第23章 名前の手前
朝顔の下葉を数え直している間に、ニルは三度、玄関の方を見た。一度目は荷車の車輪が通りの石に噛んだ音で、二度目は向かいの家の戸が閉まる音だった。今の音は、家の外を見ている兵士の靴音だと、耳を澄ませる前に分かった。それでも、帳面へ戻した羽ペンはすぐには動かなかった。窓際の鉢には、昨日までなかった黄色が一枚増えている。見落とさないうちに記しておこうと、起きてから最初に開いた頁だった。
アルバは昨夜から軍基地にいた。朝までかかる仕事があると、出る前に言っていたし、立ち続ける仕事ではないことも、ニルが尋ねてから付け加えた。傷のために避けるべき動作がなくなったわけではなかった。椅子へ座る時に左側を庇うことは、昨夕にも見ている。泊まりになるなら医務室で休めるのかと聞くと、休む場所はある、と答えが返ってきた。
少年も、今朝は家にいなかった。先にセリュシアの家へ一晩泊まったあと、見張りのことを確かめて戻ってきていたが、昨夜はまた向こうへ行くことになった。アルバが戻らない予定と、家の周囲についてまだ分からないことを聞き、一晩なら、と少年自身が答えた。ヴァレットがいるかも確かめていた。部屋の布も、窓際に張った紐も残っている。ニルは昨夜、鉢の受け皿を拭く時にも、その紐の内側へ物を置かなかった。
家が静かなのは、その二人がいないからだった。そう考えれば説明はつく。ニルは帳面の欄へ、下葉一枚黄変、と書いた。付け根に触れると葉はまだ落ちず、土も十分に湿っている。水を足さずに鉢を戻し、次の株の記録へ進むはずが、廊下で床板が鳴ったような気がして顔を上げた。何も続かなかった。ペン先が紙に留まり、数を記す欄の端へ、黒い点が滲んだ。
アルバが一晩戻らないことは、前にもあった。仕事で留守にする日を知らず、翌朝になって靴がないのを見つけたこともある。その頃は、台所を先に使えると思っただけだった。足音は、階段を下りてくる速さと、どこで一度止まるかで聞き分けられた。分かるから、湯を沸かす順番を変えずに済んだ。今は湯がもう沸いていて、誰の順番も待つ必要がなかった。
ニルは羽ペンを置き、台所へ行った。昨夕の汁物を入れた鍋を火にかける。自分の分を温めるだけなら小さな鍋へ移せばよかったのに、蓋を取る時には、残っている量を二人で分けた場合のことを考えていた。朝までというのは、朝の鐘が鳴るまでなのか、軍の仕事が終わるまでなのか。聞いておけばよかった。聞いても仕事次第だと答えられたかもしれないが、それなら、分からないと知ったうえで待てたはずだった。
匙で底を混ぜると、切った根菜が浮き上がった。温まるまでに記録を終えようと帳面を持ってきたが、台所からは玄関が見えない。いつもならそれで困らない。今朝は頁を一枚進めるたびに、通りの音の方が先に耳へ入った。軍で何かあれば知らせは来る。外の兵士にも変わった様子はない。昨夜の予定だけで、危険な場所へ出ていると決める理由はなかった。ニルは鍋の火を弱め、もう一度、黒い点のついた欄を見た。理由がないことと、気にならなくなることが、どうして同じにならないのか。
戸の下が敷居を擦った時には、荷車かどうかを考えなかった。持ち上げてから引く、いつもの音が続いた。ニルは立ち上がり、持ったままだった羽ペンを食卓へ置いた。玄関から入った冷たい空気に、外套の裾が揺れている。アルバが片手で戸を閉め、留め金を確かめたところで顔を上げた。
「起きてたのか」
「おかえりなさい。昨夜は寝ましたよ。今朝、起きました」
答えながら、ニルは玄関の窓を見た。朝日はもう隣家の屋根を越えていて、入ってくる光の量は、さっきと変わらないはずだった。なのに外套の折り目が、急にはっきり見えた。濃い布に付いた乾いた埃も、戸の脇の鉢に残る葉の赤みも、それぞれ別の色を持っている。そこにあったものが一度に近くなったようで、ニルは瞬きをした。
