表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/84

四十六話 シルヴェリス・エテルニオン


 クローシア国。約百二十年と若いながらも発言力と経済力のあったその国は、建国から僅か数ヶ月の小さな国へ、正式に謝罪と賠償を行った。


 そして、魔族誘拐を主導したラセフ侯爵家への厳罰と関わった全ての家へ厳重注意を。



 この事は、クローシア周辺諸国で暫くの間話題となり、トップであるルーク・クローシアはかつての学友から質問攻めにあっていた。



 その学友というのが国家間貿易の硬貨を造幣している唯一の国であり、世界最古の歴史を持つエテルニオン王国の第十五代国王、シルヴェリス・エテルニオン。

 約二十年前、学生時代にエテルニオンに留学していた時に出来たルークの友人。



「で? 二国とはいえ、何で数ヶ月の、連盟にも所属してないような新興国の言い分を捻じ伏せるどころか全面的に聞いちゃったわけ?」


 連盟とは、参加義務は無いが、この世界に存在する国のほぼ全て――小国と揶揄されるあのエクレシア王国でさえ名を連ねている巨大な組織だ。

 月に一度、会議という名の茶会が開催される。



「シル……。今回の被害者はサージス国と竜ヶ丘。この二国は普通の国には無い特色を持っているんだ。サージスはズバ抜けて純度の高い魔鉱石、竜ヶ丘は魔族。戦闘力と技術力を備えた、あの魔族だ。サージスにも魔族は二百個体くらい居るそうだし、今回ばかりは相手が悪過ぎる」

「後は?」


「サージスの国王、フェリーチェ・サージスは守護者だ」

「っ……!」



 それまでずっと余裕の有る表情を保っていたシルヴェリスは、そこで初めて動揺を見せた。


「それは本当の事?」

「ああ。エテルニオン王国にはもう二度と誕生しないというあの守護者が、サージスの王だ」

「うちに産まれないのはもうしょうがないよ」


 ルーク渾身の嫌味を難なく躱し、シルヴェリスは肩を竦めた。



「何があったんだったか?」


 それでもめげずに傷を抉ろうと奮闘するルークを面白いと思いながらも、それは顔に出さないように答えるシルヴェリス。



「ヴィーネ様と初代の守護者だった少女がすごく仲が悪かったってだけ。まあ、そのせいで一般的な認識としては初代守護者はその子じゃなくて二代目に現れる子になってるんだけど。その二代目がまさか建国していたとはね」



 「困った」と言いながら全く困っていなさそうに笑う友人に、ルークは全てを諦めた。一矢報いてやりたいと思う気持ちは持つだけ無駄。目の前の男には通用しない。それを改めて思い知った。


「そのフェリーチェって子にはどこに行けば会えるのかな? ルークは何か聞いてる?」

「訪問した事はあるが、転移だ。海が近い事しか分からない。ただ、商人に扮して入国する事が多いから気を引けそうな商品を揃えていれば、そのうち本人から来るかもしれないぞ」


「何が欲しいんだろう」

「クローシアでは手芸用品を買い揃えている印象だったな。服を売ったりもしていた」



 脱線したものの、シルヴェリスは再びルークに質問責めをし始める。


「寒かった? 暑かった?」

「寒かったな」


「畑にはどんなのがあった?」

「野菜や穀物、家畜の餌用がメインの印象だ」


「どんな服装?」

「前あわせのワンピースの様な物が多かったな」


「建物は?」

「ほぼ全部木造だ」



「なにそれ行ってみたい」


 暫く質問を重ねたシルヴェリスはサージスに興味を持った様で、ルークに自分を紹介してくれないか、と強請る。



「下手な事するとヴィーネ様から鉄槌が下される事は覚えておいた方が良い。あんな恐ろしい思い、もう二度とごめんだ」

「……。肝に銘じておくよ」


「竜ヶ丘はサージス以外の人間の国とは直接交流の意思が無いらしいから、魔王は出て来ないと思うが、それは良いか?」

「勿論」

「なら、フェリーチェ宛に手紙を書こう」


 そして、ルークは便箋にペンを走らせた。


――――――――――――――――――――


「エテルニオン王国?」


 ルーク王から手紙が送られてきたから、茶会の誘いかと思ったが、また違う人間の名前が出て来た。今度は紹介したい友人が居るらしいとの事で。



『この国知ってるわ。私が初めて守護者と作った国よ。もう千年くらい前ね』

『俺の前にも守護者って居たんだな』


『ほんっっっとに、自他共に認めるくらいの仲の悪さだったわ。そいつ、後世に守護者を名乗らせてないもの』

 ヴィーネがここまで言うのは結構珍しい。どんな人なんだろうか。



『その子ってどんな子だったんだ?』

『あんたよ』







『………………は?』



 与えられた言葉を咀嚼出来ない。千年前に国を興した子が俺だと言われても、到底信じられるものではない。


『だから、和也として産まれる前、フェリーチェがその女だったのよ』

『しかも女だったの!?』



『あんまりにも捻くれてたから、一回この世界から魂を離したの。それが木谷和也。魂を離したからか、恋人が出来たからか、トゲトゲだった魂はすっかり丸くなったのよ。根性有りそうだからって理由でアイツにしたけど、もうちょっと魂は慎重に選ぶべきだったわ』


『ほんとに神っぽいな。その所業。一応聞いておくけどさ、俺が死んだのはヴィーネの意思か?』



 そうだったら許せないけど。記憶は無いし、定かでもないけど、また尖ってやる。ドリアンみたいに尖ってやる。



『それは単に和也が間抜けだっただけよ。私も予想外だったもの』

『俺がドジ踏んだだけか。それなら……まあ……』

 ……というか、俺が理久を好きになったのって和也の前世が女だったからだったりして……?


