第92話 KTSっぽさとは?
ブルーとピンクの核を包むような透明度の高い結晶。ご機嫌である。
(フレイア、これ凄くね?ブルーダイヤとピンクダイヤだぞ。しかも、こんな風に透明な結晶に包まれているのってレアだろ)
〈そうですね。かなり珍しいと思います。ブルーダイヤはホウ素が極微量含まれる事で生成されます。中心核部分の生成時にホウ素が含まれていたのでしょう〉
ふむふむ。フレイアさん物知りで助かる。
〈ピンクダイヤの方はもっとレアですね。ピンクに見えるのは結晶格子の塑性変形が理由です。高圧力下で奇跡的なバランスで変形しないとそうはなりません。その後、無色の結晶に包まれるとか、まったく生成過程がわかりませんね〉
俺はフレイアの説明がわからんよ。塑性変形とはなんぞ?
まあ、生成過程はさっぱりだが、レア度は理解できた。これで、銀渓探査の爺さんたちと戦える。
いざ、勝負だ。平伏するがよい!
そんな風に思っていた。コテンパンにしてやろうと思った。
しかし、そうはならなかった。銀渓探査に戻り、少しすると爺さんたちは帰ってきた。仲良くなる前に、自慢げにデカいクワガタを見せるなんて小学生バトルの仁義に反する。なので挨拶を済ませ、軽く世間話などをしてそれからだと考えた。
ほうほう。皆さん、ダイヤに興味があるんですか。いや、僕はそんな石ころに興味はありませんよ。あ、でもそう言えば僕も珍しい石を偶然拾いましてねぇ。
そんな風に自慢しようと思っていた。
しかし、邪魔する奴が現れたのだ。なんと、俺が誇りに思ってやまない大切な同期女子どもだ。あのロマンの欠片も理解しない阿呆な二人。いや仕事終わりに銀渓探査に立ち寄ったミディアルも含め三人の馬鹿女どもは、楽しげに戦利品の品評会を開催している爺さん達に言った。
「ガラハさんたちサイテー。仕事を放り出して、そんな石に夢中になって恥ずかしくないんですか?」
「カナン様に顔向けできるんですかね。都市を長い間守ってきた経験豊富な探査員のやる事とは思えません」
効果は覿面だった。孫より若い女子どもの言葉に、ショックを受けたのか爺さんたちは小さくなって石を片付け始めたのだ。
ちょっと待ってくれ!俺は腰袋に二つのダイヤを準備していた。最強デッキで爺いどもを一蹴するのを夢見ていたのに。
しかし、夢は儚くも砕け散ってしまった。小娘どもからみっともないと指摘されたのが相当応えたのか、その後、爺さんたちはダイヤのダの字も口にすることはなかった。
なんてこった……。
「本当にマサトさんが、ウチに巡察任務でいらしてくれて助かったわぁ。優秀な方が同期にいると、あの子たちから聞いていたけど本当に素晴らしい活躍でした。未記載ダンジョンの件は当然だけど、なによりあの馬鹿な爺いたちを更生させてくれた手腕は見事の一言です」
別れ際、銀渓探査の社長はニッコニコだった。
「いや、私は何もしていませんよ。元々、旦那さんたちは優秀な探査員です。新たなダンジョン発見で、遊んでいる場合ではないと気持ちを切り替えられたのでしょう」
謙遜しておいた。しかし、社長の称賛は止まらない。
「まぁ、偉業をなしても誇ることもしないのね。お若いのに本当に人格者でいらっしゃる。ウチの孫娘が結婚していなかったら、ぜひ貰って欲しかったくらいですよ」
孫娘はいらんので、旦那を元に戻して欲しい。僕の作り上げた最強デッキを試したかった。
「いや、街の探査会社の問題を解決するのが、僕ら〜僕たち〜」
(フレイア!フレイア!なんだっけ!?)
〈都市外探査会社現況巡察任務〉
「僕たち、都市外探査会社現況巡察の任務ですから!」
決まったな。しかし、本当に自分が優秀すぎて困る。意図せず、街の抱える問題を解決してしまうとは。天才かな?
