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五十四話 月例会へ招待


 二月になった。お礼の手紙から返事は返って来ていない。その代わりにといっては何だが、招待状が届いた。



「月例会の招待……連盟からだな」

「ええ、そのようです」


 月一で会議と言う名の茶会をしているのは知っていたが、ずっと参加していなかった。数ヶ月前まではそもそも加盟すらしていなかったし、加盟を決めてからも参加費の確保だ何だって結構バタバタしていたから。


 連れて行ける従者・護衛は二人が最大らしい。昔に何か有ったんだな。付き添いに関する揉め事が。



「今回、私は行かない方がよろしいですか?」

「ああ。サンは元々エクレシアの貴族。顔が割れている可能性も無いとは言えないからな。ヒリュウを連れて行く」


「かしこまりました」

「お任せください」



 サンとヒリュウが同時に返事をする。ランクAのヒリュウでも対処出来ない事――オブシディアンクラスからの襲撃なんかが起これば、その時は参加者全員が仲良くお陀仏だ。そんなレベルの魔族は人間には造り出せない。ヒリュウだけでも十分だろう。



「服はどうしようか……」


 服装自由とは書いてあるけど全員正装していたらと思うと気軽な格好では行けない。ここは聞くのが一番かな。



「――という訳なんですけど……」

「そうね……。私も初出席の時は、最上級の物を仕立てさせたのだけれど、それ以降は普段着で出ているわ」


 別荘に滞在中のクリスタルおばさんは、頬に手を当ててそう言った。


「国のトップ同士の集まりでそれって良いんですかね……」

「今睨み合っている国同士はともかく、友好関係にある国は気安いわよ。ルークちゃんのお父さんなんて、夏場は毎回上裸だったんだから」


「上裸!?」



 許されるのか……それが。日本だと友達同士でも中々無いぞ。海水浴くらいか。


 なら動き易さ重視で、柄は目立たない和装で良いな。ヒリュウも和装だし。

 そっち系の在庫は大量に有る。和装じゃなくなると、俺のサイズはほぼ女児物だ。流石に月例会で女装はちょっとな、ということでクリスタルおばさんにお礼を渡してからミラに頼んでそれっぽい物を見繕ってもらった。護衛以外の武器携帯も認められているから、なんちゃって侍スタイルで。



 俺の頭が黒ければもっと格好良くなると思うんだけど。両親のお陰で顔は良いんだけど、髪色が奇抜過ぎる。

 父さんの茶髪を受け継いでいたら、また違ったんだろうなぁ。頭と服装がミスマッチで、一度に二キャラ分のコスプレをしている気分だ。ハロウィンだったら面白いって言えるけど、ピンク頭というのは中々に色合わせが難しいのだ。



 茶色でも、緑でも、普通に見たら良い色だが、俺が着ると植物になる。紺色が無難なのだが、そればかり着るといつ見ても同じ様に見えてしまうのだ。見慣れている人ならともかく、和装自体見た事が無い人の所に行けば尚更。