アルバは外套を外し、掛け釘へ腕を伸ばした。左側を大きく捻らないよう、足の位置を先に変える。ニルの目はその動きを追い、肩から落ちた布が釘に収まってからも離れなかった。「何か来たか」と聞かれ、ようやく首を振った。
「いいえ。そちらは、終わったんですか」
「引き継いだ。紙が多かった」
アルバは短剣の留め具を外しながら答えた。血のついたところも、布の裂け目も見えなかった。
「傷の痛みは」
「変わらん」
「昨夜から増えていない、という意味ですか」
「そうだ」
そこまで聞けば、少なくとも、帰りを気にしていた理由の一つは片づいた。ニルは頷いたのに、胸の内側が落ち着く方へは動かなかった。アルバがこちらへ歩いてくると、足音の一つずつが、さっきより近いところで鳴った。いつもの速さだった。知らないことが分かったわけでも、長く話してもらったわけでもない。それでも、もう一度顔を見たくなった。
「食うものあるか」
「汁物を温めています」
「お前は」
「まだです」
アルバは台所の方を見てから、ニルの持ってきた帳面へ目を落とした。
「先に食えばよかっただろ」
「まだ記録が終わっていなかったので」
言い終えてから、ニルは黒い点を手で隠しかけた。朝の記録に時間がかかったのは本当だが、食べ始めなかった理由を、それだけで説明できる気がしなかった。
アルバが棚から器を二つ出した。ニルは鍋を火から下ろし、汁を注いだ。窓から入る光が湯気の向こうに薄く広がり、器の縁を持ったアルバの指が見える。爪の脇に乾いた泥が残っていた。ニルがそこを見ると、アルバは自分の手へ目をやり、器を置いた。
「洗ってくる」
そういう意味で見ていたのではなかったが、何の意味だったかを尋ねられても答えられなかった。ニルは先にパンを切った。
同じ食卓で汁を飲んでいる間には、特別な話は出なかった。アルバは昨夜、基地で少し食べたと言い、ニルは、ならパンは半分にしますかと尋ねた。要る、と短い返事が来た。パンを渡す時、向こうの手がこちらへ出るのを見ただけで、呼吸の間が一つずれた。ニルは匙を器へ戻し、湯気が顔に近すぎたのかと思って少し背を引いた。距離を変えても、アルバの指がパンを折るところを目で追っていた。
食べ終えると、アルバは昼まで寝ると言った。ニルは器を重ね、頷いた。階段の上で一度鳴る床板を聞いてから、今度こそ植物の記録へ戻る。黄色になった葉を取り違えるほど、見え方がおかしいわけではなかった。小さな斑も、葉裏の毛も、いつも通りに見えた。ただ、玄関に外套が掛かっていることを知っていると、視線がそちらへ寄ろうとする。ニルは欄外へ、朝、と書き、そのあとに、眩しい、と続けた。目が痛いわけでもないのに、他の語が出てこなかった。
*
午後、ニルは少年を迎えに行く約束の時刻より少し早く、セリュシアの邸宅に着いた。馬車を降りる時には、曇った空の明るさを確かめた。家の玄関と同じように、何かが急に鮮やかになることはなかった。濡れた門柱の石も、庭で刈り込まれた枝もよく見える。見えるだけなら、今朝も異常はなかったのかもしれない。そう考えると、身体のどこについて質問すればいいのか、ますます分からなくなった。
セリュシアは書斎の隣の小さな部屋にいて、封をする前の手紙を読んでいた。ニルが入ると、残りの行を読み終えてから紙を伏せた。
「少し待っていて。あの子たちは、まだ遊んでいると思うわ」
ニルは頷いたが、椅子へ座っても外套を膝から動かさなかった。セリュシアが茶を注ぎながら、その手元を一度見た。
「何かあったの」
「姉様、質問してもいいですか。身体のことなんですが」
