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六十二話 休息


「客船と家具デザイン終わりました」

「ロイさん、早かったですね」

「これが世に出ると思うと、筆がのりますよ」



 ここはサージスの屋敷内の一室、幹部作業室。普段は工房で作業をする彼等だが、今はどの課も開国祭に向けて動いている。

 月例会でフェリーチェが開催を宣言した事も有り、現実味を帯びたという事で事務作業や進捗状況の共有でいつもは静かな部屋が賑わっている。


 自らも描き、デザイン技師の工房から上がって来たデザイン画も集めて客船課に提出に来たのはロイ。すっかりトレードマークになったいちご飲料を片手に分厚い封筒をヒラヒラと振っている。



「客船管理課に相談が有ります」

「はい、何でしょう」


「スイートルームはいくつ作りますか? 部屋毎にコンセプトや家具デザイン、間取りなんかも変えたいんです」

「そうですね……。少し時間をください。デザイン画を造船業者と確認して、変更点と一緒にお伝えします。時間としましては、今週末の午前中はどうでしょうか?」


「分かりました。ではそれでお願いします」


 デザインとしては良くても、作りたいのはボトルシップではないので安全面は考慮しなければならない。その事は竜飛車作りに携わったロイもよく知っている。

 本来の自分本位な性格がかなり矯正されたロイはその事に文句を言う事は無く、アッサリ了承した。



 鼻歌混じりに幹部作業室を出て行ったロイを見て、その場にいた人間は共通して思った。人は一年でこんなに変わるのだろうか、と。



 いくらフェリーチェの事を気に入ったとはいえ、二十年近く変わらなかった性格はそう簡単には変わらない。


 実際、変えようと思わなければ無理だっただろう。ロイはフェリーチェが自分達の為に、慣れない政治を文句も言わずに主導しているのを見て無自覚に羞恥を覚えていたのだ。



 九も下の子供が頑張っているのに自分は対人関係から逃げてばかりだ、と。我が儘を止め、人の気持ちを汲み取り、そうしているうちにいつの間にか性格は丸くなった。


 そういった経緯を知らない幹部仲間達は、何とかしてターニングポイントを聞き出そうとする。




「ロイ!」

「はい」

 幹部の中でも比較的ロイと年齢の近い青年が、既に屋敷を出たロイを追いかける。


「今日、幹部全員で行くぞ」

「飲みのお誘いですか? おれは構いませんが、貴方達の仕事は大丈夫なのでしょうね?」


「ああ、今日の夕方までに終わらす」

「そうですか。では、終わったら工房の方まで呼びに来てください」



 相変わらず口調や声色は人をあまり寄せ付けないが、随分と話し易くなった、と青年は思った。


 幹部作業室に戻った青年は、たっぷりタメてグッドサインを送った。喜色を全面に押し出した声が上がり、その日の仕事スピードは平均して通常の二倍にまで上がったとか。


――――――――――――――――――――


 疲れた……。最近、というか月例会の後からだけど、開国祭についての特別案件が多く、常設の仕事が少しずつ後回しにされているのだ。

 それに加えてヒリュウとの剣の稽古も有るから、毎日の時間刻みに付けた予定は常にカツカツだ。



 累計睡眠時間は昔とあまり変わらないけど、連続睡眠時間は徐々に短くなっていっている。最近はヒリュウとかサンが下がった後に隠れて仕事をやっていたりもする。これは非常にマズい。バレたら絶対オリヴァーのお説教コースだ。



 とはいえ、終わらない物はどうしようもない。後は俺のチェックを待つだけの案件も多いし、代わりにやれる人間はサージス内にオリヴァーしか居ない。そのオリヴァーも人の尻拭いが出来る程暇ではないし、そもそも俺の代わりが出来るのは俺が出払っている時に限る。


 ……どうするべきか。よし、決めた。



「休みを取りたい?」

「ああ。実はだな……」


 翌朝、執務室に行く途中のオリヴァーを引き留めてここ最近の睡眠事情について相談した。多分これが一番、怒られないのだ。



「そういう事はもっと早く言ってくれても良かったのに。良いよ。一日休んだ方が自分の体の為になるって判断したんでしょ? 僕はフェリーチェが相談してくれる様になったの嬉しいよ。こっちで何とかするから今日一日休んじゃって」

「え、今日で良いのか? 簡単な引き継ぎとかは?」


「サンに教えてもらうから大丈夫。ほら、回れ右」



 急だったが、思っていたよりも早く休みが取れた。よし、二度寝だ二度寝。今日は一日中寝るぞ。

 アレンに昼食は不要と告げて、布団に潜り込んだ。「寝れないなあ、寝れないなあ」とごろごろする布団内部でのグダグダは二分も無かったと思う。




 次に起きたのは夕方。日が沈み始めた午後五時頃だった。

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