第14話 面白おじさん発見
戦闘開始から二時間が経過。
そこから戦場は膠着状態が続いた。
まず、入口を固めていた場所に赤の庭園の構成員が逃げて来なくなって、ここが第一の膠着ポイントとなり。
次にルルロアたちも、一つ一つの場所を探していって、敵以外の人間。
捕まっている人間たちが見つからずで、だいぶ難航し始めたのも第二の膠着ポイントとなった。
だが、最大の膠着ポイントは、第三のポイントだ。
それが、英雄らの戦いにあった。
洞窟奥は、砦のようになっていて、実はガストらの主力部隊は、戦闘開始直後で敵が籠城したために、そこを攻めあぐねていた。
様子を窺いながら、ガストとレオンたちが会話になる。
「あの陣が固い・・・ここからどうするんですか。ガストさん」
「ああ。あれが邪魔だよな」
ガストが指を差したのが、敵の大将ラードンだった。
砦の奥の一番高い場所でこちらの様子を眺めている。
椅子に踏ん反り返って座っている姿は、王様気取りだ。
「あの人の力で、強化が入っているんですね」
エルミナが答えると、ガストが頷く。
「ああ。奴がいつも事態を七面倒くさくするやつなんだわ」
「面倒ってなだけじゃないんですか?」
ミヒャルが聞いた。
「そうだ。単純じゃなねえ。あいつのせいでな」
「・・・あれのせいで、他の気配が強まってる・・・おら、眠い」
敵の力を把握しているイージスは眠そうにしていた。
「そういう事よ。あいつは英雄職『凱旋将軍』だ」
「「「凱旋将軍?」」」
イージス以外の三人が首を傾げた。
彼はこの瞬間寝ていた。
「軍師系の頂点の一つだな。あいつの指揮は、超絶なバフがかかるんだ。だから、あいつの周りにいる構成員がクソ強くなっちまうのさ」
「そうか。だから、俺たちの攻撃も効かないのか」
勇者の動きにも食らいついていた。
レオンは、自分の攻撃を防がれた理由を知って納得した。
「ああ。あいつが仕掛けてんのは、勝ち戦へだ。初歩の全体強化スキルだけど、強力なものになるよな。あれが厄介だわ。なんであんないいスキル持ちが悪になるかね。ほんとによ。どっかの司令官でもいいし、ここの騎士団長にでもなっとけよな」
自分は暗殺王なのに、冒険者で。
あっちは凱旋将軍の癖に、裏ギルド。
ため息が出るのも、仕方ない事だった。
「うちが、ぶっ飛ばすのはどうです?」
「ミヒャルが? 魔法でか?」
「はい。あの砦みたいになっている部分ごと、まるっきりぶっ飛ばすんです」
「駄目だな。あの中に人質がいるかもしれねえ。関係ない一般人を巻き込みそうだ」
「でも、このままじゃ、いつまで経っても・・・」
「そうだな。でも少し待とう。まだ互いに膠着状態だ。焦る必要なんてないと思う」
「わかりました」
敵を追い詰めはした。
ただ、決め手に欠ける自体となったのが、ガストの誤算だった。
彼女の予定は、このまま勢いを持って洞窟内の奥を荒らして、一気に片を付けるはずだったのに、まさか洞窟内の奥が要塞のようになっているとは思わず、そこに万全の用意として、兵までいたとは。
英雄五人をもってしても、これは簡単には崩せない。
しかし、この膠着状態を破る男が、ここから現れる。
ただ、その局面を生み出したのは、そちら側の人間からであった。
◇
「怖えよ。入口も。裏も・・・どうしよう」
この状況に怯える男は、捕らえている一般人がいる部屋の前で震えていた。
見張り番が主な仕事だった男は、洞窟内のどこにも逃げ場がない事に焦っていた。
洞窟奥で襲撃を受けたリーダーは、洞窟内の他の仲間たちを置いて籠城してしまい。そこに慌てた仲間たちは洞窟入り口に待ち替えている敵に倒されたとの話だ。
噂を聞いていた男は、どうしたらいいかで迷っていた。
降伏すれば、敵が許してくれるのか。
あちらにも慈悲というものがあるのだろうか。
でも悩む部分がある。
それは相手にあのガストがいる事だ。
彼女が率いる冒険者軍団が敵だと聞いていたので、そこらへんがかなりシビアだと思っていた男はある決断をした。
男が知恵を振り絞った渾身の作戦が、事態を急変させる。
それが・・・。
◇
洞窟内を高速で突き進むルルロアたちは、諦めずに一般人を探していた。
「ルル君」
「はい」
彼におんぶされているミルフィは、肩を軽くポンポンと叩いて知らせを出す。
「前から大量に人が来ます」
「大量? どの程度です」
「80くらいです」
「そんなに!? まずいな。二人で隠れられる場所は・・・ないな」
ルルロアが、周辺を探すが、隠れられる場所がほとんどなかった。
天井が低く、横幅もない一直線の道。
しかし、そんな場所でもアサシンの三人なら、スキルがあるので大丈夫なのだが、ルルロアとミルフィはそれが出来ない。
だからルルロアは焦っていた。