 「ちゃんと洗ってるのかしら」なんて思われたく無いのだ。自ら進んで女装をする理由の一つがこれだ。女性向けの服の方が種類が豊富だから。



「まあ……一ヶ月もすれば人間忘れるよな。昨日の自分の服さえ覚えられないんだ。俺の服なんて興味無いはず。そう、興味無い」


 自分に言い聞かせる様にブツブツと口に出した。変な奴と思われたくないから、部屋に誰も居なくて良かった。




「ここか……?」

「地図が間違っていなければ、この建物で間違い無さそうですね」



 当日。指定された時間十分前に、指定された場所に向かった。場所はクローシアにある小さな定食屋。カウンタータイプが十席程有るが、それ以外に席は無い。


 本当にここなのだろうか。お世辞にも綺麗とは言えないこの建物が、本当に月例会の会場なのだろうか。



「フェリーチェ、ヒリュウ。よく来てくれた」

「ルーク王。おはようございます」


「ああ、おはよう。会場はこっちだ。着いて来い」


 そう言ったルーク王は何の迷いも無く店に入って行った。やはり、地図は間違っていないようだ。どうしてここなのかが分からないが、とりあえず着いて行く。

 ルーク王は迷わずスタッフオンリーの所に入り、地下へと続く階段を降りた。王宮関係者が月例会のためにやっている定食屋らしい。



「シル、二人目の到着だ」

「おお……! 早かったね」


 今回の主催国はクローシア。シルヴェリスは前日入りし、ルーク王と一緒に来たそうだ。また遅刻するといけないから、と。



「今日の参加国ってどこですか?」

 ルーク王が他の参加者を迎えに行っている間、シルヴェリスに聞いてみた。


「エテルニオン、クローシア、ヴァレンシア。それから、グランベリアだね。エクレシアに出した招待は辞退されてるよ。竜ヶ丘はフェリーチェんとこ以外と交流の意思が無いって聞いてたから招待してない」


「俺の顔見知りが多いんですね。エテルニオンにクローシア、ヴァレンシアも知り合いですし」



「あ、その事なんだけど……。ヴァレンシアは代替わりして、今回の月例会から四十代の女性が来る事になってるんだ」

「じゃあ俺の顔見知りはシルヴェリス王とルーク王だけになりますね……」


「ぼくらと顔見知りってだけで強いから大丈夫だよ。それに、裏でどう思ってても守護者を表立って悪く言える人なんてそうそう居ないんだから」



 それもそうだな。


「あ、そうだ。全員分の土産が有るんですが、集まってからの方が良いですか?」



 とりあえず街の皆が作ってくれた酒を手土産として持参した。あまり期間も無かったので一ヶ月程度で飲める様になる物だけだが、オブシディアンとルナールからの及第点は貰っている。まだ飲めない俺用のは、ちゃんと果実ジュースだ。



「そうだね……。いくつ有るの?」

「果実酒が三種類、二本ずつです。お酒苦手な人も居るかもと思って、一本ずつですが、果実ジュースも二種類持って来ました」


「じゃあ一本ずつ席に置いて好きなの選んでもらおうか。先着順で」

「余ったやつはデーブルの中央に置くで良いですか?」

「うん、そうしよう」



 逆さのワイングラスが置いてある席に一本ずつお酒を置き、俺が使っても良いと言われたシルヴェリスの隣席に果実ジュースを置く。ジュースは柑橘とベリーが有ったが、今回は柑橘を選んだ。


 後は暇なのでシルヴェリスと喋る。着いて来てくれたヒリュウはエテルニオン側の護衛達と話しているから、小さな定食屋の地下に有るここは特定され難いということで、少しくらい護衛を付けていなくても大丈夫なのだろう。


「改めて、沢山の贈り物をありがとうございます」

「うんん、ぼくこそ、忙しいのに無理言っちゃってごめんね?」


「いえ、ゆっくり出来なかったのは残念ですが、見ず知らずの人間からの喝采は気持ちが良いものでしたから」


 前世では味わうことの出来なかった、文字通りの大喝采。あの時ばかりは皆、私語禁止のルールを忘れていたと思う。



「あのお酒ってどうしたの? フェリーチェがエテルニオンで買った物がお酒だけだったから選んだんだけど、まだ飲めないでしょう?」


「城の貯蔵庫に入れてもらいました。成人したら一本拝借したいのと、めでたい事が有ったら皆で飲んでもらおうと思います。うちにはお酒好きが多いですから」



「役に立ちそうで良かった。まだ飲めないって分かってる子に酒を贈るのはなってちょっと思ってたんだ」


 それで金貨の箱を入れたのかもしれないな。もっと色々な物買っておけば良かったかも。


「エテルニオンは何が有名なんでしょうか?」

「……年に一度、音楽の祭典が開かれる事からも分かると思うけど楽器が有名だよ。楽士や技師を志す者達が各地から留学に来る事も多いんだ。管・弦・鍵盤に打楽器、割と種類も豊富」




