六十三話 準備
丸一日休みを貰って回復した俺は、またいつもの様に仕事を始めた。
常設の仕事や、開国祭を開くにあたって出て来た仕事、それからパーティーへの出席等。通常、一国の王が他国にホイホイ行く事はないが、高位貴族や王族が友好国の王族をパーティーに招待する事は有る。
パーティーであれば茶会にチマチマ出ていくよりも手っ取り早く、効率的に顔見知りを作る事が出来るから、なるべく出席しておきたいところ。
スウィート公爵家との繋がりも有ったという事で、クローシアのパーティーにはもう行った。夫人が娘のクラリッサをアピールしてきた様な気もしたが、新興でも国王である事に変わりはない。自分の娘や息子を紹介したいと思うのは当然なのだろう。特に問題は無かった。
眼前に迫っているヴァレンシアとエテルニオンでのパーティー。これもそこまで気負わなくて大丈夫だろう。ヴァレンシアには殆ど行った事がないが、エテルニオンには行った事が有る。
俺が思う以上に音楽好きが多いらしい。同じ音楽好きとして、話も合うだろうから。
そしてそのパーティーまでは仕事の消化祭り。休んだ事でモチベと効率はV字回復。いつもの倍くらいの速度で消化出来た。いつもこうだとありがたいんだけどなぁ。
「そういえば――」
オリヴァーやマリー達と一緒に夕食を摂っていると、オリヴァーがそんな風に口を開いた。
「フェリーチェって、貴族嫌いなんだよね?」
「ああ、嫌いだな」
「僕も含めてだけど、この国のほぼ全員が貴族に良い思い出が無いんだよね。開国祭以降、サージスにエトワール伯爵家みたいな人達が来ちゃったらどう我慢すれば良いかな」
「そうだなぁ……。魔族も居るし、招待する貴族は選ぶけど、万が一の事も有るからな。気に入らない人間と関わらないといけない時は、頭の中でそいつの一番嫌がりそうな事をしたり、本当に耐えられない程嫌な時は頭の中で四肢もいで殺したりする。それで、勝てない相手に頭の中では自分の方が有利だって優越感に浸って凌ぐ」
前世でも合わない教師とかクラスメイトは居たから、そういう奴等と話さないといけない時は大体この手を使っていた。
シュレッダーに掛ける紙を嫌いな奴に見立てて自分のご機嫌取りをした事もあったな。
「か、かなりスプラッターなんだね……」
「演出もご機嫌取りには大切だからな。現実と妄想の区別さえ付けば、世間には何の害も無い」
「わたしも参考にしようかしら。今後嫌な人に会う事が有った時のためにも」
マリーが俺に同調し、オリヴァーは「自分はいいや」と降りる。まあ、俺のやり方は性格的に向き不向きが有る。実際に俺が葬ってしまった誘拐犯の死体を見た事が有るオリヴァーには不向きだろう。こういうのは、妄想に現実味が無いから良いのだ。
ヴァレンシアでのパーティーは芸術品の披露会みたいな物だった。冬の寒さが厳しいヴァレンシアで作った氷の彫刻を、暑くなってきた初夏に披露する。
氷は水属性が上手く扱えれば炎天下に一年中放置しても溶けない。つまりここでは、魔法の腕と彫刻の腕、芸術家としてのセンスが問われる。
実際の近世ヨーロッパ社会でこういったパーティーが行われていたかは分からないが、俺は好き。芸術品を通した交流会。
エリス女王に何か無いのか無茶振りされたのは良い思い出。ピアノ奏者とヴァイオリン奏者のデュオ彫刻を即興で作ってみたらめちゃくちゃ反響良かった。芸術科目が好きな俺だから出来た事。
やはり誰かの懐に潜り込む時には相手の文化に沿った何かしらの芸を持っていると強い。新しいクラス、自己紹介で趣味や推しが一緒の生徒と喋りたくなるのと同じだ。
同じ様に、エテルニオンのパーティーも概ね成功したと思う。主催者のシルヴェリスが音楽好きということで、参加者の飛び入り参加も認められている、立食パーティーとコンサートが合体した様なイメージだった。
飲み会のノリでやる喉自慢大会に似ている。大学のサークルで新歓やった時、未成年組はひたすら酔っ払いの歌を聞かされた思い出が有るなぁ。
「かなり知り合いを増やしたね」
各家に送る招待状の文言を、招待予定の名簿を見つつ考えていると、オリヴァーが手元を覗き込んで来た。
「ああ。俺を子供と侮ってくる奴も居るけど、殆どは一人の国王として見てくれてる。強いコネってほんと大事だよな」
「そうだね。これに関しては僕達が代わってあげられないから、フェリーチェにすごい負担掛けちゃうけど……」
「平気平気。結構気が合いそうな人多かったから。俺が芸術系齧ってるって知って会話膨らませてくれてさ。少なくとも、エトワール伯爵家みたいな奴は居なかったよ」
エクレシアのように国が切羽詰まっていないので、統治者の心にも余裕が有るのだろう。そして奇跡みたいなことに、国王が揃いも揃って人格者。
善意の塊という訳ではないが、人を人として見る事が出来る王達だ。
