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四十七話 遅刻の王様


 今日はエテルニオン王国の国王であり、ルーク王の友人であるシルヴェリス・エテルニオンと会う日。

 ミラお手製の和服を俺とブラン、揃いで着ている。



「やっぱりブランは何を着ても似合うの」


 チヤホヤされるあまり、後に黒歴史になりそうな事を口走るようになった事以外は特に変わり無い。どうせ独り言だ。拾わなくても良いので人畜無害。


「それじゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 オリヴァー達に見送られ、俺達は転移でルーク王の元へ向かった。



「こんにちは、ルーク王」

「初めまして、なの」


「ああ、フェリーチェ。そちらの少女は?」

「ブラン、なの」



「俺の神獣です。ヴィーネ神の神獣は神界に居ますが、この子はずっとうちに居ます」

「よろしくなの」


「ブラン様、私はルーク・クローシア。クローシア国第三代国王にございます。お会い出来て光栄です」


「堅苦しいのは嫌いなの。普通にしてほしいの。サージスの者たちはお菓子をくれ――」



 俺はブランが最後まで言い終わる前にその口に砂糖菓子をぶち込んだ。まさかこんなに早くたかるとは。


 もきゅもきゅと咀嚼し、ウットリとした表情を浮かべるブラン。アレンの弟子が作った物だが、それでもかなり美味しいようだ。俺の分はアレン以外作らないから知らない。




 ルーク王は苦笑しながらメイドの人に菓子を持って来るよう伝え、ブランは持って来られたクッキーやらマフィンやらを手当たり次第に口に詰め込み始めた。


「おいしいの」

 そう連呼しながら食べている。まあ、生後ゼロ年なら仕方ないな。


「すみません、ルーク王。ブランはまだ産まれて間もなくて……」

「構わないぞ。神獣様相手にこんなことを言うのは失礼かもしれないが……。可愛い孫が一人出来たような……」



 随分と若い爺ちゃんだな。


「ブラン公認のお爺ちゃんにしてあげてもいいの」

「お前はうちの子だろ、ブラン。親離れはまだ早いんじゃないか?」


「羨ましいの、なの?」

「羨ましい、というか……。何か、うーーん……」

 言語化し難い……。



「ママはママ。パパはフェリーチェなの。羨ましいと思う必要はないの」

「あっそう……」


 十一歳でパパデビューか。


「そういえば、紹介したい友人というのは?」

「申し訳ない。まだ着いていないんだ。奴は遅刻常習犯だ。また寝坊でもしたのだろう」


 国王、だよな? 大丈夫か?



「遅れてごめんね、寝坊しちゃって」

「やっぱりか……」


「初めましてだね、君がフェリーチェくんか」

 刺さるようなルーク王の視線をものともせず、その人は俺に向かって手を出した。



「フェリーチェ・サージスです。どうぞよろしく」

「ぼくはシルヴェリス。エテルニオンの国王ね、よろしく」

 なんか、いつもヘラヘラしてる人っぽいな。マオに似てる。



「えっと……俺には何のご用で?」

「んーーと……国を興した守護者って子がどんな子か見てみたかっただけ、だね。うちの王だった初代の少女は性格が悪かったって事みたいだからね」


 それ、前前世の俺らしいです。性悪で悪かったな。


「じゃあ、俺への用は済んだという事で?」




 そろそろ帰っても良いかな。俺、時間に厳しいタイプだから、ルーズな人ってちょっと苦手なんだよね……。


「ちょ、ちょっと待ってよ。遅刻した事は謝るからさ」

 帰り支度をしようとすると、シルヴェリスは笑顔をスッと消し、慌てたような動作をした。ここだけ見ると王族っていうより、従兄弟の兄ちゃんって感じだ。俺に従兄弟は居なかったけど。


「他に何が望みなんですか」

「ぼくの印象最悪みたいだね……。もう一つの用事はこれだよ」

「………連盟への招待状?」



 こっちにも国連みたいなのがあんのか?


「連盟は、ぼくらが貿易や通行を円滑に行う為に作られた組織なんだ。終戦の仲介から復興支援まで色々な事をしているよ」


 終戦の仲介ってことは、エクレシアとグランベリアだっけ? が鉱山戦争終わらせようとしたら連盟を通せるってことか。加盟してたらだけど。



「うちはまだ大した資金も無い国ですけど、それでも良いんですか」

「参加費は任意だから大丈夫。加盟してる国だと……エクレシアは一枚も払ってない」


 あの国ってそんな貧乏なのか? でも、感情だけで言えば俺の嫌いな国と同じ事はしたくないんだよな。出来れば参加はある程度の参加費が用意できてからが望ましい。



「参加費の有無で発言力に違いは?」

「残念だけど、あるね。だからエクレシアは――おっと、これ以上は喋り過ぎ」


 本当に、マオだ。あいつは目に見えて動揺する事は無いが、喋り方、抑揚の付け方、ピエロのように掴み難い表情。どれを取ってもマオに似ている。実は生き別れの兄弟か?




