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四十四話 三国会談


「フェリーチェ様、ここはどの様にいたしましょう」

「ああ、ここは……」


「フェリーチェ様、こっちのデザインも見てください」

「分かった。今行くよ」


「フェルちゃん、コイツはどういう素材だ?」

「それはな……」



 幹部会議で決定し、城の建設予定が立ってから数日。総合建築物管理課にて、俺は資料を作って構造や素材の説明をしていた。

 漆喰の素材である消石灰ならうちの国でも取ることが出来る。魔鉱山を見つける前に見つかっているから。



 説明は思ったよりも大変。元々エクレシアの建築には無かった素材だから、建築士達も素材の働きに関する理解に時間が掛かっているのだ。



「フェリーチェ、サンがクローシアからの手紙預かってるって。うち宛と、竜ヶ丘宛に」

「分かった。すぐ行く。ごめん、ちょっと抜ける」


「おう、こっちは任せろ。仕組みは大分理解出来たからな」

「助かるよ」



 建築士達と別れ、オリヴァーが持ってきてくれた手紙のうち、オブシディアン宛に送られた物はヒリュウに頼んで持って行ってもらった。


 俺宛に届いた手紙の内容は、魔族の誘拐事件に関する侯爵の措置交渉。

 サン一人の調べでは、まだ多くが分かっていない。が、ルーク王が自分の影を使って国内を徹底的に調べたらしい。

 サンが突き止めたラセフ侯爵家は国内の下級貴族を使って魔族を手に入れさせていたとのこと。ソイツ等への希望処遇も俺達に聞いてくれる様だ。



 ヒリュウがオブシディアンとルナールを連れて俺の執務室まで来てくれたので日程を擦り合わせて、クローシアの王宮に行く予定を立てた。

 返事の文書は俺が習ったビジネス文書のテンプレートに沿って書き、オブシディアンにも署名だけしてもらう。



「クローシアには俺とオブシディアンの二人で行く事にする。全部じゃないけど、元凶の一つは解決する筈だから、サンは休暇取って。ヒリュウも最近は俺の側に居たから、俺がクローシアに居る間しっかり休んで」

「「はい」」



「オブシディアンは初めての他国訪問だから、クローシアについて説明するよ」


 ルーク王の顔と公爵アルストロの顔は知っておいた方が良い。俺はイラストを描くのは得意だから似顔絵で説明しよう。

 それから、オブシディアンは俺やサージスの民、同胞以外と話した事が一度も無いので喋りたい事を纏めておくのも必要だと思う。本番で緊張してぶっ飛ぶかもしれないが、いざとなった時に俺が助けられる様にカンペは有った方が良いだろう。




「うん、ありがとう」


 俺の執務室には設計図を作る時の紙と、衣装を作る時の型用の紙、使い道の無くなった裏紙等、様々な種類が有るが、今回のカンペは人に見せる物ではないので適当な裏紙に書くことになった。


 使った裏紙は会談が終わり次第処分。処分とは言っても、小人族主導で俺が提案した古紙再生の動きも出ているから完全に無駄になるわけではない。再生紙は俺達幹部組ではなく、本や教科書等の公共の物としてや、メモ用紙として使われる事になる。



 公式の文書に再生紙というのはちょっと……というオリヴァーの案だ。俺は前世の再生紙を思い浮かべていたが、こっちの世界では小人族の技術を持ってしても日本には遠く及ばない。下地がなってないから当然と言えば当然だけど。


「フェリーチェ、この後はどうすれば良い?」


 粗方要望を挙げたオブシディアンが俺に意見を求めて来た。本当なら本人に考えさせたいが、今回は初めての会談という事で、少しだけ助け舟を出す。優秀なオブシディアンの事だから、次回からは自分で出来るようになっている筈だ。



 そうして何度か練習を重ね、クローシアと新興国家による三国会談の日になった。


 今回も屋敷から王宮の門の近くに転移する。初めて見る人間の国に、オブシディアンは少し恐怖を感じた様で、俺から一歩も離れようとしない。

 身長差的に側から見れば、幼い子供が暴走しない様に抑えているパパなんだろうけど。


 オブシディアンの名誉は保たれるので、俺は震えて冷たくなり始めたその手を「大丈夫」だと言って握り、門番に声を掛けた。



 顔見知りという事も有って、ルーク王の元には簡単に行けた。


「よく来てくれた、フェリーチェ。そして魔王オブシディアン殿」

「こんにちは、ルーク王。今日はよろしくお願いします」

「こんにちは」


「立ち話も何だから、座ってくれ」

「はい。失礼します」



 高級感が滲み出ている革のソファーに腰を下ろす。個人的にはボアの方が肌触りが良くて気持ち良いしカジュアルで使いやすいから好きだが、こういうカチッとした校長室的デザインも悪くない。いつかどこかで取り入れてみたいな。