 ………………いや、想像するのは止めよう。イマジナリー理久に殺されそうだ。



 「愛と合意があるのに何で法律なんかに縛られないといけないの?」とかガチトーンで言う奴だ。今みたいな事を考えるだけでも嫌になる程のお仕置きが待っているはず。


『あ、因みにこれからもフェリーチェが守護者よ。記憶を引き継いだりする事も出来るけど、どうする?』

『いや、理久の記憶は例え俺でも渡したくないから。多少不利益はあるけど記憶は要らない』



 理久との記憶が流出するって、想像するだけで反吐が出る。


 まだあまり信じられないけれど、神であるヴィーネの事だ。こんな下らない嘘は吐かない。なら俺は、守護者の地位を持った来世が有る事を前提に動くだけだ。

 来世の俺に手紙を託したり、オブシディアンやルナール、リヴとの恋が成就したら魔族になるオリヴァーに俺の事を伝えたり。



『なんだかんだ、あんたも重い男ね。いっそ怖いまであるわ……』

『褒め言葉として受け取っておく。俺の理久への愛が強いって事で』


 前世が何だろうと関係無い。木谷和也が好きになったのは工藤理久。なら、次の俺に婚約者が出来た時の為にも忘れてあげた方が良い。

 俺はもう恋をしないと決めているから今世では傷付けてしまうだろうけど、せめて来世からは。



『で、行くの? エテルニオン王国の人に会いに』

『行くよ。ルーク王からの誘いだし。守護者が興した国の王様に会いに行くならブラン連れて行こうかな』



 今は街の人達にチヤホヤされて大人しいが、基本的に俺の頼みは断らない。褒美を準備しておこう。


『それが良いわ。いざとなったら私とデウスも顕現するわね』

『本当にいざって時は頼むよ』


 ヴィーネは安売りして良い存在じゃないから軽々しく顕現させるのは避けたい。だから、本当に必要だって俺が判断したら呼ぶ。



 ヴェルザードに返事を持って行ってもらうべく、俺はペンを持った。


――――――――――――――――――――


「来るかな、返事」

「ああ。フェリーチェは優秀な部下を持っているからな」


 ルークは手紙を書いて直ぐ、自分の部下にそれを届けるよう伝えた。



 届ける相手はサージス国ではなく、部屋の外に居るヴェルザード。連絡手段としてルークの公認になった竜だ。間違えて討伐されないよう、ネームプレートが付けられている。


「噂をすれば。もう届いたらしい」

「……? どう言う事――」



 余裕そうな表情を保ちながら聞いたシルヴェリスの顔はそのまま固まった。執務室に降り立ったのは銀色の鱗を纏った竜、ヴェルザードだった。

 窓は閉まっているが、空気中の水蒸気に擬態出来るヴェルザードからすればこの程度はお遊びにもならない。



 既に慣れたルークは動揺する事なく褒美を渡して手紙を受け取る。褒美は現物ではなくスタンプ。

 ネームプレートの裏がスタンプカードになっており、届ける度に一つずつ押されていく。全部貯まるとクローシア基準の地位として使える称号が貰えるというものだ。前世のゲームみたいだとフェリーチェが乗っかり、今の形になっている。



「ルーク……そ、それって魔物じゃ……?」

「元々はそうだったらしいな。今は魔族となっていて、人の形を取ることも出来るそうだ。彼はクローシアとサージスのやり取りには必要不可欠な存在だ」


 ルークが紹介すると、ヴェルザードは人型に変身した。人見知り故に、フードを目深に被って顔を隠した状態ではあるが。



「フェリーチェ様の忠実な僕……ヴェルザードです…………」


 何とか自己紹介をしたヴェルザードは恥ずかしさからフードを被り直し、元の姿に戻ってしまう。

 その様子にほっこりしたルークとは対照的に、驚愕で言葉が出ないシルヴェリス。



「シル、返事読むぞ。戻ってこい」

「……! ああ、ごめん。これは素直に吃驚だよ」

 返事はルークの指定した時間に了承の意を示すという内容。何の面白味もない、普通の手紙だ。



 が、日本人だったフェリーチェは季節の『師走の候……』や『晩秋の候……』等の挨拶を冒頭に書くのだ。

 日本では普通の事だったが、ルークは少しこれを楽しみにしていた。クローシアとサージスの季節は逆転しているので夏のクローシアに、寒さが本格化して来たサージスから『初雪の候』と届く事になる。その違いはルークにとっては新鮮で、毎回の楽しみに値する物になっていた。



「フェリーチェ・サージス……。会うのが楽しみだよ」

 手紙に表情を緩める友を見て、シルヴェリスはそう呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