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五十二話 生誕祭サプライズ


 大晦日。昨日からずっと、ヴィーネの生誕祭が行われている。そして今日は音楽隊の演奏がある日。



 俺が作ったウィンター・マーチはセロの手でどのレベルまでいったかは分からない。

 が、偶に練習の音が聞こえて来たからどの程度かは推測出来る。昼には音楽隊が、夜には俺が演奏するつもりだが、反応が微妙だった時はメンタルにくる。



 最初に演奏した団体よりも、後に演奏にた団体の方がイマイチだった時、記憶にすら留めてもらえないってのは音楽系部活に入っていた俺がよく知っている。

 地域のピアノコンサートに出た時も、出演順が一番だった俺が絶好調で、そこから俺に近い番号の人が悉く失敗していったり舞台裏で泣いているのを見た事がある。



 あれ以上にバツの悪い思いは経験した事が無い。

 見ていられなかった。それが今度は自分が当事者になるかもしれない。適度な緊張感は必要たが、ガチガチになるのはアウト。出来るだけ聴き入らないようにしなければ。じゃなきゃメンタルに影響が出る。


 演奏以外だと、屋台が沢山出る。日本の夏祭りみたいな物ではなく、普段は実店舗を構えている店が宣伝も兼ねて出店するのだ。

 俺が料理ダメダメだから日本食の出店はほぼ無いが、アレンの弟子がお遊びで作った軽食の出店ならある。



 唐揚げとか、サンドイッチとか、コンビニとかに売ってたら絶対毎日買いそうなクオリティになっている。コンビニの惣菜レベルじゃ不足か。専門店が出来ててもおかしくない。



「フェリーチェ様」

「おお、どうした?」


 自分の仕事を終わらせて祭りに繰り出そうとしていたところ、ヒリュウに声を掛けられた。



 渡されたのはロゼット。今日の祭のために有志が集まって作ったらしい。幹部用に置いてあった物の中で特に形の綺麗な物を、と。


 このロゼットは街の出店でも販売しているそうだ。ヴィーネ神を現すのは指輪だと言われたが、流石に全員分用意するのは大変だしという事で。


 材料は服飾師達が余らせたハギレ。なるべく使い切る様に裁断しているが、どうしても少しずつ余ってしまうのだと言う。着物の布は華やかだから、真っ黒な演奏用衣装に着けるとめちゃくちゃ映えてくれる。



 俺にはヴィーネから貰った魔力を抑える魔法具が装飾品代わりに有るが、やはり皆と同じ物を着けられるのは嬉しい。



「ありがとう、ヒリュウ」


 このロゼットは、祭が終わってもずっと大切に取っておこう。前世だと安全ピンを付けて、飾る用の鞄にコレクションしていただろうが、今世は安全ピンが無いので額にでも入れて飾る。


「はい……! 喜んでいただけて良かったです」

「じゃあ、俺は行くから。ヒリュウも楽しんで」

「はい、楽しんできます」



 今日の俺達は完全別行動。竜ヶ丘から来てくれた、ルナールとオブシディアンと一緒に回る。俺の出番以外を三人で過ごす予定だ。この三人だけ、というのは実はかなりレア。


 俺の側にはほぼ毎回、ヒリュウかサンが付いてくれていたし、オブシディアンとルナールも普段は竜ヶ丘の助手を連れているから。



 二人はこの日の為にエテルニオンで買っておいた酒を、まるで水かのようなスピードで次々と口に運んでいる。


 皆の分を先に避けておいて本っ当に良かった。そして全く、肌の色すら変わらないのが凄い。酒豪だな、この二人は……。

 今度からお土産に色々買って行ってあげよう。まだうちでは量産に至らないが、他国との取り引き自体は問題無く出来てるから。



 この世界には穀物酒よりも果実酒の方が多いようだ。俺が成人したらビールとか日本酒作って売り出すのもアリかもしれない。売る前には味見役が必要だから、その時はオブシディアンとルナールにも声を掛けてみよう。



 前世今世共に、俺は未成年だから酒の味が分からない。二人の意見は大いに参考にさせてもらう。


「美味い?」

「うん。甘いのに、甘過ぎなくてすごく飲みやすいよ」

「サラッとしていて爽やかなので、どんどん飲めちゃいますね」


 二人ってどれくらい飲んだら潰れるんだろ。アルコール無効の能力でも持ってるんかな。俺も飲んでみたいが、我慢我慢。この後演奏するし、第一、未成年なんだから。



「フェルちゃん」

「おお、楽しんでるか?」

「お陰様で、最高だ」


 三人で駄弁っていると、強面のおじさん(元ご近所さん)が酒瓶片手に仲間を引き連れてやって来た。一瞬、これは酒乱か? と思ったが、どうやら違うらしい。


「こっちでも何か酒作って良いか?」

「オイラ感動してさぁ」

「酒は商売になるんだわ」


 という事なので、俺が覚えている限りの原材料メモを渡しておいた。焼酎は微妙だが、日本酒とビールの材料だけは調べた事が有る。

 酒を作る人間なら、材料さえ分かれば手探りで何とか完成させてくれるだろう。料理下手にレシピなんか書かせるものじゃない。クリーチャーの作り方教えるよりも近道の筈だ。



「あ、そろそろ音楽隊の演奏時間だな」

「じゃあボクらも一緒に行く」


 完成したホールに用意してもらった関係者席に腰を下ろし、聴きの体勢に入った。



 今日演奏されるのはウィンター・マーチだけではない。俺が知っている曲で、譜面に起こせたものを練習してくれていた。


 著作権問題に配慮して、俺が死亡した年から数えて没後七十年以上経っている人の曲だけを使った。ピアノ編曲された物を耳コピで吹奏楽版に編曲し直しているので、多分大丈夫。