「早速本題に入ろう。今回の件、うちの貴族が申し訳なかった。規制を厳重にしておくべきだったと反省している。来てもらったのは他でもない、ラセフ侯爵家とその協力者への罰則についてだ。何か希望が有れば出来る限り反映させたい。言ってくれ」


 という事で、俺達は一人ずつ自分の意見を伝えた。

 今までなら魔族は群れ以上のものを為しておらず、トップも街も無かったので責任を追及する事は出来なかった。

 だが、今後はオブシディアンの国民になり、森に住む者も俺の領民という扱いになる。国になる以前の事は追及せずとも、現行犯を見逃すわけにはいかないという事。

 そして、今後同じ様な事を起こさない様に厳罰を設定し、広く公布する事をラセフ侯爵家以外の加担した貴族を厳罰の対象外にする条件とした。



 貴族が減り過ぎると国内の治安維持が不安定になったり、街でお金が回らなくなったりとデメリットが大きくなるから。これはオブシディアンと話し合って決めた。


 オブシディアンは、俺の意見に賛成しながら、練習した通りに自分の考えを述べた。


 因みにこの誘拐事件、竜ヶ丘は磔にしていたが、うちの国で起きていたら、俺は間違いなく島流しにしている。死ぬ間際まで、苦しんで後悔して屈辱を味わってもらうために。



「………………」


 ルーク王はオブシディアンの提案を受けて黙りこくる。犯した罪の割にはそんなに悪いものじゃないと思うんだけど……。



「ルーク王、どうかしましたか?」

「いや……今のを受けて想像してみたんだ……。地獄絵図だぞ……?」

 この人、一体何を想像したんだろ。


「あれは着飾って高い所から人を見下ろすのが好きだから……全裸でドブさらいに……」

「ドブさらい? ってどういう物なんですか?」


「簡単に言えば、排泄物処理に従事する、犯罪者に与えられた仕事のことだ。犯罪者だから給金も出ない、タダ働きになる。死なれると労働者が居なくなるので最低限の清潔と食事は与えるが……」

「それを全裸で……」


「オブシディアンの提案をそのまま反映させると確かに地獄絵図になりそうですね。ですが、どうせ汚れる囚人に、そうそう洗う事の無い服を着せる理由も有りませんし、汚物処理なんて誰も見ないでしょうから大丈夫だと思いますよ」


 それで何かあった時は責任持たないけど。こっちは被害を受けた側なんだから。



「そ、それもそうだな」


 何なら他の囚人の身包みも剥げば良いんじゃないか? 金の無駄だろ。服を必要とする人は他にも居るたろうしさ。…………とは言いたいけど言わない。俺は大人だからね……。少しは隠すのだ。




「では、そのようにしよう。罰則については幹部を集めて会議を行う事にする」

「罰則については俺もオブシディアンも口出しはしない方向です。それが抑制力になれば何でも」


 そこは踏み込みすぎだ、と俺もオブシディアンも判断した。これ以上やると、新興国家としては致命傷を負う事間違い無し。


 利が有るとは言え、分は弁えねば。



「感謝する。この件は余が必ず解決させよう」

「ありがとうございます、ルーク王」

 そうして、クローシアと新興国家との三国会談は穏やかに終わった。


 オブシディアンは慣れない場所という事もあり、ほぼ空気と化していたが、俺が逐一気に掛けていたので納得しているのは確認済みだ。



「フェリーチェ、凄いね」

「え?」

「だって、あんなに堂々として。ボクは失敗したらどうしようってずっと考えてたのに」


 転移で竜ヶ丘の屋敷まで戻った時、オブシディアンからそう言われた。確かにオブシディアンは最近になってやっと日常的に会話をする様になったから、まだ少しお喋りが苦手だ。

 それでもかなり上手くなっているが、本人は納得出来ないみたいで。



「俺も不安は有るよ。オブシディアン程大きくはないと思うけど……」

「でも、感じなかった。不安な気持ち」


「俺の特技の一つはポーカーフェイスだから、分からなくても当然だ」

「フェリーチェも不安だったの?」

「少しな。一応、自分よりも王様歴長い人だし、一回嵌められそうになったから」



「そっかぁ……。良かった。緊張してたのボクだけじゃなくて」

「緊張してなかったらカンペなんて作らないって」

「確かにそうだね」


 身長百八十くらい有る魔王のはにかみ。これはかなりのギャップ萌えが期待できるな。俺はもう沼にハマって推してるから、いつか同担の人と会って話してみたいものだ。

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