四十三話 城について
「おかえり、フェリーチェ」
「ああ、ただいま。無事、国になってきた。ついでに竜ヶ丘も国にしたよ」
クローシアから帰った俺は一度オブシディアンの所に寄り、建築士達にクリスタルおばさんの別荘について話をしてからオリヴァーの元に戻った。
「竜ヶ丘も?」
「ああ。国王になった俺と、ヴァレンシア王国の女王が認めたんだよ」
ルーク王は認めたくても認められない事情が有ったが、クリスタルおばさんは「ルークちゃんの困ってる顔は見てみたいわ」と竜ヶ丘を国と認めた。
これでオブシディアンはその気になりさえすれば、侯爵家だけでなく、クローシア国本体に責任を追及する事が出来る様になってしまった。
それについてオブシディアンの方は、「なら犯人が一番屈辱的に思う事を死ぬまで、強制的に続けてもらおうかな」と、爽やかな笑顔で言い放っていた。
労働に屈辱を感じるなら労働者に、肌を晒す事を屈辱とするなら魔族がされたのと同じ様に全裸待機、等。
そういった事を新興とはいえ、二カ国から同時に訴えられたらクローシア側は呑むしかない。
これがクローシアの滅亡、みたいな過激なのじゃなくて良かった。魔族の力を持ってすれば、不可能じゃないだけに。
「でも竜ヶ丘って確かうち以外には消極的なんだよね?」
「ああ。代々、卑怯な手を使う様な人間には気を付ける様にって教育されてるらしいから」
魔族が俺をあっさり受け入れたのは「オブシディアンが戦った所で勝てない」と判断したかららしい。
実際本人がどう思ったかは分からないが、名前を貰うというのは個を確立させる上で重要なプロセス。
それを見るからに強そうなオブシディアンが、見るからに怪しい俺の申し出を受け入れた。実質的な降参と見る魔族が出てもおかしくはない。オブシディアンに名前を貰った魔族も、俺を受け入れたオブシディアンと同じ気持ちを抱いたのだろう。
「国として認められたら嫌でもどこかと交流することになっちゃうんじゃないかな」
「そこは俺が何とかする」
多分ここで役に立つのは、日本史で習った琉球の中継ぎ貿易。簡単に言うと、国外からの輸入品を国外に再輸出するというもの。
うちが琉球部分を担えば、交流したがらないが高い技術で作られた竜ヶ丘の商品を他国で売る事が出来る。
中継ぎ国であるサージスにもお金は入って来るし、国内の仕事も選択肢が増える。日本史の知識がある人間が国王になっているサージスでこれを使わない手は無い。
まだこっちの世界には無い貿易形態だから横流しと言われる事もまあ有るとは思う。
が、国際的に禁止されている事ではないので外野がピーピー騒いでる分には何の問題も無い。
「フェリーチェに考えがあるなら僕は出来る限りの手伝いはするよ。優秀過ぎる部下も居ることだしね」
肩をすくめて「部下の方が優秀だと自信無くしちゃうよ」と冗談混じりに言うオリヴァー。当のルナ本人は、元々名指しで呼んでいないので、自分に与えられた仕事に集中している。清々しい程に全く聞いていない。
俺は礼だけ言った。突っ込みはしない。オリヴァーもこれ以上は毎回触れないから突っ込むだけ労力の無駄。
「あ、後ね。総合デザインの方から紙幣の仮決定案が上がってるから、それ確認して印押しておいて。僕の方はもう決定印押したから」
「ロイ、もう仕上げたんだな」
「総合デザイン課の人達も吃驚してたよ。一人なのに凄い速さで仕上がったって」
ロイから上がってきたデザイン画は、俺達が希望した要素を多く取り入れつつ、初期のラフから少し修正を加えた物。
宰相であるオリヴァーの印は押してあるので、その隣にある国王の欄にサインと決定印を押す。これで紙幣工場が稼働するようになれば、造幣が始まる。
国同士の貿易で使われる白金貨という物とは、指定の手順を踏む事で両替が可能。白金貨一枚の価値が日本円で大体一億くらいなので、一片に何種類もを取り引きするのが一般的なようだ。
国同士のやり取りに白金貨以下の硬貨は使われないので端数が出ないように調整するのが少し大変かもしれない。
一グラム単位で価格が変動する鉱石類とか、俺側に知識が無いと魔鉱石で取りっぱぐれる事も有るだろうから、基準についてはまだまだ勉強しないと。
さて、大分遅れたが、今回はまた新たに建築士からの提案が有った案件を幹部会議で検討する事になっている。
その提案というのが城の建設について。俺は今、屋敷を構えてそこで仕事やら生活やら接待やらをしている。
だが、最初の方に城についてサンに指摘されてから、総合建築物管理課という部署が提案の機会を窺っていたそう。
今回の茶会で決まった事はまだ俺達しか知らないが、ルーク王に認められた事はサージスの皆が知っている。国内新聞にて発表されているから。その時点で提案書が上がって来ていた。
