六十四話 造船所見学
開国祭の準備は着々と進んでいる。サージスは雪が積もる季節になったが、作業は予定通りに行われる。
俺は招待状を全て出し終えて、カレンダーの都合上、調整がしやすいので『十一月の初週に開国祭を行う』と伝えた。大きな一仕事を終えたので、今日は客船の進捗を見に行く。
「フェリーチェ様、お越しいただきありがとうございます。お部屋のサンプルと、船体の方はある程度の骨組みが完成いたしました」
この客船を管理しているレオナルドが今日の案内役だ。
「じゃあ、まずは本体の方から見せてもらおう」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
船体の素材は鉄。本当は鋼鉄で作りたかったのだが、俺が仕組み分かんなかったので鉄に強化属性を込めて錆等の劣化要因から遠ざける事にした。これは別に特級でなくても同じ様な効力が期待出来るのであまり問題にはならないだろう。
正直船の仕組みは全く分からないので有識者の彼等が説明してくれるのをただ聞いているだけになる。もう少し船についても勉強しておけば良かったかな。
近未来都市のジオラマを作った時に3Dプリンターを使ったのだが、ジオラマって小さいしガワだけでも成り立つからと、あまり調べなかったのだ。
内部まで詳細に調べて作っていたのは理久の方。理久は俺とは逆で、外側にはあまり頓着しなかったが、内側は文献や図鑑を何冊も読んで徹底的に調べていた。
今とてもここに欲しい人間の一人だな、理久は。
「船の燃料には無属性の魔鉱石を使用する予定です。ヴァレンシアからの技術協力を受け、魔法具も少しずつ作れる者が増えてきましたので」
この世界の無属性魔鉱石って、あっちの世界で言うガソリンとか電気みたいなものか。クローシアの半自動ミシンも無属性の魔鉱石を使って作ってるらしいし。それにしても、この巨体動かすのにどれだけの魔鉱石が必要なんだろか……。
「こちらが先日完成いたしました、燃料室となっております」
「ここの台座に魔鉱石を嵌め込むのか?」
「はい。魔鉱石に含まれる魔素をエネルギーとして使用し、スクリュー等の部品を動かします。魔鉱石は魔素湖の様に、動物を魔物に出来る程の魔素は有していない事が分かりましたので、今一番安定して供給出来るエネルギー源になっているのです」
「そこまで調べたんだな」
「魚が魔魚になってしまうと、漁師達が危険に晒されますから」
魔鉱石は希少という事以外、殆どデメリットが無いエネルギー資源らしい。石油の様に変幻自在ではないかもしれないが、魔物が居る限りは永遠に産出出来る。調べた結果、環境に与える影響も小さい。魔鉱石に俺が全力で魔力を込めればゴミになる事も無い。
地球にもここで採れるのと同じ魔鉱石が有れば良かったな。あ、でも植民地化されたら油田と同じ様に悪用されちゃうな。ちゃんと自衛出来る国じゃないと危険か。
「次は共有階に。壁や装飾はまだですが、床は張り終えました。あちらの文化に合わせ、全部屋土足可能の絨毯になる予定です。共有廊下は樹木型魔物から切り出したフローリングを使用しました」
便利だな、樹木型魔物。どんな木材よりも丈夫で加工がし易く、切っても切っても次の日には勝手に生えてくる性質を持っているなんて。しかも保温性や防音性、防水性も高く、防腐剤を塗る必要が無い。もう守護者の俺よりチートだろ。
「こちらがフェリーチェ様が考案されたお土産コーナーになる予定です。最大で五店舗まで入る事が出来る様設計しました」
「これってサイズ感どんな風になるんだ?」
「横幅一メートルの商品棚でしたら三つくらいが限界かと。三つ置くと丁度人がすれ違える様になります。四つですと、少し窮屈に感じます。船内の店ですし、そこまで大きい必要も無いと判断しましたので店舗の数を優先に設計させていただきました」
「ありがとう、十分だよ」
ショーケース二つだけのカウンター店っていうのも見た事が有るから、俺もお店の大きさはそんなに要らないと思う。
