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六十一話 開国祭、やります。


「フェリーチェ様、エクレシア王からの伝言を預かっております」

「昨日の今日で? 随分早いな」



 朝、支度を済ませて迎賓館に向かうと、スタッフのエルフに声を掛けられた。治療した事への礼と、もう月例会を開いても大丈夫だという体調報告だった。出来るだけ早く帰りたいのだろう。

 大臣(仮)が本当に大臣だとしたら、長期間国を開けるのは避けたいはずだ。


「じゃあ、泊まってる他の王達にも伝えてくれ。今日の十二時に月例会をここでやるって」

「かしこまりました。では、そのように」


 お昼ご飯は何だろうか。今から楽しみだな。


 朝食を摂り、時間になるまでは上がってきた報告書に目を通して待つ。三十分前には呼ばれ、最終確認をする。十五分前からゲストのお迎えだ。



 各国王に付けられたスタッフにより案内が為される。ルーク王は自ら迎えに行っていたが、他の国ではメイドの人に呼ばれて案内してもらっていたので、多分こっちが主流なのだろうということで。俺は来た人達を笑って出迎えれば良いだけだ。


 全員が着席すると、それぞれの前に料理が置かれる。前日にリクエストを聞いて、それに沿った物を出すスタンスだ。因みに俺にリクエスト権は無い。試作品の味見係だから。



 俺とシルヴェリスの前に置かれたのはふわふわのパンケーキ。いちごやブルーベリー、ミント、蜂蜜、クリーム……。作れはしないからせめて絵で説明、と初期の方に描いたのが、漸く現実の世界にやって来てくれた。


 シルヴェリスが俺と同じメニューなのは「じゃあ、同じので」を発動したからだろう。

 何度かプライベートで食事に行って、その言葉は聞いてきた。初対面のあの日以降、俺は一切遅刻をされていないから普通に遊べる。ルーク王に対しては未だに遅刻するらしいけど。ここまで来ると遅刻魔っていう一種のアイデンティティだな。



「美味しそう。……これで試作品なの……?」


 小声で俺に耳打ちするシルヴェリス。俺も同意見だ。見た目に拘り始めたとは聞いていたけども。これ、日本でカフェ出しても売れるクオリティだ。俺は買っちゃう。



「……そうっぽいです……」



「お前らそんな距離感だったか?」

 ハイリーが耳打ちし合う俺達を見て怪訝そうな顔をする。


「ぼく達、一緒に食事に行った仲だから。ルークが子供こさえてからは全然行ってなかったでしょ? フェリーチェは、もう我が子」


 いいえ違います。俺はヴァングラスの子。



「阿保だ……」


 ほら、ルーク王が呆れてるじゃん。俺と出会う前のシルヴェリスはもう少しまともだったんだろうなぁ。



「皆様、お食事が冷めてしまいますわよ」


 エリス女王の助け舟に乗らせてもらい、月例会が始まった。

 基本的に食事中はあまり喋らず、全員の腹が膨れてから本題に入る。


 うん、美味い。このパンケーキ、フレンチトーストに変更しても美味しそうだ。



 ベリーの甘酸っぱいのも良いけど、とにかく全部に蜂蜜が合いすぎる。前世の俺はメープルシロップ派だったけど、今日から蜂蜜派になりそう。


 皆も自分の好きなメニューを黙々と食べている。めちゃくちゃがっついてるけど上品に食べるの、器用な人達。

「それでは、本題に入りたいと思います」


 グラス以外の皿が全てなくなったので、俺は口を開いた。



「開国祭、やります」



「「…………開国祭?」」

 綺麗にハモったな。



「まだ詳しい話は検討中ですが、十月か十一月頃を予定しています。このくらいだとサージスは初夏なので、他の時期よりは過ごし易いかと」


 これが、八月とか九月になると雪が降ってくるから色々と面倒な事になる。こっちの世界は地球以上に暑くならないので初夏くらいが一番丁度良いのだ。



「開国祭にはぼくらも招待してくれるの?」

「はい。連盟に入っている国と、隣国の竜ヶ丘には招待を出そうかと。それと、一部の商会長に」


 受ける受けないは各々の判断に任せる。クローシアで俺が取り引きをしていた服屋の主人にも出すだけ出してみようとは思っている。


「じゃあ、あれに乗れる?」

「その日までに国際空港が開通していれば。船便と竜飛車の代金徴収はちょっと迷ってます」



 幹部会にて、「開国祭の日はサージスまでの便を全線無料にしても良いんじゃないか」という意見が出た。発案者は客船管理課。

 招待して、来てもらう訳だからそれも有りかと賛同者は出たものの、最終判断をする俺が迷っているのだ。



 只より高いものはない。そういった言葉が日本に有る様に、無料というのは度が過ぎると胡散臭く映る。


 俺は無理。例えば、閑散期だから、みたいな理由で飛行機や新幹線を無料にされたりとかしたら。事故らないよな……? これ大丈夫だよな……? って思っちゃう。



「普通に取れば良いんじゃないの?」

「いや、祭やるから来てって呼んでおいて金はちゃんと取るとか、図々しいかなって」

「流石に考えすぎじゃねぇの」

 そうかなぁ……。


「なら、こうするのはどうかしら」



 エリス女王が提案した事は、俺にとって凄く魅力的に映った。開国祭の期間中限定で使えるサージス行き便一往復無料券の同封。個人的な譲渡になるので、その日に全便を無料とするよりはずっと良い。