「でも、敵じゃないです」
「え? どういうことですか」
「音が一般人です。それが大量に走ってこっちに来ています」
「一般人が?」
「はい。戦う者の足音じゃないです」
足音の違いで、彼女は目の前から来る一団が、敵ではないと判断した。
「わかりました。信じます。でも、ロンドさんたちは念のため隠れてください。オレが対処します」
「「「・・・」」」
常に黙っている三人は、ルルロアに言われたとおりに、姿を隠した。
彼らは、この瞬間にルルロアの作戦を理解していた。
彼が表に出て、80名近くの人間が本当に一般人かどうかを調べて、もし中に敵がいたら、アサシンで対処する方針だという事に気付いていたのだ。
一から十まで説明せずとも理解してくれる実に優秀なアサシンたちであった。
「ミルフィさん。申し訳ないけど、あなたも表に出る事になります」
「え? 申し訳ない」
「はい。もしここで戦いになれば、危険に晒すことになるので、申し訳ないです」
「いいえ。だ、大丈夫ですぅ」
「やっぱ緊張しますよね。オレみたいな無職に背中を預けるのは」
「いいえ。違います。嬉しいです」
「え? 嬉しい???」
「だ、だだだ、だって。前から来る人達が敵じゃないって、私の言葉を信じてくれました」
「ああ。それはそうでしょ。あなたが嘘をつくとは思いませんよ。でも中に敵がいたら、戦いになっちゃうんですよ。危険と隣り合わせの場面で、守護するのがオレだと不安でしょ」
「いえ。絶対に大丈夫。ルル君は、私を守ってくれますよね」
上目遣いでお願いする形になった。
「え。まあ、そうです。必ずあなたを守ります!」
「・・・ふえええええ・・・・」
ルルロアの真剣な表情と一言に、カッコよさを感じてしまい、ミルフィは目を回して倒れた。
「あれ? どういうこと・・・ん!? 来る。ミルフィさんしっかり。起き上がっていてくださいよ。集団が来ます」
ルルロアの耳にも足音が聞こえた。
彼女を起こそうとしても、その前に集団が来るはずだ。
「ふええええ・・・・・ええ・え・・・えええ」
朧げな彼女は、何とかして意識を保とうと必死だった。
そんな彼女を置いて、ルルロアが集団と会話になる。
ぞろぞろ来る人たちは、この現場がどうなっているのかをあまり詳しくは知らない。
「ひ、人だ」
「あいつらじゃないのか。ぼ、冒険者?」
ひそひそ声で、話していた。
だからルルロアはこれは敵じゃないなと警戒を解いた。
優しく話しかける。
「オレは、冒険者です。皆さんを救出に来た者です」
「おおお」「よかったわ。ようやく帰れるのね」
安堵の声が聞こえてくる。
「それじゃあ入り口まで案内しますので、皆さんついてきてください」
「助かったんだ」「お家に帰りたい」
ルルロアの先導で、動き出そうとしていた一行。
しかし、ここで、ルルロアだけが気付いた。
この中で唯一匂いが違う。
一般人の振りをしているが、一般人じゃない匂いを感じた。
人の中に紛れ込むには、やけに目つきが鋭い。
そして、全体を確認している。
その様子から、余裕があり過ぎるとして怪しんだ。
他の人たちは、困惑、心配、苦しさ。そして長らく閉じ込められていたので、安堵感があったのに、その男からは感じない。
だからルルロアは、一人の男性の前に立った。
厭らしい目つきをしている男性のスキンヘッドの頭を鷲掴みにした。
「いててて」
「おい。あんた」
「へ」
「あんただけ違うな・・・人質じゃないな」
ルルロアの目が輝いた。
「あんた。赤の庭園だよな。他の人たちは一般人の匂いがするんだけど、あんたからはあの赤の庭園と同じ匂いがする」
「なんだてめえ・・・じゃない・・。俺は掴まっていた人質なんだよ。助けてくれよ。逃がしてくれぇ」
この男の目が違う。
この目は懇願の目じゃない。隙あれば逃げようとする目だ。
「ふ~~ん。で、あんた幹部か?」
「それが三下の口八丁の・・・あ、しまった」
「ボロが出るの早すぎない?」
ここまで偽装したのに、自分から正体をばらすのかよ。
ルルロアは、面白いおじさんだと内心では笑っていた。
「クソ、ここで貴様を倒す」
「コロコロ態度が変わるのかよ。面白え男だわ」
男は手から花を咲かせて、ルルロアに息を吹きかけてきた。
「くらえ。バラ色の人生」
ルルロアの周りにパラパラと赤い粉が飛び散っていく。
男がニヤリと笑いだした。
「眠れ、クソ野郎。俺は逃げるんだよ! こんな所は嫌だ」
男は自分の勝ちを確信していた。
頭を掴む手が外れたので、その場から走り出していた。
「待てよ。あんたは逃がさん!」
「え。どうして」
ルルロアが、男の肩を掴んだ。
「な、な・・・な。なんでこの薬が効かんの?」
「ん? これはあれだろ。吸わなきゃ眠らんタイプの粉だろ。余裕だ」
