表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冒険者失格  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/24

第7話 重さのない巨人

 【動力核:1】


 これほど分かりやすい数字はない。


 一から一を引けば、ゼロになる。


 動力核がゼロになれば、目の前の巨人は止まる。


「《減算》!」


 俺は迷わず力を使った。


 視界に赤い文字が走る。


 《実行不能》


 《対象を認識できません》


「見えてるだろ!」


 ゴーレムの拳が落ちてきた。


「拓郎、走って!」


 プラナに突き飛ばされる。


 石の拳が床を砕いた。


 衝撃で体が浮く。俺たちは三方向へ転がった。


 さっきまで立っていた場所に、大きな穴が開いている。


「見えることと、理解することは別です!」


 ゼロナが柱の陰から叫んだ。


「動力核の構造も、役割も、あなたは知りません!」


「動かすものだろ!」


「その程度では足りないんです!」


 ゴーレムが床から腕を引き抜く。


 頭部が回り、赤い光が俺を捉えた。


「説明はあとだ。逃げ道は?」


「入口まで二十二メートル!」


 振り返る。


 石扉は閉じていた。


「いつ閉まった?」


「入った直後です」


「先に言え!」


「聞かれませんでした!」


 ゴーレムが踏み出す。


 一歩で床が揺れた。


 俺は入口へ走る。


 巨人との距離、九メートル。


 速度を上げるため、扉との距離を減らす。


「《減算》!」


 【石扉までの距離:18m → 17m】


 体が前へ引かれた。


 背後で空気が鳴る。


 ゴーレムの腕が横から迫る。


「《加算》!」


 プラナの声。


 【ゴーレムの拳までの距離:1m → 2m】


 拳が一メートル遠ざかる。


 できた隙間へ身を投げた。


 腕が頭上を通過し、壁を砕く。


「助かった!」


「体力を足すより、避けさせた方が早いわ!」


 正しい判断だ。


 攻撃を食らってから一回復させても、潰れた頭は元に戻らない。


 扉へたどり着く。


 押す。引く。動かない。


「開け方は?」


「守護者を停止させれば開く設計です!」


「先に言え!」


「聞かれませんでした!」


「そのやり取り、二回目よ!」


 ゴーレムがこちらへ向き直る。


 逃げられない。


 倒すしかない。


 俺はゴーレムの数字を見る。


 動力核は触れない。


 防御力は999。一減らしても、俺の折れた剣では傷一つつかない。


 重量は64トン。


 これなら理解できる。


「《減算》!」


 【重量:64t → 63t】


 ゴーレムの足元に白い光が走った。


 巨体が一トン軽くなる。


 それでも見た目は変わらない。


「一トン減りました!」


 ゼロナが叫ぶ。


「残り六十三回か!」


「同じ対象には一分待つ必要があります!」


「一時間ここで逃げろと?」


「正確には六十三分です!」


「細かい!」


 ゴーレムが突進する。


 軽くなったせいか、さっきより速い。


「悪化してるじゃない!」


 プラナと左右へ逃げる。


 巨人は止まりきれず、石扉へ肩から激突した。


 塔全体が震える。


 扉には傷一つない。


 ゴーレムも無傷だった。


「軽くすると速くなるのか」


「動力の出力が同じなら、加速は大きくなります!」


「先に言え!」


「今、分かりました!」


 実験しながら戦うには、相手が大きすぎる。


 ゴーレムの拳がプラナを狙う。


「きゃっ!」


 プラナは転んだ。


 距離を足す暇がない。


 俺は折れた剣を投げる。


 剣先からゴーレムの顔まで、七メートル。


 一減らしても届かない。


 だが、狙うのは顔ではない。


 剣と、振り上げた右腕の関節。


 距離は二メートル。


「《減算》!」


 【2m → 1m】


 折れた剣が空間を飛び越え、肘の隙間へ挟まった。


 振り下ろされた腕が途中で止まる。


 剣が砕けた。


 だが一秒、稼いだ。


 プラナが床を転がり、拳を避ける。


「私の剣!」


「俺のだ!」


「次に買う分は共有財産でしょ!」


「まだ買ってない!」


 ゴーレムが腕を引き戻す。


 石の関節が欠けた程度で、動きに問題はない。


 何を減らす。


 重量は正解ではないのか。


 いや、結果が悪かっただけだ。


 速度が上がった。


 つまり能力は効いている。


 どこから重量を減らすかが間違っている。


 全身を均等に軽くすれば、動きが速くなる。


 なら、均等にしなければいい。


「ゼロナ! 部位ごとの重さを見せろ!」


「何をする気です?」


「こいつを、自分の体についていけなくする!」


 ゼロナの瞳が光る。


 ゴーレムの全身へ、細かな数字が浮かんだ。


 【右腕:11t】


 【左腕:11t】


 【右脚:14t】


 【左脚:14t】


 【胴体:11t】


 【頭部:2t】


 合計は六十三トン。


「それぞれ別の対象として認識できます!」


「なら、待ち時間も別だ!」


 ゴーレムが右腕を振り上げる。


 まず、その腕。


「《減算》!」


 【右腕:11t → 10t】


 一トン軽くなった腕が、想定より速く振り下ろされる。


 ゴーレム自身が速度を制御できていない。


 拳は俺たちを越え、床へ深く突き刺さった。


「効いた!」


「次、左脚を!」


 ゼロナが指す。


