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五十三話 贈り物


 生誕祭の特大サプライズから一週間が経過した。





「何でこんな事に……」


 ここはエテルニオン王国の歌劇場。

 エテルニオンでは毎年、一月に歌劇場にてコンサートをやっているらしい。そういった話は割と初めの方に聞いた事があったので知ってはいた。



 油断した。自分も少しだけ音楽は齧っている。そんな事、言うんじゃなかった。客として見に行ってみたいという感情はあったけど、ステージに立ちたいなんて言ってない。でも俺は今、舞台裏で前の人の演奏を聴いて戦慄している。


 シルヴェリスに何が得意か聞かれて歴の長いピアノを話題に出したら「じゃあ一月のコンサートで何か弾いてみてよ」と無茶振りをされ、俺の好きな曲を片っ端から譜面に起こし、一週間で人様に聴かせても問題無いくらいに練習した。


 かなりの時間を割いたから大きなミスはしないと思うが、それでもコンサートに出演するのは音楽を仕事としている人が圧倒的に多い。音楽を趣味でやってるだけの俺はきっと、簡単に埋もれる。何とかして印象付けをしなければ。




 ……何をやっているんだ俺は。一国の王としての仕事もあるってのに。これは演奏終わったら即帰国だなあ……。


 今回選んだのはショパンの子犬のワルツ。この世界ではゆったりした曲調の方が多く演奏されるようだから、こういったアップテンポな曲は聴き手の耳に残りやすいかなと思って選んだ。


 俺が小五の時に発表会用として練習していた物だ。年齢で言えば、丁度今くらい。前世で弾けて、今世で弾けない訳がない。



 序盤から右手が忙しいが、そこまで問題にもならず、案外簡単に終える事が出来た。俺の所にあるピアノよりも鍵盤が軽かったのが要因だろう。グランドピアノと電子ピアノくらい違う。軽いと弾き難いと言う人も居るが、俺は軽い方が連符がやり易くて好き。



 ヴィーネの安売りはしたくないので、今回は俺の実力だけで大喝采をもぎ取った。


 そして舞台袖で猛アタックしてくる音楽馬鹿達を振り切って自室に転移。自分の部屋ならもう地図タップが要らなくなっていたので向こうからしたら突然消えた様にしか見えない筈だ。多分……。守護者って事は……流石にこの一瞬じゃバレてないよな?



「おかえり。早速だけど相談があってね……」


 エスパー並に俺の帰りをドンピシャで当てる様になったオリヴァーと、溜まった仕事を消化した。


――――――――――――――――――――


 エテルニオン歌劇場、王族席にて。シルヴェリスは自分の目と耳を疑っていた。



 音楽を齧った事があると聞き、ほんの冗談のつもりでこのコンサートに出てみないかと誘った。

 まさか本気にするなんて、そしてたった一週間で他の演奏者と遜色無いレベルの演奏を披露するとも思っていなかった。しかも、このコンサートに出演するのは素人ではなく、全員がその道で食べているプロ。



 決して長い曲ではないし他の出演者と比べれば寧ろ短い方。それでもシルヴェリスを含む観客の心を掴むには十分過ぎた。


 普段のフェリーチェをよく知っているわけではないが、国王をしているのはシルヴェリスも当然知っている。


 いつ練習したのだろうか。どんな練習をしたのだろうか。素直に問いたい。が、どこを探させても見つからなかった。


 舞台袖で忽然と消えたと言われた時、転移で帰国したのだろうとアッサリ納得する。新興国であるサージスはまだまだ足りない部分も多い。山の様に溜まっている仕事をほっぽ投げてここに来てくれた。




 そのお礼をしよう、とシルヴェリスは部下を呼ぶ。フェリーチェはエテルニオンで何を買ったかを洗い出し、彼が一番喜びそうな物を、と。


 が、大きな収穫は無かった。

 フェリーチェがエテルニオンで買ったのは大量の酒のみ。しかもそれはヴィーネ神生誕祭で国民に振る舞う為であって自分で飲むわけではない。



「友達の好み一つ分からないなんて、情けない……」


 そう、執務室で仕事そっちのけで悩み続ける主に側近達は「何者なのだそいつは」と首を傾げる。使用人を連れてサージスに行ったルークと違い、シルヴェリスは単身で乗り込んでいる。


 側近達からすれば、音楽の心得が有る新興国の王、という印象しか無い。どこの国の人間かも分からない、正直言って怪しいとさえ思ってしまっている。


 だが、シルヴェリスに「友達」と言われる程の人間。ただの王ではないのだろう。彼が今までの人生で友と称したのはクローシア国の王、ルークのみだったのだから。



「ではルーク王に聞いてみるのはいかがでしょう? あちらには伝達係のヴェルザード殿がおります故、何か分かるかもしれません」


 そう提案したのは、宰相。このままでは全く仕事が進まないとの判断だった。



「やっぱり……? じゃあ、ちょっと行ってくる」

 そう言い残し、愛馬に乗ってクローシアに向かって行った。


――――――――――――――――――――


「フェリーチェ様、お忙しいところ申し訳ありません。少し良いでしょうか」

「サン。どうした?」


 溜まりに溜まった仕事を昼食片手に消化していると、サンが申し訳なさそうな表情をして入ってきた。



「たった今、ヴェルザードが帰って来たのですが……」


「プレゼント?」

 どうやら大量の贈り物が有るようだ。



「はい。シルヴェリス・エテルニオンの名で届いております」

 何だ? 大国の王が俺に? 大したお返しとか用意出来ないと思うんだけど……。



「とりあえず、見るよ。どこに置いてある?」

「入りきらないと判断したので屋敷のすぐ外に待機させています」


 案内されるがまま、プレゼントが置かれているという場所に向かうと……思わず頬を抓ってしまった。自分の目が信じられなくて。


「こ、これは?」

「全てフェリーチェ様宛てに届いた贈り物になります」



 目の前に広がる箱達。中身はお酒。皆で分けてねと、ご丁寧にメモまで入っている。そして、日本円で一千万円分くらいの金貨。うちの国では使えないが、俺が商人に扮して使う時に役に立ってくれる。

 金貨一枚は十万円くらい。もっと上の単位も有るが、このくらいが使い易いだろうという、シルヴェリスなりの気遣いらしい。



 メモと一緒に入っていたのは手紙。多忙な身でコンサートに出演した事へのお礼が込められていた。新興国であるサージスには、いくら有っても足りないくらいの資金が必要だ。他国に睨まれないギリギリの所を狙ってくれたのだろう。


 お礼のお礼は……止めておくか。下手したら、お礼の応酬になりかねない。手紙を出すに留めよう。


 お酒は全て果実酒。何かの祝い事に使おうと、箱ごとサージス城の貯蔵庫に入れてく事にする。俺の無限収納のお陰で、ここに入れた物は時が止まる。俺が成人した時に一本拝借するのも良いだろう。



 お金は俺とオリヴァーで半分ずつ分けて金庫に入れよう。これで全部ごっそり盗まれる心配は無くなった。まあ、夜行性の鳥人族がパトロールをするこの地で警備の目を掻い潜って盗めれば、の話だが……。



「ヴェルザード。お礼の手紙を書くから届けてもらっても良いか?」


 コクンと頷いた事を確認し、俺は執務室に戻った。大量の酒は街の皆が城の倉庫に入れてくれるそうなので任せておいた。夜には片付くだろう。

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