エクレシアの王は知らない。ほぼ喋った事が無いので。ハイリーの所も本土に降り立った事は無いので全容はまだ不明瞭。まあここ二つは今行かない方が良いだろう。
月例会の会場にもなっていないのだ。休戦中とはいえ、争っている事に変わりない。触らぬ国家に祟りなし、だ。
「楽しみだなぁ……。最近、街がどんどん変わっていくの見ると、本当に僕達が国を興したんだ、って実感するよ」
「もう一年以上経つのにか? それに、開国祭まであと少しだぞ?」
「うん。だからこそっていうのかな。夢じゃないって実感して。誰かに占領されて統治権を奪われる事も無く、初めから独立した状態でお披露目が出来るんでしょう?」
「確かに、それもそうだな」
最近まで夢じゃないかと思っていたっていうのは興した本人なのであまり分からないが、始めから独立している実感というものは俺も分かる。
地球だとあと一世紀もすれば大航海時代に突入し、世界に存在する国の殆どが植民地化もされる様になる。過去に一度も占領された事が無い国というのはとても珍しいのだ。
フェリーチェが死んで、二代目の守護者として転生した先が既にどこかの国に占領されたサージスとかなら笑い話にもならないけど、俺のコネと守護者の力が死んでいない時点ではそのリスクは低い。
生きている時に攻め込まれたとしても俺が全部押し返せば良いだけだ。だから色々な国と関係を持つ等、結構大胆な行動を取っている。たかを括っていると言っても良いだろう。
「ほんと、そういう意味では良い時代に産まれたな」
「そうだね。僕は喋った事がないエクレシアとグランベリアの王についてはまだ分からないけど、その他三カ国はかなり良い人だよね」
「気さくで話し易いよな」
「そうそう、特にエテルニオンの王は口調もとっつき易いよね」
一度は「またポーカーフェイス……?」とか言ってビビっていたオリヴァーも、あっさり化けの皮が剥がれた事でシルヴェリスに懐いている。
マオが兄弟子であるシルヴェリスの前では胡散臭い笑みを浮かべられないというのも要因の一つだろう。
この世界で一番権力を持っているであろうシルヴェリスと仲が良くなれたなら、子供で所詮は国王代理だ、と低く見られる事も少なくなる筈だ。皆、権力者は怖いから。まあ、今までオリヴァーが軽視された事は無いけど。
「僕、結構楽しみになってるんだ。エクレシア以外の人達と殆ど交流が無かったから、他国の人達と話すの」
「開国祭が終わったら国王代理としてエテルニオンのパーティーに呼ばれても良いぞ」
「それはやめとくよ。フェリーチェの話聞くだけで十分楽しいから」
別に、代わってもらいたいとは思っていなかったが、少し残念だ。そう、代わってもらいたかったわけではない。断じてそんなことは無い。
娘や息子を紹介されるの、うんざりしてきたとかそういうのでも無い。断じて無い。
「あ、そうだ。フェリーチェが前に言ってた花火。小人族の中に作れるかもって言ってくれた子が居たから試作の発注掛けたよ。デザインはロイの弟子達が請け負ってくれるって」
「おお、小人族ってほんと多才だな。エクレシアでは見た事無かったし、無いと思ってたのに」
「クローシアに花火文化が有ったらしいよ。小人族はこの世界に一度でも存在した事の有る技術を持って産まれてくるんだって」
だからライムもミラもポンも、他の小人族達も技術のジャンルは偏ってたけど色々深掘りした状態で知ってたんだな。
「浴衣の方はどんな感じだった?」
今までは袴か洋服が主流だったが、弟子も育ってきたという事で、浴衣を発注してみたのだ。
風呂上がりにも着れるし、祭りといえば浴衣。今回の開国祭はサージスを世界に広める事が目的で、あまり出番は無いかもだけど、それが終わったら年末の生誕祭が有るから。
「マリー達がすごくはしゃいでたよ。女性用の方が華やかなの多かった」
「届いたのか。後で母さん達が着てるの見てみたいな」
「もれなく僕らも着せられると思うけどね」
「だな」
ミラの影響も有り、今までのカツカツだった状況も有り、母さんやマリーを含めた女性達は新天地でお洒落に目覚め始めた。
と同時に可愛い子には服を着せよ、的な感じで息子達を着せ替え人形にする頻度も増えた。俺もオリヴァーも、もはや母さん達の着せ替え人形だ。まあ、百均のペラペラ生地じゃなくて、ちゃんとしたミラの服だから不満は無いけどさ。
そろそろ体の年齢的にも違和感を覚えるのだ。俺は十一歳だけど既に百六十くらい身長有るし、オリヴァーも十四歳、成長期でガッと伸びた。測ったわけでは無いが、百七十は超えていると思う。
女装は“男性感”が有れば有る程良い、というミラみたいな価値観でなければそろそろ厳しい。
着てみたは良いものの、「何か違う……」とか呟かれたら、立ち直るのにかなりの時間を要する。
着せるのは、普通ので良い、両親よ。
…………今日の一句。