 俺の番は夜なのに、今から緊張してきたな……。


「大丈夫? フェリーチェ」

「まだ無理……」


 二時間に渡る演奏が終わった後、俺はその場から動けなかった。上手い学校の演奏を聴くと、全身がビリビリする感覚が出てくる音楽系部員は多いと思うのだが、それが原因だ。

 練習期間は一年無かった筈なのに、完成度が滅茶苦茶高い。緊張するから聴き入らないようにしよう、そう決意した事も頭から抜け落ちていた。



 本当にこれは自分が譜面に起こした曲なのか。そう疑ってしまう程に素晴らしい演奏だった。


「…………よし、立つぞ」



 まだ少し震える体を無理矢理鎮め、リハーサル室に向かった。オブシディアン達は俺の開演時間、六時にまたここの関係者席まで来てくれる。


 あと二時間半後くらい。リハ室は、俺が音楽系部活の所属で、ホールの構造もある程度分かっていたから作れた物。


 吹部入れば良かったと思う事も有るが、とにかく頻繁にホールを使う部活に入っていて良かったと今更ながらに思う。




 ウォーミングアップを済ませ、通し練とピックアップ練をひたすら繰り返す。ピックアップ練は特にミス頻度が高くなる所を重点的に行う。

 もう弾き慣れた曲だからこそ、凡ミスするのは情けない。技巧だろうがバラードだろうが、完璧に仕上げてこその俺だ。



 今こそ先輩後輩問わず、鬼と言われ続けた俺のプライドを発揮する時。前の団体がどれだけ上手い演奏を披露しても、それ以上を見せる。

 それでこそ真の鬼だ。

 ……あ、鬼っていうのは俺の練習が厳し過ぎるからっていうので中学の先輩達から付けられた渾名。褒め言葉としてありがたく受け取っている。




「フェリーチェ様、そろそろ開場です」

「ああ。ありがとう、サン」


 今回サンとヒリュウは俺の補佐役として舞台袖に居てくれる事になっている。

 今みたいなタイムキーパーとしての役割もそうだし、今回俺が演奏するのはピアノと、その後にヴィオラだから、ずっと舞台に立っていなきゃいけない俺に代わってピアノの撤収作業も二人がする事になる。特等席で聴けると喜んでいたので悪い気はしない。


『そういえば、ヴィーネ。いつ奇跡起こしてくれるんだ?』

『まだもう少しよ。ちょっとくらい待ちなさいよね』


 元々計画にあった音楽隊の後に起こる筈の奇跡は起こらなかったので忘れているのではと心配で聞いてみたのだが、忘れてはいないようだ。

 とりあえず安心。これは俺にも内緒でやるやつだな。楽しみにしておこう。



 開演のブザーが鳴った。手動の幕がゆっくりと開かれ光属性の魔法、ライトが俺とピアノだけに当たる。ああ、この眩しさ、久しぶりだな。


 一曲目はどうしようかと迷ったが、前世でも弾いたことがあったトルコ行進曲。エリーゼのためにと迷ったが、ヴィーネがこっちの方が好きだと言ったので。



 一音目の弾いた瞬間、開場の雰囲気が変わった気がした。どう変わったかと聞かれると説明し難いが、程良い緊張感が生まれたと感じる。


 いつの間にか俺は、緊張していた事すら忘れ、演奏にのめり込んでいった。気付いたらピアノが片付けられて、ヴィオラ持って立っていた。



 さっきよりもスポットライトの直径が狭くなり、より俺に視線が集まる。


 最初に選んだのはチャルダッシュ。俺が初めて部内ソロコンテストで演奏した曲だ。簡単に言うと、ヴァイオリンの超絶技巧曲。



 技巧で度肝抜いて、二曲目からはバラードメインで弾いた。ずっと技巧っていうのも味気無いからな。逆に飽きちゃう。


 中々ヴィーネの来ないなぁと曲の合間に思う間に最後の曲、ジュピターに入った。

 その瞬間、どこからか聞こえてくる。聴き慣れたヴァイオリンの音色が。


 驚きを声に出さなかった俺を誰か褒めて欲しい。それくらい吃驚した。メロディーラインを弾いていたのは俺のほぼ真上に顕現したヴィーネ。神々しい光を纏い、暗いホールの中でもその存在感は薄れない。突然の登場に会場がどよめく。



 すごいサプライズだな、と俺は軌道を修正。

 ヴィーネがメロディーラインを演奏するなら俺はハモりとベースラインを担当だ。

 これはどんな奇跡よりも心に残るサプライズだ。


 デュオを終えるとヴィーネは何も言わずに去っていった。ここで何かを発するよりもより、奇跡感が増すのはこの退場だ。そう言うかの様に、俺だけに見える角度でウインクまで決めて。



 一瞬の静寂の後、歓声と拍手が響いた。ヴィーネにしてやられた感も有るが、顔には出さず、前世から今世まで散々練習した完璧な礼を披露。

 堂々と舞台袖に入った。



『ヴィーネ、とんでもないサプライズだったぞ?』

『吃驚した? マーチのお礼ってことで練習してみたのよ』


『吃驚した。あの場でハモれたの奇跡だったよ。即興だったんだからな?』

『流石フェリーチェね。動揺してても上手く合わせられるなんて』



 今世のポーカーフェイスと前世からの絶対音感には感謝しないとな。あくまでも予定通りを装ってハモリを入れられたんだから。





 ただ……今回が良過ぎて次回以降のハードル上がったなぁ……。

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