〈過程を全て忘れて、結果だけ見る才能は素晴らしいと、わたしも思います〉
フレイアがうるさい。
あと、同期女子たち三人が白い目で見てくるが、お前ら失礼だぞ。未記載ダンジョン発見報告を押し付けたからと言ってそんな目で見るな。俺は忙しいんだよ。ありえない魔獣が出没する理由もそれだ。ならダンジョン発見報告も、お前ら銀渓探査の役目だろ。
ダイヤモンドバトルは出来なかったけど、概ね良い仕事が出来たと思う。ご機嫌な社長と握手を交わし、再会の約束をして銀渓の街を後にした。
銀渓から紫嶺へ大街道を北上中。前回の失敗を踏まえ、今回は紫嶺で一泊する予定。それだって350kmはある。
〈白峰周辺、少なくとも灰牙犬と鋼糸蜘蛛が多く見られる地域に、別な入口が発見されるはずです。D案件調査を蒼穹探査とARC組合が共同で受注しました。程なく判明するかと〉
「ふーん。何人くらいのチームが作られる予定なの?」
〈発注書には探将探査員3名、探佐探査員6名。他は受注企業に任せるとありますね。これまでのケースから30名前後になると思います〉
俺らが見つけたダンジョンの調査案件の話をしていた。
30名か〜。大仕事だな。うちは取りに行かなかったのかな……
〈KTSさんって、ダンジョン案件はあまり積極的に取りに来ないイメージがありますね。アルカディアに限らず、全土でその傾向が見られます〉
馬鹿ばっかだからだな……細かい事は苦手、とりあえず剣と魔法でぶち壊せ、みたいな事をやりそう。本当にうちの会社は……困ったものである。
〈マサトさんってKTSが良く似合う方ですよね〉
「どういう意味かな。フレイア監査官」
〈さあ、わたし何か言いましたっけ?〉
クスクスと笑いながら、軽く人をディスってくる。銀渓を出発して以来、なぜかフレイアは機嫌が良い。
〈そんなことはありません。普通です。それよりタートルライダー・ウラシマンの公開はまだですか?〉
まだ言ってる……。
街道は平和そのもの、空が高くて美しい。女心と秋の空ってなんだっけ。移ろいやすいって意味だったかな。ウラシマンは早く忘れろ。
〈楽しみにしていますねっ〉
都合の悪いことは聞き流すのな。
紫嶺まであと少し。そろそろ丸い街が見えてくる頃か。紫嶺で思い出した!
「フレイア、紅嶺から紫嶺に移動するときの黒牙狼が大量に出た件、どうなってる?」
少し間をおいて答えが返ってきた。
〈これもD案件調査が出されています。受注はKTSさんですね。紫嶺を拠点に動いてらっしゃるようですよ。どなたが調査されているかは不明です〉
マジか。ということは先輩がいるって事かー。誰がやっているんだろう。それほど時間が経っているわけではなかったが、先輩方に会うのは楽しみだ。
少しだけアクセルを開け、紫嶺へ向かった。
余裕を持って紫嶺に到着。その足で紫嶺役場を訪れたら、思いがけない人に遭遇した。
「エイナルさんっ?なにしてんですかっ!?」
「おおーマサト。なんか久しぶりに感じるな〜」
KTSの先輩がいるとは聞いていたが、まさかのエイナル課長が居た。
「まぁ、とりあえず拠点に行こう。マサトもそこに泊まりなよ。つもる話というほどではないけど、近況報告して。概要は監査庁から聞いてるけど」
エイナルさんの後を付いて行くと、そこには屋敷と呼べるような大き目の一軒家があった。そう言えば、クロさんたちと翠風に行った時もこんな大きな家に滞在していた。
「調査チーム何人なんですか?」
「六人だね。ラグナたちがメインで、僕とミルナス、エリニナがサポートで参加してる」
ラグナたち?ラグナ課長は良い。日本での会社員生活も含めても、一番尊敬する上司だ。しかし、達の方が頂けない。まさか、ラナさんとルナさんも居るのかぁ……
