパってしまい、街の中心を通っている大通りを猛ダッシュで逃げていた。




 遡る事一時間前。


 本当なら部屋でゆっくりするつもりだったクラリッサは、迎賓館のスタッフに今日が前夜祭である事、そして道行く人に『トリック・オア・トリート』と言うとお菓子を貰える事を聞いてしまった。


 甘い物全般が好物なクラリッサにとって、合言葉を言うだけでお菓子が貰えるというのは魅力的に映ったのだ。しかも、フェリーチェ自らお菓子を作っているという噂もゲットした。



 早速護衛を一人連れて街に出る。最初に向かったのは勿論、フェリーチェの屋敷。場所は知っているし、フェリーチェの手作りお菓子を食べてみたかったから。

 特徴的な桃色の髪を見つけたクラリッサは意気揚々と合言葉を口にするが、途中からその身体を見て語尾を窄ませる。格好から人違いではないかと不安に思ったのだ。



 しかし、振り向いたらしっかりフェリーチェで安堵し、次にムクムクと湧き上がるのは困惑。履いている物がスカートという事は辛うじて分かった。

 けれど、足を出す事に対してあまり良い感情を抱かない環境で育ったクラリッサは、こんな丈の短いスカートなんて初めて見たし、それを自分より二十センチ以上大きい男が着ている事にも動揺が隠せなかった。



 それはフェリーチェも同じで、相手がクラリッサと分かった瞬間、羞恥でボンと顔を赤らめていた。


 結局、片想い相手にも関わらず、殆ど話す事もないままクラリッサは逃げ帰ってしまったのだ。



(折角のチャンスでしたのに……)

 丁寧にラッピングされたクッキーはほんの少しだけ苦く、クラリッサが抱えている今の心境を表現しているかのようだった。

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