「そして、左右の扉は食堂に繋がっております。右の方ではコンサートが出来る様に簡易的なステージもご用意しました。左側にステージは有りませんが、その分スペースを大きく取ってビュッフェ形式でお食事を提供出来たら、と」
もう豪華客船って感じだな。空飛ぶ新幹線な竜飛車と、動くサージス豪華代表の客船。随分と高級志向になりそうだ。
治安維持的に金持ちが多いのは歓迎出来るけど、人口維持的にはもう少し家の縛りが無い人も来てくれると嬉しいから、偶にする贅沢として成り立つくらいの値段設定にしよう。後で各国の平民の平均月給を聞いておかないとな。
「出来ている範囲で紹介出来る所はここまでとなります。次は各グレードの家具サンプルと部屋のモデルをお見せします」
「ああ、それは楽しみだ」
雪の中、少しだけ移動して家具職人の工房街に向かう。この工房街の奥まった所には、モデルルーム用の家が何軒か建っている。部屋のサイズは一人での滞在なら十分すぎるくらい大きい。間取りはこれで決定じゃなくて、配色や家具のバランス感を見るのに使うだけだ。
俺は内装に関して、一切のセンスが無いのでここも見るだけで大した事は言えないだろう。
「こちらが通常客室に置く予定の家具となっております。客室は左右の窓側と、窓の無い中心に位置しますので、窓の無い部屋は同じ設備で値段を少しでも抑えられたらと考えています。窓ガラスのデザインはポンさん達がいくつか種類を作ってくれたのでそちらを採用しようかと」
ベッドやサイドテーブル、ソファー等は白やブラウンを基調とした清潔感と統一感の有るデザインだ。
今回ベッドはダブルで固定らしい。ツインを沢山作るよりも楽なんだとか。二人以上が一部屋に泊まる場合はソファーの背面を倒してベッドにする事が出来るらしい。周りの国が近世ヨーロッパっぽいから忘れないで済んでるけど、もし俺がここで産まれたら他国に行く時とか、ギャップに苦労するだろうなぁ。ソファーベッドは流石に現代過ぎる。
こういうのが有るよ、と職人達に教えた事はあるが、詳しい仕組みまでは知らなかった筈だ。
エクレシアってもしかして、資源と資金が無いだけで技術はめっちゃ高いとか……? 小人族が居るとはいえ、一年ちょっとでこんなに成長しないよな……?
家具もそうだし、父さんの作る時計もだし、日本レベルとまではいかなくてもこの世界の水準で言えばかなり高い技術力だと思う。
「ああ、これならリラックス出来そうだ」
「本当ですか! 良かったです……! では、次はスイートルームの方にご案内しますね」
ホッとした様に笑ったレオナルドと隣の家に向かった。
「こちらがスイートルームの家具になります」
「へぇ……って、これ!」
俺が真っ先に目に付いたのは黒い箱。これはまさか……。
「保冷庫になります。スイートルームだけなら置いても問題無いくらいに、魔法具としての保冷庫は生産されていますので。ただ、我々の技術ではフェリーチェ様が理想とされる保冷庫にはまだまだ到達出来ておらず……」
「いや、十分凄いよ。よくここまで完成させたな。保冷庫は貴族の中でも贅沢品って扱いだし、誰にでも喜んでもらえると思う」
エクレシアからサージスまでの所用時間は大体一週間。魔鉱石によるエンジン式になったので、恐らく上陸時から三日は短縮されている。
どこの国に行くにも海が有るなら一般的な船で二週間以上は掛かる。往復で一ヶ月近く時間を取られる事も有るかもしれない。
もし値段を高くつけていてもかなりの需要が見込めるだろうな。設備面でも、必要日数面でも、サージスの船は優位に立てているはずだ。
「このまま進めてくれ」
「はい。それと、開国祭終了までには二台目に取り掛かれるかと。そちら内装の方向性はどういたしましょうか?」
「開国祭での評価次第だな。高級志向だ、と評価されたらそっちを突き詰めてくれ。逆だった場合は従来の予定で大丈夫だ」
「では、その様にいたします」
それにしても、仕事が早いな。休んでるんだろうか。
「じゃあ、今度差し入れをさせてくれよ」
「ありがとうございます、フェリーチェ様」
造船所に限らず、偶に差し入れを持って行こうか。こん詰められてもいけないから。