大きな扉の玄関を潜る。吹き抜けのエントランスにはソファーが配置されていて、そこには問題の二人の姿があった。
「マサト見つけたから連れてきたよ」
エイナルさんの言葉に二人が反応する。
「あー!マサトくんだー!聞いたよ〜未記載ダンジョン見つけたって。すごいじゃない。もう潜った?何階層くらいありそうなの。ラナさんも潜りたい」
「発見したてのダンジョンとか盛り上がりますよねー。どんな感じですか?明日で今の案件が片付くから、ちょっと一緒に行きましょう。案内して下さい」
うん。なんか、色々ダメなのが理解できた。あと悲しいかな、俺はこの人たちの後輩なのだということも分かった。
〈わたしの心情を理解して貰えたようですね。ありがとうございます〉
「二人とも何言ってるの?ダメに決まってるよね。概要調査が終わるまでは、勝手に入らないのがお約束だね」
「えぇー調査チームなんてまだ人員選別してるんだよ。遅すぎる」
「そうですそうです。早い者勝ちです。何が出るのかも分からないとかドキドキですよね」
(俺ってこんな感じなの?流石にもう少し分別あると思うんだけど……)
あまりの酷さにちょっと引く。
〈マサトさんの先輩って感じですね。知ってますか?KTS探査三課って、最もKTSらしい人間が集められていると言われてるのを〉
そうなんだ……社外でもそんなこと言われているのか。あまり知りたくない情報だ。
しばらくすると、ラグナ課長たちが帰ってきた。
「マサトっ!お手柄だな。部長の機嫌が良すぎて、社内が微妙な空気になっているくらいだ」
ラグナさん、本当に会社に居ないと良く喋るよな〜。この人、街の探査会社にいた方が良い気がする。尻尾をパタパタさせながら、ダンジョン発見を喜んでくれていた。
今はD案件調査チームと食事中である。飯はエリニナさんの手作り。ラナさんとルナさんは、横から口だけ出していた。
「でも、調査終わるまでは本当に未記載ダンジョンなのかわからないんですよね?」
空間連続性が実証できない。もしかすると、既存ダンジョンの新しい出入口が銀渓で発見されただけかもしれない。
「いや、それは多分ない。既存のものならD案件調査とか発せられないからな。カナン様も知らないダンジョンってことは未記載ダンジョンってことよ」
ミルナスさんも、高揚しているのか、それともアルコールが回っているのか興奮気味だった。
「そうですか、でもなんで部長が喜んでいるんですか?」
機嫌良すぎて社内の空気が悪いって、どんだけご機嫌なのだろう。
「そりゃ、そうだよ。発見した探査員が所属していた会社には、今後そのダンジョンから発掘される物から収入が得られるんだよ?支社的に笑いが止まらない話だよ」
へぇー。そんなルールあるのか。未記載ダンジョン発見って凄いんだなぁ。
「マサトくんもボーナス出るよ〜。毎月のお給料もかなり上がるはずだよ。良いよねー。ラナさんに毎日ご飯奢ろうね!」
何言ってるんだろうこの人。
「それにしても、どうやって発見したんだ?そこいらへんを詳しく話してくれよ」
発見の経緯に関しては触れないで欲しい。
「そう言えば、発見者はティリエナとカレナで報告してくれって頼んできました。ボーナスないかもですね」
面倒臭かったから、押し付けて来たんだった。
「そんなことにならんぞ。報告書の作成時に発見の経緯が書かれるから、お前の名前が必ず入る」
ラグナさん、にっこにこだな。
にしても、そうなると報告書を丸投げはダメだったか。埋め合わせしないと流石に悪いな。
「あ、タクナの奴はどうしてますか?何か連絡入ったりしてるんでしょうか」
紫嶺での先輩方との夜は賑やかで、楽しい時間になっていた。