「シルヴェリス王、マオ・シェンリルって男は知ってますか?」


「マオ・シェンリル? ああ、その子の親父とぼくは知り合い。ぼくの護身術の師匠が、マオくんの親父。確かエクレシアの人だよね?」

「はい。今は二人共俺の国で働いてくれていますが」


 へぇ、知ってるんだ。マオの方が顔立ち的に年下っぽいし、態度が移ったのはマオの方かもしれないな。




「あの二人を味方につけるなんて……いくらぼくが言っても頷いてくれなかったのに」


 まあ、あれは半分強制だったからな。マオに関しては欠席だったにも関わらず、だ。考えてみるとやりた放題し過ぎてて、今反乱起こされてないのが奇跡みたいなものだ。


「運が良かったみたいですね」

 俺にはこれしか言えん。

「久しぶりに会いたいなあ。師匠にも、マオくんにも」



 「うちに来ますか?」というその言葉を待っているようだ。が、俺から言うのは癪だ。気付かないふりをしよう。


「連絡を取ってみては?」

「そこは来ても良いよって言うところだよ」


「そのくらい分かってますよ。宿なんて大層な物は無いですけど、来たければどうぞ。ただ、引き抜きが目的なら俺達は貴方の敵になる」



 「達」の内訳はヴィーネとデウスの二人。ブランにはまだよく分からない話だろう。


「安心して良いよ。守護者に逆らう程、ぼくは無謀な人間じゃない」


 エテルニオンでは守護者って存在自体が結構強い人として扱われるんだ。エクレシアとは大違いだな。守護者? 何それ知らない。でも絶対負けると思うよって感じで反対されたくらいだから。

 ……ちょっと今の悪意あったな。もうちょっと包んではくれていたな。




「歓迎しましょう」


 シルヴェリスに対する苦手意識はまだ払拭されないが、警戒し続ける相手でもない。そう判断した。


「本当? じゃあ、準備して来るよ」

「今から、ですか?」



 今のクローシアは午後の二時頃。今から行くとサージスは夜中の三時過ぎだ。流石に迷惑。夜まで待って漸く常識的な時間に着くくらい。



「え、だめ?」

 ということで、時差について説明した。今のサージスは雪が降る程寒い事も。


「そういうものなの?」

「俺の二つ名は最果ての地から来た商人、ですから」



「あ、その事なんだけど、何が欲しいの? 何が欲しいか分からないとうちに呼び寄せられないんだけど……」

 どゆこと? 商人として来いって事か? 守護者として来いって事か?


「来て欲しいなら行きますよ」

「守護者様として来てくれるの?」

「俺の名前を悪用しないなら、勿論」

「日程調整もしなきゃ。とりあえず、出国準備してくるね」


 にへらと笑ってシルヴェリスは部屋を出て行った。




「すまない……昔からああいう奴なんだ」

「い、いえ。ルーク王が謝る事では……」


 遅刻したこと以外はシルヴェリスも悪くないし。ただ、シルヴェリスが俺の苦手なタイプのテンションだってだけで。

 十分後。大量の荷物を抱えて、シルヴェリスが戻って来た。


「何です、その量の荷物」

「サージスの子達に、手土産。貴族全員分があるかは分からないけど……」

「いえ、お気遣いありがとうございます」



 幹部皆の分は余裕で用意されている。焼き菓子らしい。焼き菓子は生菓子よりも日持ちがするからありがたい。


「一度確認を取るので一瞬抜けます」

「勿論構わない」


「ブラン、大人しくしてろよ」

「分かってるの。ここのお菓子は美味しいから、いくらでも食べられるの」

 そして俺はオリヴァー達に確認を取るべく、転移で国に帰った。




「おかえり」

「あれ、オリヴァー。起きてたのか」


「うん。ちょっと前にヴェルザードから連絡が入ったらしくて、リヴが起こしてくれたんだ。本当に、実に幸せな目覚めだった……」

「ああ……そう……」



 人の――特に友達の色恋事情ってこんなに気不味いんだな……。


「で、要件は?」

「エテルニオンの国王が手土産持ってうち来るって」

「エテルニオンって、共通通貨の唯一の造幣国だったよね? 千年くらいの歴史がある……」


「ああ、そのエテルニオンの国王だ。マオの知り合いらしい」

「マオの……」



 途端に苦い表情になるオリヴァー。ポーカーフェイス系はオリヴァーの苦手とする人間だ。笑顔のポーカーフェイスと真顔のポーカーフェイス、どちらも苦手だと言っていた。考えが読めないから話し難いと。


 護衛であれば話す事は少ないが、接待となると……という事だろう。



「エテルニオンの国王はポーカーフェイスが癖みたいだけど、一応マオより剥がれやすい事は伝えておくよ」

「ああ……それなら大丈夫かな」


「それと、寝坊と遅刻は日常茶飯事らしい」

「……と、当然だけど、王様も人間なんだね」



「親しみやすいのか?」

「うん、自分と遠ければ遠い程、現実味が無いから。あ、でもフェリーチェは変わらないでね。集合時間にルーズなフェリーチェとか見たくないから」

「それは勿論、遅刻はしない」



 前世から無遅刻無欠席を貫き続けた俺のプライドを舐めるでない。


「じゃあ、九時くらいに連れて来るよ。単身で来るから部屋の用意は一人分で大丈夫」

「りょーかい。それじゃあ僕は二度寝するね」

「ああ、起こしてごめんな」


「平気。フェリーチェも寝てね」

「ああ、約束の時間までは仮眠を取らせてもらうよ」



 クローシアに戻ると夜中から昼間になるから、暗闇に慣れた目にはその光量差がキツい。


 ので、アイマスク代わりのハンカチを目の上に乗せて横になった。あ、ちゃんと仮眠許可は取得済みだ。

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