「ええ。どうしたの」
「病気でしょうか」
セリュシアの手が止まった。茶は杯の中へ収まっていて、溢れてはいなかった。
「まだ、何が起きたのか聞いていないわ」
ニルは外套を隣へ置き、両手を膝へ戻した。今朝、胸の動きが変わった時のことから話し始めたが、息が苦しくなったと言うと違う。目の具合が変わったと言っても、葉を見誤ったわけではない。説明のために一つ選ぶたびに、起きたことから少し離れた。
小さかった頃にも、身体に起きたことを姉へ話した。胸が詰まる、何もないのに涙が出る。セリュシアが寂しいのかもしれないと言うと、それまで目のことだと思っていたものに、別の名前がついた。嬉しい時にも涙は出る、とあとから教わり、ではどこが違うのかと、もう一度尋ねたこともある。今日も、うまく説明できれば、姉は自分の知らない語を教えてくれるかもしれなかった。
「光が見えるの?」
「実際に、光がないところで何か光ったわけではありません。眩しいとも書いたんですが、それも正確ではなくて」
ニルは膝の上で指を揃え直した。
「アルバを見ると世界がチカチカするんです」
口にしてみると、帳面へ書いた語よりは近かった。ただ、それで伝わるかどうかは別だった。セリュシアはすぐに聞き返さず、茶の器を卓の中央へ戻した。
「今朝、帰ってきた時です。玄関の窓から入る光は変わっていないはずなのに、外套の色も、鉢の葉も、急にはっきり見えて。痛みはないし、目を閉じたあとも残るものはありません。けれど、顔を見たら、また同じようになって」
ニルはそこで一度止まった。説明を続けるためには、パンを折った指や、器を持ち上げる時の袖口まで話すことになる。葉の色についてなら、どの部分を見たか細かく言うのが普通なのに、今は話す前から耳のあたりが温まった。
「アルバがいない間は、どうだったの」
「記録に時間がかかりました。玄関の音が気になって」
「傷のことが心配だった?」
「それもあります。でも、痛みが増えていないと聞いたあとにも、変わらなくて。安全だと分かれば、落ち着くはずだと思ったんですが」
ニルは茶へ手を伸ばした。まだ少し熱く、杯の縁へ指を寄せると温度が分かった。その感覚は、今朝のものと一緒ではなかった。
セリュシアが少し笑った。ニルは顔を上げ、何か説明を省いてしまったのかと考えた。姉は茶の器を持ち直すでもなく、そのままこちらを見ていた。
「恋かもしれないわね」
「根拠は?」
問いは、聞いた語を頭の中へ置くより早く出た。セリュシアの笑みがわずかに深くなり、それから、考えるように唇が閉じた。
「会えるかどうかが気になる。帰ってきたら、その人を見ていたくなる。そういうことが、恋をしている時に起きることはあるわ」
「誰かを心配していても、会えるかどうかは気になります」
「そうね」
「怪我をしていたら、動き方を見る必要もあります」
「それもそうね」
否定されないので、ニルは次に用意していた説明を止めた。恋という語を採用するなら、別の理由では足りないことを確かめなければならない。ところがセリュシアは、別の理由があることを認めたまま、茶を一口飲んだ。
「食事は一緒にしたの?」
「はい」
「その時も、同じ感じがした?」
ニルは自分の杯へ目を落とした。傷の具合を見たところから説明すれば、食卓のことを話さなくても済むと思っていた。済ませては、何が起きたか分かってもらえない。セリュシアは卓に伏せてあった手紙を端へ寄せ、ニルの返事を待った。
「パンを折っていました」
言ってから、ニルは、それだけでは何の説明にもならないと思った。
「その手を見て、息をする間が変わりました。傷がある方を庇ったわけではありません。食べられない様子もありませんでした」