「《減算》!」


 【左脚:14t → 13t】


 ゴーレムが右腕を引き抜き、踏み出す。


 左右で脚の重さが違う。


 左足だけが早く持ち上がり、歩幅が狂った。


 巨体が傾く。


 それでも倒れない。


 右脚が床を踏みしめ、無理やり姿勢を戻した。


「胴体を減らせば?」


 プラナが叫ぶ。


「中心を軽くしたら、もっと不安定になる!」


「《減算》!」


 【胴体:11t → 10t】


 ゴーレムの上半身が跳ねるように起きた。


 頭だけが遅れて揺れる。


 赤い目が天井を向く。


「今よ!」


 プラナが走り、床に転がっていた石片を拾った。


「何をする?」


「頭を殴る!」


「硬さ999だぞ!」


「頭じゃないわ!」


 石片を、ゴーレムの右足の前へ投げる。


 ただの石だ。


 高さは拳一つ分。


 だが、左右の重さが狂った巨人には十分だった。


 ゴーレムの右足が石を踏む。


 足首が傾く。


 左脚は一トン軽い。戻す動きが早すぎる。


 胴体も軽く、上半身が振られる。


 巨人が初めて、片膝をついた。


「倒れない!」


「まだ右脚が重いから支えているんです!」


 ゼロナの言葉で気づいた。


 重い右脚が錨になっている。


 なら、錨を消す。


「《減算》!」


 【右脚:14t → 13t】


 左右の脚が同じ重さになる。


 均衡が戻る。


 一見、助けたように見える。


 だがゴーレムは、右脚の重さを使って踏ん張っていた。


 一トン分の支えが、突然なくなる。


 巨体が前へ倒れた。


「逃げろ!」


 三人で走る。


 背後から、塔が崩れたような音が響いた。


 床が波打つ。


 俺たちは揃って転び、石の破片を浴びた。


 振り返る。


 ゴーレムはうつ伏せに倒れている。


 動力核は、まだ赤く光っていた。


 両腕を床につき、起き上がろうとする。


「まだ動くぞ!」


「防御力は下がっていません!」


「倒しただけだもの!」


 巨人の右腕が床を押す。


 十トン。


 左腕は十一トン。


 また左右が違う。


 体を持ち上げれば、軽い右側が先に上がる。


 その下に隙間ができる。


 赤い光。


 胸の中央。


 動力核が露出していた。


「核そのものは壊せない!」


「核を壊す必要はない!」


 俺は床に落ちていたゴーレムの破片を拾った。


 拳ほどの石だ。


 全力で投げても、核まで届かない。


 【石片から動力核まで:3m】


 距離を一減らしても二メートル。


 足りない。


「プラナ! 投げる力を足せ!」


「一しか増えないわよ!」


「それでいい!」


 プラナが俺の肩へ触れる。


「《加算》!」


 【投擲力:18 → 19】


 わずかな力が腕へ加わる。


 俺は助走し、石を投げた。


 距離、三メートル。


 二メートル。


「《減算》!」


 【石片から動力核まで:2m → 1m】


 石片が空間を飛び越える。


 赤い核へ直撃した。


 ひびが走る。


 しかし割れない。


「足りない!」


「いいえ!」


 ゼロナの金色の瞳が見開かれる。


「核の耐久値、残り一です!」


 【動力核耐久値:1】


 これは理解できる。


 人形で何度も減らした数字だ。


 動力核そのものは消せない。


 だが、その耐久値なら。


「《減算》!」


 【動力核耐久値:1 → 0】


 赤い光が砕けた。


 ゴーレムの腕が床へ落ちる。


 振動が止まった。


 静かになった広間で、俺たちはしばらく動けなかった。


「勝った?」


 プラナが聞く。


「停止しています」


 ゼロナが答える。


「本当に?」


「停止率百パーセントです」


「やった!」


 プラナが俺へ抱きついた。


 勢いを受け止めきれず、二人で尻もちをつく。


「重い!」


「女の子に向かって何てこと言うの!」


「お前じゃない。荷物が!」


「先にそう言いなさい!」


 ゼロナが倒れたゴーレムへ駆け寄る。


 その表面に浮かんだ古代文字を、夢中で紙へ写していた。


「二人とも、来てください」


「何か見つけたか?」


「この守護者は、敵を倒すために作られたのではありません」


 胸の文字を魔導灯が照らす。


 《増加量、規定値を超過》


 《減算者の到着まで、観測を継続せよ》


「減算者……」


 俺以外にも《-1》を持つ者がいた。


 少なくとも、この塔が建てられた時代には。


 その下には、さらに短い一文が刻まれていた。


 《世界重量、前日比+1》


「世界の重さが増えてる?」


 プラナが眉をひそめる。


 ゼロナは答えなかった。


 金色の瞳で、文字の奥にある数字を見つめている。


 やがて、顔を上げた。


「塔が観測していたのは、ゴーレムの重量ではありません」


「じゃあ、六十四トンは?」


「世界からあふれた重さを、この守護者が引き受けていたんです」


 俺たちが倒したのは、敵ではなかった。


 増え続ける世界を支える、錘だった。


 その瞬間、塔の外から爆発音が響いた。


 続いて、聞き覚えのある怒鳴り声。


「ジン、下がれ! ココラは右へ回れ!」


 バイロンだ。


 俺は閉ざされていた石扉を見る。


 守護者が停止したため、ゆっくりと開き始めていた。


 隙間の向こうで、黒い翼が空を覆う。


 巨大な魔物が炎を吐き、《白銀の牙》を森ごと焼いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