第15話 久しぶりだな
「お! 思い出した。あんたってあの卑怯者のエラルだな」
「え、違いますよ。違います。人違いです。そんな名前の人、知りません」
素っ頓狂な声を出して、誤魔化そうとするスキンヘッドの男。
見覚えがあるなんて、そんな曖昧な話じゃない。
一度見たら忘れない。
この見た目のインパクト&言動が面白過ぎるおじさん。
オレの記憶の中では、この二つが固定されているのさ。
だから、忘れるわけないんだよね。
「いやいや。あんたのその胡散臭い髭に、スキンヘッドの頭。それに厭らしい目つきに、片方の耳にイヤリングだぜ。そんで耳とは反対にある鼻ピアス。これなら、エラルで決まりだ!」
オレはおじさんの肩を軽く叩いた。
「な! 卑怯者のエラルだろ」
おじさんの顔が仕方ないなという顔になった。
諦め顔で、声も残念そうだ。
「ああもう。俺は卑怯者のエラルじゃない。『狡猾な奇術師』エラルだ! いい加減に俺の名前をおぼえろよ! バケモン無職」
「なんだよその言い草は、一緒に戦った仲じゃないか」
「その言い方だと共闘したみたいだわ。やめてくれよ。敵だっただろ」
からかいがいのあるおじさんだ。
いちいちツッコンでくれる。
「そんなに怒るなよ。卑怯者」
「だから、狡猾な奇術師だと名乗っただろう!」
「え? 姑息な男?」
「ああ。いやだ、いやだ。お前とは二度と関わりあいたくなかったのに、なんでこんなところで会うんだ・・・クソ! 今日は不運にも程があるぜ」
そんなに嫌がるとは。
オレなんかしたっけ???
とおっさんが嫌がるようなことをした記憶がなかった。
「あんたさ、まだ懲りずにあそこにいんのか? なんでこの国にいるんだ・・・・まさかな。まだ所属してんだったら殺すけど」
「おいおいおい。いない、いない。所属していないよ。なに怖い事を真顔で言うんだよ! 相変わらず無茶苦茶すぎて、だから嫌なんだよ。お前と会うのはさ」
「じゃあ、今は何やってんのよ。正直に言えよ」
「こっちの騎士団の密偵をやってる」
すぐ答えてくれます。
ここが面白ポイントだ。
めちゃくちゃ正直です。
「は? おっさんが騎士団の密偵?」
「ああ。マールヴァー騎士団とヴィジャル騎士団を調べてんだよ。俺はそういう調べ物が上手いんでね」
「へ~。じゃあ、あんたはオリッサ騎士団に雇われてんのか」
「そうだな。それ以上は言わんぞ。これは仕事だ」
「ああ。大体察しがつく。つうことで、お茶にしよう」
「聞く気満々じゃねぇか。察しついてねぇじゃんか」
「いいから、いいから。気にすんなって。俺の奢りだ」
「いやだからさ、話さないって言ってんだろが」
ちょうど欲しかった情報が手に入りそうだから、この男を喫茶店に連れていくことにした。
このおじさん、正直者だし。
騙すようで悪いけど、おじさんには悪いようにしないからって、言い訳は発動させておこう。
◇
喫茶店で。
窓辺の静かな席で、対面になる。
「んで、その後はここにいて、今は騎士団のオリッサにいるって訳か」
「まあな。あの時、レッドガーデンから逃げた人たちはいったんこの都市に匿われたからな。俺も一緒の扱いにしてもらったろ。百歩譲ってお前のおかげでな」
「まあな」
おっさんは、逃げ出した後。
アサシンのお二人の口添えで、一般人と一緒になった。
ただし、ここは本当の所は違う。
おっさんが下手な動きをしたら始末される予定だった。
「実はさ。俺の嘘って、信じてもらえる確率が99パーセントはあるからな。奇術師特有のスキル『嘘八百』これがあるからな」
「ふ~ん」
「でも。なんでお前には俺の嘘が効かないんだ」
「そうだな・・・オレがそういう人の騙しの部分にうるさいたちだからじゃないか。たぶんさ。探究者と職人気質。この両方の力があんたの嘘を受け付けないのかもしれん。オレの中であんたは面白オジサンとして認定されている。いや、待てよ。卑怯で姑息な面白オジサンとして認定されている」
「は!? 何で言い直して酷くなるんだよ」
「まあまあ。あんたは面白い。それだけは間違いないから。情報プリーズ。昔のよしみで騎士団関係の情報をくれ」
「誰が話すか・・・それに昔のよしみなんて、お前と関係なんてあるわけないだろ」
おっさんが突っぱねるもんだから、オレはマジックボックスから金を引っ張った。
「ほれ! おっさん! 金いるか。話してくれるならやるよ!」
ドンと目の前のテーブルに置くと、おっさんの目はGになっていた。
分かりやすい嘘つきである。
「ぬ!? 10万!?!?」
「おう。ぱっと持ってるのは、この分しかないのからさ。悪いねおじさん」
「いやいや、高額だわ。ぱっと持つ金額じゃねえよ・・・」
「おっさん。いらんか。じゃあしまうわ」
金をしまおうとすると、おっさんの目が悲しそうになる。
実に、分かりやすい嘘つきである。
「いやいや。せっかく出したんだ。もう少しここに置いていてもいいんじゃないか。なぁ。旦那ぁ!」
おっさんが、よだれをたらしそうだった。
お金が何より大好きですよと、顔が言っています。
「いや、このお金な。おっさんの懐には入りたくないってよ。ここら辺の空気が寒いって、金が言ってるからさ。オレの懐にしまって温めておくわ」
「な!? 旦那ぁ」
揉み手のおっさんになった。下出に出る気満々だ。
「この天候のどこに寒さを感じるんだよ。ここは熱いでしょう!? ホットですよ。ホット!!!」
「いや、おっさんが金をもらってくれないからさ……お金さんたちは悲しいらしいわってことでオレの懐にしまっておくからよ。おっさんの代わりにオレが温めておくよ」
「待て待て、それは、俺が温めてやるよ。俺じゃないとこの金が寂しいんだってよ」
おっさんが金に手を伸ばそうとしたので、オレがその手を叩いた。
「いて!」
「おい! おっさん。条件未達成だぜ!」
「いや。もらうつもりは・・・・ないけどさ・・・」
「え、じゃあ、金をしまうわ」
「いえいえ。お話しさせていただきます! 旦那ぁ」
「よし。じゃあ、先に五万やるよ。残りは全部話してくれた後な」
「え! いいのか!」
「おう。ほらよ」
おっさんはお金を半分受け取ると目が輝いていた。
あんた奇術師で嘘が得意と言いながら、めっちゃ顔に出てるんだけど。
ジョブ。
間違えたんじゃない。
この世界の女神様ってさ。
結構間違えるよね。
もう少し人に寄り添って、ジョブを与えた方がいいよ。
この人にはもっといいジョブがあったと思うんだよ。
なんていうんだ。正直な人に似合うジョブってのがあったと思うのさ。
なんて、思っていることは女神には内緒にしておこう。
ということで、オレは久しぶりに会ったおっさんに情報を教えてもらう事になったのだ。