 全便無料だと、俺が招きたくない奴までこっちに入って来る可能性が有るからな。エトワール伯爵家や、魔族の誘拐を主導していたラセフ侯爵家みたいな家が。



「ありがとうございます、エリス女王。その方向で話をしてみます」

 やっぱり、持つべきものは経験則の有る知り合いだなぁ。


「良いのか? 金払わせなくて」

「はい。その分、サージス国内でしっかり落としてもらいたいです」



 移動中に色々な街に滞在し、お金を落とす事が貴族の務め、みたいなところが有るが、一度船、竜飛車に乗ればサージスに着くまでは海か空しか無い。


 うち以外に払う場所が無いのだ。ただ、旅客船の方はフードコートや土産物屋も作りたいからそこでお金は自然に落ちると思う。土産物屋は、無くても良いけど有ったらテンション上がるよね、みたいな物から数量限定のブランの彫像まで様々だ。


 ただの彫像だと面白くないから、とブラン自らが微弱な神力を込めていたので邪気払いとしても使える。



 神力は込め過ぎるとアウトなので、毎朝祈りを捧げるのを条件に、一日に一回だけ不幸を防ぐという仕組みらしい。日本だったら詐欺業者と思われそうだが、ここでは絶対売れる。

 お金になるのは勿論の事、信仰する人が増えればそれを糧にするヴィーネの力も上がり、邪神みたいな外部の敵に余裕を持って対抗出来る様になる。ヴィーネが信仰されなくなれば徐々にブランの彫像は力を失い、ただの蛇の彫像になるらしい。


 これは巫女ルミナからの提案だ。



 母さんも「貴族も平民も、毎日教会に祈りに行ける程暇じゃないから良いんじゃないかしら」って言ってくれた。



 船では先着一人、国内では先着五人、とかにすれば購入目的とはいえ、ここに留まる理由になる。滞在するうちに、定住を願う人が出て来るかもしれない。


 完璧ではないかもしれないけど、現時点で最良である事は間違いなさそうだ。



「後五ヶ月かぁ……。楽しみだなあ、開国祭。演奏会とかも有るんだよね?」

「勿論、音楽隊のセロが曲順を考えているところです」



 音楽都市。音楽の都。そう言われる事が多いエテルニオンを治めているだけあって、シルヴェリスが食いついたのは音楽隊の演奏会。

 シルヴェリスが来るかもって伝えておこうかな。あの人達、緊張すればする程良い演奏になるって言ってたし。



「フェリーチェは演奏するの?」

「練習時間が取れたら、ピアノだけでも弾こうとは思ってます」


 セロがピアノ奏者でもあるから、スポンサーはピアノも新調してくれる。まだ出来上がってはいないので、新品が来てから練習までの時間が取れればエントリーはするつもりだ。年末の演奏会が好評だったから。



「ねえ、ぼくもエントリー出来る?」

「シルヴェリス王は、何か演奏したいんですか?」


「ピアノ。昔は趣味でやってたんだけど、国王になってからはあまり触らせてもらえないんだ」

 音楽はやりたい。でもやらせてもらえない。口実が欲しいって事だな。


「では、月例会が終わったら音楽隊の所に行きましょう。セロがエントリーシートを持っているので」

 音楽に関する資料や書類はほぼ全部セロが管理している。今の所それが問題に直結したりってのは無い。複写版も有るからそうそう問題は起きない。



「やったあ」

「開国祭について、他に何か質問等有りますか?」


「余は、迎賓館よりも畳の部屋の方が好きだ。当日泊まる場所の変更は出来るか?」

「迎賓館には和風別館が有るのでそちらを使う事が出来ます。ルーク王は王族ですし、俺の屋敷に泊まる事も可能です」



 喋った事が無い奴ならともかく、ルーク王は一番最初に知り合って、他の王に紹介までしてくれた王だ。エクレシアなら良い思い出が無いので反発は生まれる可能性が有るが、クローシアなら文句は出ない筈だ。


「ワフー、別館……?」

「後で案内しますね」


 日本を知らなければ『和風』と言われても何のこっちゃ分からない。実物を見せた方が早い。



「他には? 無いようでしたら、俺からの話は終わりです」



「次、グランベリアからエクレシアに言いたい事が有る」

 ハイリーがそう言い、エクレシア側の二人は目の奥に宿す警戒色を強めた。


「そんなに警戒すんなって……。まあ、無理無いか。俺から言いたい事は二つ。まず一つ目。俺の所とエクレシアは現在休戦中だが、こちら側からの降伏勧告はしない。二つ目。あの大臣どもには気を付けろ。以上だ」



 有無を言わさぬ声色で告げた。降伏勧告についてはどうでも良いが、大臣(仮)については、警戒して損は無い。

 一瞬だが、俺に見せたのは明確な敵意。今後、国王の足を大きく引っ張る事になるだろう。それには俺が関係する可能性が高い。あまり面倒事には巻き込まれたくないので。



 エクレシア側は何も言わなかった。だが、机の上に乗せられた拳は白くなる程握り締められている。伝わってはいる筈だ。


 そうして、あまり良い雰囲気とは言い難いが、月例会は終わった。エクレシアの二人は早々に帰った。俺が送っていったので、大臣(仮)達も悪巧みしている余裕は無いだろう。




 後は案内してほしそうな大人達を案内して一日が終わる。


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