ルルロアは、敵の技を見破っていた。
「は? 普通は吸い込むだろ。一分以上もお前の周りに粉が舞うのだぞ」
「いや、オレには一分なんて短い時間だし。それにスキルがあるから、しばらく呼吸しなくても大丈夫だ」
「スキルだと!? そんなスキルあるか!!!」
「海女さんの『素潜り』のスキルだ。鼻とか口の呼吸を止める効果があるスキルでさ。これで七分くらいは余裕で息を止められるのよ」
「は? 男が海女のスキル? 男が海女のジョブになるわけがないだろうが。嘘こくなガキ」
「いや、オレって無職だから。海女さんのジョブじゃないし。嘘言わんし」
「へ?」
おじさんは、ルルロアの無職に驚きを隠せない。
それもそのはず、周りにいる一般人も驚きを隠せていなかった。
自分らを救出しようと動いてくれたのが、そんな人物だとは思わなかったからだ。
「あんたは、何のジョブ?」
「オレは奇術師だ!」
正直に答えてくれるんだ。
この時、ルルロアは相手の反応の良さに驚いていた。
ここで即答するとは思わずだった。
「ああ、だから手品まがいの技を出せたのか」
「手品じゃない。奇術だ」
「だから手品じゃん!」
正直、奇術と手品の違いが分からない。
「くそ、疲れるこのガキ。離せ。なんでこんなに力が強いんだよ。あっちにいるバケモンと同じじゃないか」
「オレは割と強い方よ。でもあっちのバケモノたちと一緒にしないでくれる? まあでも、オレも一応準特級でね。まあまあ強いよ! んで、何で逃げようとしてんの」
「見たらわかるだろうが、今の会話の流れでも、あの戦いに俺がついていけるわけないだろ。どうせ、ここが潰れれば俺も別なことが出来そうだし。あいつらに知られない間に逃げられれば、俺が死んだことになってちょうどいいかなってさ。でもおまえみたいなバケモンがこんな所にいるとは思わないぜ。クソ、運が悪い日だぜ・・・」
逃げ出したい理由。
それと、人質を解放して、紛れ込んで逃げようとする狡猾さをルルロアは気に入った。
それに自分の気持ちを正直に話してしまう奇術師が面白いと思った。
ジョブと性格が正反対なのも、面白いポイントだと思う。
「ああ、そういうことか。なら条件があるわ。あんたを助ける条件だ」
「は? 俺を助けてくれる?」
「ああ。あんたさ。ここの人たちを無事に外に出してあげてくれ」
「????」
「あんた、逃げんだろ?」
「ああ。そうだ。逃げたかったんだわ。でもお前のせいで上手くいきそうにない」
「いいや。上手くいく。この人たちを無事に入り口まで頼むよ。ここは危険だ。一般人がいていい場所じゃない。あんたが逃げるならちょうどいい。いいか。一人でも死なせたらあんたを殺すぜ! はははは」
「わ、笑って言うなよ。俺は逃げ・・・ぐわあ」
男が地に伏せた形となる。
一瞬でルルロアが上から踏んづけたのだ。
「いんや。オレはいつでもあんたを殺せるぞ。スキル獣化 これでさらに骨を砕くわ」
「ぐあああああああああ。折れる折れる。背骨が折れる!!! や、やります。命を懸けてやらしていただきます」
「おお。そうか。有難い人だな。頼んだわ」
「クソ・・・なんだこの野郎は、今のは海女のスキルじゃねぇし。無職とか嘘つくし」
「だから嘘ついてないって、まあいいや。おっさんは、皆の無事を確保しろよ! ここの人たちの体にさ。傷が一つでもついたらさ」
「ついたらなんだよ」
ルルロアが睨んだ。
「もし彼らにケガでも負わせたら、おっさんにも同じところをケガしてもらうわ」
「なに怖いこと言ってんだよ」
「同じ箇所に寸分違わず傷をつける!」
「おいおいおい。何言っちゃってんのお前、正直レッドガーデンよりも怖いわ」
「オレが? おっさん、またまた冗談を! つうことで頼んだよ。一般人のフリをしたまま、入口まで移動しろ。ルルロアから、話を聞いたって言え。これをやるから、信じてもらえるはず」
ルルロアが手書きのメモを渡した。
「し、仕方ねえ・・・了承する。俺も逃げたいからさ」
男が正直に答えて、その次にも正直にルルロアに気持ちを伝える。
「早く降りてくんない・・俺、死にそうだ」
ルルロアが立ち上がると、笑顔になっておじさんに釘を刺す。
「ああ。悪い悪い。じゃあ、頼んだよ。約束も忘れんなよ・・・ケガさせるなよ」
ルルロアはこうして、この逃げ出そうとしたおっさんを使って、人質を救出したのだ。
そして、おっさんは自らが先頭となり、全体を誘導したのであった。
それで実は、この裏には、念のための護衛として、クロンとシレルの二人を置いた布陣で安全は守られていた。
でも謎の奇術師のおじさんは、上手く敵をやり過ごして、80名の団体を無事に入口にまで、案内したのだ。
全てはルルロアの脅しを信じたからだった。