「そう」
姉は少し待ち、ニルが続けないのを見てから聞いた。
「嫌な感じだった?」
「嫌では、ありません」
そこは、今朝の感覚を探し直さなくても答えられた。
胸が動くこと自体なら、嫌な記憶のあとにも起きる。階段を上がれば息も変わるし、研究の結果を見つけて身を起こす時にも、身体は先に動いていた。けれど今朝、アルバが器を持ったところには、解けそうな問いも、身を引かなければならない手もなかった。話が終わっても、食べ終わっても、そこにいる方へ目が寄った。それを恋と呼べば、パンを折った指まで気になった理由が分かるのだろうか。語を知っていることと、その語が今の自分に当てはまることの間には、まだ距離があった。
「いつからだと思う?」
セリュシアに尋ねられ、ニルは杯を置いた。
「今日だけではないと思います。でも、記録していなかったので、始まりは分かりません」
「今日、気づいたのね」
「今日、気になりました。いないことも、前とは違ったので」
アルバの部屋の戸が閉じていても、朝なら下りてくる足音を聞けると思っていた。そう思うようになった日を、帳面には残していない。昨夜は早くに寝たのに、起きた時には、その音が聞こえないことから考え始めた。
セリュシアは、ニルの顔から膝の手へ、視線を一度動かした。
「私には、あなたの感じていることを全部は確かめられないわ。恋かもしれないと思ったのは、今の話を聞いたから。でも、あなたが違うと思うなら、私の答えに合わせなくていい」
「違うと決めたわけでもありません」
「ええ。それでいいの」
それでいいと言われても、どこへ入れるべきなのか決まらないことは変わらなかった。ニルは帳面を取り出し、今朝の欄外を姉へ向けかけたが、開いた頁を自分の方へ戻した。
「呼び方が分かれば、もう少し整理できると思ったんです」
「名前がついたら、今朝のことが全部分かるようになるかしら」
ニルは紙に残る、眩しい、の字を見た。その語で説明しようとしたために、目の痛みも、光の量も、当てはまらないと話すところから始めることになった。
「少なくとも、何を調べればいいかは分かります」
「調べたいのね」
「分からないままなのは、気になります」
姉がまた笑うのではないかと思ったが、今度は頷いただけだった。
「何と呼ぶかはあなたが決めるの」
セリュシアはそう言い、伏せた手紙を重ね直した。
「今、決まらないなら、私の言ったことも、そういう考え方があると覚えておけばいいわ」
ニルは頁の下の空いたところへペン先を置いた。恋、と書くつもりで先を動かしかけ、まだ字を作らずに止める。セリュシアがその手を急かすことはなかった。窓の外で馬車が通り、部屋の戸の向こうでは、盆を置く音がした。
ニルは結局、今朝アルバが帰ってきた時刻から記した。次に、傷の痛みは増えていないと聞いたことを書いた。そこまでなら間違いがなかった。セリュシアは紙を覗き込まず、冷めかけた茶に少しだけ新しいものを足してくれた。問いが出た時、姉に聞けば答えの候補は増える。増えたものの中から、自分に起きたことをどこへ置くかは、まだ決まらなかった。
*
それから三日、ニルはアルバが家にいる時、前よりよく顔を見るようになった。調べると決めても、植物と同じ記録の取り方はできなかった。いつ、どこで、何が起きたかを書こうとすると、そのたびに、アルバは何か普通のことをしていた。濡れた靴の泥を落とす。食卓へ器を運ぶ。玄関の留め具が緩んでいないか確かめる。それを見ている自分の方で何が変わったのかは、何をしているかより記しにくかった。
二日目の朝には、アルバがすでに台所にいた。窓の外がまだ薄暗く、灯りは同じ位置に置かれていた。ニルが入ると、鍋を見ていた顔がこちらへ向いた。