 楽器か……。高そうだな……。技術力が進化した日本でも、管弦楽器は新品じゃ十万下らない事多いし、鍵盤と打楽器はデカ過ぎる。

 第一、奏者が好みの物を選んで買わないと意味が無い。スポンサーになってもらう事なら不可能じゃないが……。



「楽器職人達って商会を経営してたり?」

「その方が依頼を受け易いし、弟子も取り易いからソロはほぼ居ないかな。偏屈な人や有名になり過ぎた人はソロだけど、そういうのは稀だから」


 そりゃそうだわな……。


 でも商会規模なら大小問わず、音楽隊の演奏次第でスポンサーになってくれるかもしれない。



「何か企んでるの?」

「俺の国には音楽隊が居るんです。ただ、前居た国から持って来たオンボロ楽器を元に制作しているのでここの音質には劣ってしまって」



 エトワール伯爵家は管理が杜撰だったから、物によっては管やピストンがやられてチューニングが出来なかったり特定の音が出なかったりする。あの小人族でも、元が致命的な欠陥を抱えていると完全な再現は難しくなる。



「もしかして、スポンサー契約?」

「はい。ですが、相手は音楽隊の演奏を知りませんので難しいかなと。それに、建国から日も経っていないので商会側にメリットが無いんです」


 スポンサーは、商会側が金銭や物品を提供し、提供された側は宣伝を受け持つ事で契約が成立する。

 だが、こちらは提供されるだけで、何の宣伝も出来ない。地図にすらまだ載せていない国なのだ。サージスという国名を知っている人間も限られる。


 国民が俺の国を知っているとしたら、竜飛車関係だろう。音楽では何の成果も上げていない。




「十八通」


「え?」

「これが何の数字か分かる?」

「いえ、分かりません」


「コンサート出演者唯一の子供、桃色の髪をした謎の少年に会いたい。金を出すから是非うちにピアノを作らせて欲しい」



「それが十八通も?」

「そう」





 ヤバ過ぎるだろ。十八軒もピアノ工房有るとか選び放題じゃん。いや、それ以上に競争率がエグいくらい高いんだろうな。


「四人目の到着だ……って、二人共、何話してるんだ?」


 ルーク王が女性を連れて戻って来た。ルーク王の話だと四十代らしいんだけど……。どう見ても三十前半くらいにしか見えないな。やっぱり産まれながらの権力者って、髪質とか肌に出るな。若さ。


 俺なんて平民の時間が長かったせいで髪はパサパサ、肌もガサガサだ。



 見た目で年上に負けるのは悔しいなと頬に手を当てると、彼女は俺の目の前にやって来た。


「貴方が新興国サージスの王、フェリーチェ殿ね」

「は、はい! フェリーチェ・サージスと申します」



「私はエリス・ヴァレンシア。私とは初めましてだけれど、母がお世話になっているわ。ありがとう」

「いえ、こちらこそクリスタル様には恩が有りますので」


 この場でうっかりクリスタルおばさん、と呼ばなかったのは俺史における、今年最初の偉業だろう。


「それより、テーブルの瓶は貴方が?」

「はい。手ぶらというのも何ですので。一ヶ月程度で飲める様になる果実酒です。三種類有るのでお好きな物を選んでいただければ。お酒が苦手でしたら果実ジュースも有りますので」


「月例会で手土産を持参したのはフェリーチェが初めてだよ」


「え、そうなんですか!?」

「ぼくもルークも、前回まで居たクリスタル殿も手ぶらだった」



「そういう決まりは無かったからな。主催者でもないのに、わざわざ持って来たりしない。主催者ですら持って来ないんだ」


 ここで言う主催者は、月例会の会場国。つまり、今回の主催者はルーク王。次回の会場は月例会の時に決めるらしい。


「持って来ない方が良かった、ですか……?」

「何言ってるの? 嬉しいに決まってるじゃん。それに、健気で可愛いよ」



 ジジ臭……。せっかく良い事言ったのに、最後の一言がとても残念。


「シル、フェリーチェに引かれるぞ。フェリーチェ、シルが言った通り手土産は嬉しい。余も次は持参するとしよう」

「それなら私も持参しようかしら」


「勿論ぼくも次は持って来るよ。最年少にばっかり持って来させる訳にはいかないし」



 次も持って来るのか……酒。月一開催はそのうちネタ尽きそうで怖いな。まあ、こればかりは酒作り隊の皆に頑張ってもらおう。酒でなくても、お菓子で茶を濁しても良いと思うから。




「それでは、残りの出迎えに行って来る。エリス殿、好きな場所に座って待っていてくれ」


 そして、残りのグランベリア国王も到着し、月例会が始まった。

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