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六十五話 ご機嫌


「お母様、どちらが良いと思いますか?」

「やっぱり、クラリッサの金髪にはこの水色の生地が似合うと思うわ」



 クローシア国スウィート公爵家。長女クラリッサはサージスからの招待を受け、両親と共に開国祭に行く予定となっていた。


 現在はお抱えの仕立て屋を呼び、生地を選んでいる途中だ。初めは同席していた父アルストロだが、あまりの長さに自分の持ち場に戻ってしまっている。




 クラリッサも、夫人エルサもフェリーチェの婚約者という立場は諦めていない。何とかして他の令嬢を出し抜かなければいけないのだ。開国祭には自分と年の違い従姉妹、クローシア国の王女も出席する。油断は禁物だ。


「レースは大きい方が可愛らしいわね」

「リボンも大きくしましょ」



 職人として来たお婆ちゃん達は、好きな人に振り向いてほしくて努力した過去の自分と、今のクラリッサを重ね合わせて微笑ましそうに口角を上げる。





 二時間後、お婆ちゃん職人の画力によって理想のドレス設計が終わったクラリッサは、従姉妹に会うため王宮まで向かった。手には先程デザインされたドレスの設計イラストが握られている。





「リリィ、リリィ!」

 従姉妹、リリィの部屋の扉を開けたクラリッサは既に公爵令嬢としての作法は遙か彼方だ。


「何よぉ、こんな突然。連絡も無しに」

「別に良いじゃない。従姉妹なんだから」


「親しき仲にも礼儀あり、よ。クラリッサ。それで、何の用?」

「見て!」

 クラリッサは設計イラストを応接テーブルに叩きつける。


「へぇ……可愛らしいデザインね。いつもの変なワンピースはどうしたのかしら?」


「あれはサージスの服なの。だから、スウィート公爵令嬢がサージスのお祭りに行くのには不向きかなって」

「自国の成人パーティーではそのサージスの服着てたのに」



 呆れた様な表情のリリィ。成人パーティーも開国祭も、どちらもスウィート公爵令嬢として行くのに変わりはないのに、と。



「おとこ……?」

「ち、違うわよっ! ただ私は、スウィート公爵家の令嬢として恥ずかしくないようにと思って……!」


(これは正解みたいね……)

 クラリッサのあまりの狼狽ように、裏にあるのが男だと確信するリリィ。



「確かパーティーは開国祭の三日目なのよね。それまではどうするつもり?」



 開国祭は十一月の初週、一週間にわたって行われる。フェリーチェが招待状を出したのは開国祭の三日目に行われるお披露目パーティー。

 それ以外の催し物には特に招待していない。招待状を見せればどの催し物にも賓客という事で優先的に入れる、とは書いてあったが。



 男が目的ならドレスを使う三日目に丁度良く着くようにするのだろうか、とリリィは推測したが、クラリッサは迷わず「一日目より前に入るつもり」と言った。一日目より前、となるとサージスでは前日準備以外は普段と全く変わらない。


「お祭りは三日目のパーティーだけじゃないのよ。私だって街でのお祭りにも参加したいわよ」



 演奏会や屋台、研究発表会等は全ての日程で開催が決定している。しかし、三日目だけを目的にしては全部を見る事が難しい。時間が圧倒的に足りないのだ。



「一日目に着くのじゃダメなのかしら?」

「そしたら一日目に楽しめないじゃない。私は初日から楽しみたいのよ」


「そういうものなのね。私、お父様に聞いてみようかしら。サージスの王とは同盟関係にあるみたいだから。クラリッサとは一緒に行きたいわね……」

「私もお父様に話しておくわ。私達だけでも先に行けるかもしれないものね」


 クラリッサが護衛だけを連れて自領以外に行く事はあまり珍しい事ではない。そして、移動手段はサージスから派遣された竜飛車。馬車や船での移動よりも安全だ。



 それは体験済みの両家の親も承知しているため、女性組だけ一足先にサージスに発つ許可が降りた。まあ、まだドレスも出来ていないのでそれからにはなるが。


――――――――――――――――――――


 各国から着々と国際空港の完成報告が寄せられてくる。客船港もサージスのクルーズを停泊させる時間を運行表に組み込んでくれた。



 実際に運転が開始されるのは開国祭以降、しかも二ヶ月に一本という超マイナーな路線である。


 でも、それくらいが丁度良い気がする。国土は広いけど開拓域は広くないし、もし一気に移住されでもしたらパンクするってのと、うちが増えるって事は他国が減るって事のイコールだから。来てはほしいけど、無駄な敵も増やしたくないので。



「大分整ってきたね」

「ああ。オリヴァーはどうだ? リヴのことちゃんと誘えたか?」


「勿論だよ。お祭りは一緒に回れることになったし、このまま落として婚約まで持っていけたらなって思ってる」



 エクレシアに居た時には絶対に見せなかったオリヴァーの満面の笑み。改めて、逃げ出して良かったと思う。

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