「早いな」
「いつもと同じです」
「そうか」
それだけのやり取りのあとにも、ニルは杯を取る手を止めていた。不在を心配する時間はなかった。それでも、顔がこちらを向いた時には、袖口や卓の上の切れ端まで目に入った。
「何か飲むか」
「はい。お茶を」
棚の下へ手を伸ばしかけたアルバが、一度止まった。ニルは先に茶の容器を取り出した。左の脇を曲げにくいことは、忘れたくなかった。
「僕が取ります」
「頼む」
受け取ったアルバは蓋を外し、中を見た。
「これ、前のと違うな」
「替えました。前のものより葉が細かいので、同じ量で淹れると苦くなると思います。小さじで量るより、まず重さを揃えた方が」
「結論」
ニルは茶の葉を見るのをやめた。アルバは容器を持ったまま待っている。
「少し減らしてください」
「これぐらいか」
「それだと、減らしすぎです」
ニルが示した分だけ、アルバは葉を戻した。その動きを見ていると、先に説明を切られたことへの不満がなくなったわけではないのに、もう少し話していたくなった。茶の葉の違いを、あとから全部聞いてもらう必要があるのかもしれない。そう思って椅子へ座ってから、知ってもらわなければ淹れられないことは、今、伝え終わったのだと気づいた。
研究所で株の変化を見つけた時にも、世界ははっきり見えた。ニルはその違いを考えながら、帰ってから帳面を開いた。植物の方では、分かったことを書けば次に確かめる場所が決まる。家の方では、何が起きたかを書いても、翌朝また同じところで手が止まった。アルバの傷がよくなれば消えるものなのかを考えたが、何も庇わずに茶を注いだ手を見ていた時のことが、その隣へ残った。
恋、という語は一度だけ書いた。問いの印を添え、その下へ、安心、と書きかけて止まった。安心していることならあった。玄関に外套が掛かり、階段の上から物を置く音が聞こえる時、ニルは帰っているのだと分かった。けれど、帰っていると知ったうえで、階段を下りてくるところを見ようとする理由は別に残った。候補を一つ増やしても、記したことの全部がそこへ収まるわけではなかった。
三日目、研究所から戻る頃には、細かな雨が降っていた。ニルは外套の肩を払ってから戸を持ち上げ、敷居へ引っかけないよう中へ入った。玄関にはアルバの外套があった。掛け釘の下へ水が落ちていないので、帰ってから少し時間が経っているようだった。廊下の向こうから、金具を卓へ置く音がした。「戻りました」と声をかけると、居間から短い返事が来た。
アルバは食卓に広げた布の上で、軍の革帯の留め金を拭いていた。椅子へ深く座らず、手元を近くに置いている。ニルは帳面の入った鞄を下ろし、窓際の紐へ当てない場所に外套を置いた。雨のあとで部屋は暗く、卓の灯りは布の端まで届いていなかった。それでも、アルバが動かした指に留め金の光が移ると、ニルにはその小さな場所がよく見えた。
今日、帰ってきたのは自分の方だった。アルバが部屋にいることは、掛けてある外套を見た時に分かっていたし、傷のために苦しそうにしている様子もない。確かめるべきことを探してから眺めたのではなかった。ニルは椅子の背へ手を置いたまま、布を持つ手から、少し伏せられた顔へ目を移した。濡れていない髪の端が頬のそばにかかっていた。留め金を拭く手は二度、三度と動き、その間もニルは座らなかった。
胸の内側が、茶の棚の前で感じたのと同じように動いた。名前を確かめたいと思って始めたのに、こうして見ていると、記録するための言葉を探すことまで遅くなる。アルバが顔を上げるところを、まだ見ていたかった。布の動きが止まり、向こうの目がこちらへ向いた。ニルは椅子の背に手を置いたまま、目を離せずにいた。
「何だ」