晴れて国になったという事で、俺もそろそろ着手しても良いかと思い始めている。魔鉱山の管理、開発を行う魔鉱山管理課と、城の建設に携わる総合建築物管理課が今後、国内随一の忙しさになると思う。
城のモデルは特に決めていない。世界遺産に登録されている城は日本にも有るし、やろうと思えば誰でも再現が出来るくらい詳細に残っていたりもする。
が、声が上がり始めた時から決めていた、どう壊れても良い様に敢えてコンセプトは日本風の城、とだけしておく。
姫路城とか「わーかっこいいー」みたいなノリでモデルにして、もし万が一にでも壊したら秀吉に祟られそうだからな。
取り入れても良さそうなのは、軒下とか城壁に漆喰塗りたくるくらいだろう。防火と防水の効果をパクるくらいは秀吉でも許してくれる筈。というか、それくらいは許して。
日本の城を知っているのは俺だけだから、完成希望図を書いて提出するつもり。堀から水路を伸ばせば農業用水としても使える。
俺が居る間は俺の魔法で水量調整も出来るから問題無い。居なくなってもこの国には雨が降るから。
人間の足止めになって灌漑も出来る堀は、なるべく実現させたい。人間が掘ると時間が掛かるが、俺が水魔法で地面を抉る事は出来るわけだし。
あ、でも水路はともかく堀の方は子供達が落ちない様に対策も取らないと行けないな。
「オリヴァー、三日後に幹部会議を開こうと思う。議題は、サージスの城建設について。居住を目的とはしていなくて、軍事基地として機能させたいと考えてる」
「分かった。招集状に書いておくね。フェリーチェはこれから設計図とか作るの?」
「ああ、こういうのは時間が必要だから早めにやっておかないと。いつ誰に呼び出されるか分からないからさ」
俺を呼び出す人といえばオブシディアンかルーク王、クリスタルおばさんくらいだけど。
「じゃあ僕も少し意見を纏めておこうかな。軍事基地ってよく分からないけど、どんな意見でも有って損は無いからね」
「ありがとう、オリヴァー。それじゃあ三日後、よろしくな」
「うん」
まずは外装。漆喰で白くなるという事で、姫路城に寄らない様に意識の外に追いやる。あくまでも日本風。実際の建物とは関係無い。
この国では人間同士というよりも、魔物との争いが多くなる。魔族が少しでも居れば、スタンピード……ではなくクラスターの頻度は抑えられるらしいが、戦いに有利になる方が良い。ラ・モールの森近くに建設したい。
地図と睨めっこしながら地形に合った形にデザインしていく。天守閣はブラン。ヴィーネ神直属の神獣デウスにするか迷ったが、皆のアイドルであるブラン(蛇バージョン)にした。
日本だと時代によって城の材質が違うが、今回デザインするのは新しめの石の城、石垣を使うタイプだ。日本の城と聞いて真っ先に思い浮かぶやつ。
こういうデザインをしているとサンドボックスゲームのありがたみがよく分かる。日本の城は建築ガチ勢の理久がよく見せてくれた。
正確な構造はもうあやふやだが、知識はゼロじゃない。思ったよりもスラスラと筆は進んだ。
「でっか……」
出来上がった設計図(仮)は地図に縮尺を合わせてみると、この大陸に存在するどの建物よりも大きくなる。城は権威を象徴する物でもあるから間違ってはいないんだろうけど、こんなに大きくする必要はあるか?
「なあ、どう? これ。ちょっと大き過ぎないか?」
「そうでしょうか? クローシアのお城もこのくらいだったと思いますが……」
「はい。俺もフェリーチェ様の力を他国に示すのにはこのくらいの大きさがうってつけだと思います」
「そうか? まあ、その辺は建築士達と要相談だな。現実的に不可能なサイズだったら迷惑になるし」
今は屋敷の小さな訓練場で活動している騎士の本拠点にしたり、無限収納を使って余剰食料を保管したり、そのくらいにしか多分使わないから。
無限収納は空間属性を持つ俺にしか使えないが、他人にその効果を渡す事は出来る。手順はゴルフボールくらいの無限収納を出して、それの主を渡したい人の名前に書き換えるだけ。
無限収納の主を城にすれば、行くだけで人々は無限収納が使える。ごちゃごちゃになるのを防止するためにジャンル毎に収納を変える事も出来る。俺からしたら、転移よりもチートで便利な能力だ。
それを踏まえて間取りを考えた方が良いな。ジャンルで分けたり、食料だけじゃなくて武器や服とかも保管するってなってくると当然部屋数は多い方が良い。
無限収納が使えるから一部屋の大きさはトイレくらいで十分。今は街の方に家を持っている騎士達が城の近くに住みたいとか、城に住みたいとかなると、兵舎も必要。
結局、倉庫部分以外で場所を取る事になる。日照権に関わってくるから太陽との位置関係は一番注意しないといけないな。




