第91話 ゴミ屑男子
未記載ダンジョンの発見。それは都市管区を調査するのが目的である探査員にとっては、ひとつのステータスとなる。
既知のダンジョンは、ほぼ全てが都市外で活動中の探査員によって偶然発見されたものである。がしかし、割と珍しい代物である。アルカディア管区には約5箇所程度、確認されている。
約5箇所とはなんぞ?
という話なのだが、どこにあるのか今ひとつわかっていない。そもそも、このダンジョンはハルモニアの魔法科学を持ってしても正体不明。
わかっているのは、空間連続性が実証できない。内部の連続性は確認できるがそれだけ。
みたいな?
ぶっちゃけ難しすぎて俺にはよく理解できない代物である。
「マサトさん……すごいもの見つけたね」
「私、ダンジョン初めてみました。育成校の実習出てないんです」
なるほど、なるほど。このエリートたちも馴染みがあまりないのか。どうやら凄いものらしい。その証拠にフレイアは関係各所への報告に追われて、ちっとも戻ってこない。
感応が開いているのか、閉じているのかすら不明だ。すなわち、今の俺は放し飼い状態。何をやっても怒られないのだ。
そして、この新発見ダンジョンの入り口から少し先、差し込んだ陽光を浴びてキラキラと蒼く輝く結晶が見える。
やれやれ、仕方ないな。掘り出しに行くとしよう。首を振ってダンジョンに入ろうとしたところで、同期の女子二人に捕まった。
「マサトさん、何しようとしてんの!?」
「だ、駄目ですよ!未記載ダンジョンに許可なく入るとか禁忌に抵触する可能性があります!」
大袈裟だなぁ〜。そもそも何処からがダンジョンで、どこから外界なのかそれすら定まっていない。つまり、あのブルーに輝くどデカいダイヤを掘り出しにいくのに不都合などない。
「大丈夫大丈夫。問題ないよ」
そう言って、再びダンジョン内へと進もうとした。
「問題しかないです!」
「大丈夫ってなんですか!せめてフレイア監査官が戻るまで待って下さいっ」
お前らは阿呆なのか?フレイアが居たら止められるに決まってるだろ。つまり今しかない。
「二人ともよく聞くんだ。幸運の女神には前髪しかないって言うだろ?」
あばよっ!戦闘服の裾を掴んだ二人を軽く振り払い、一瞬でダンジョン内へ侵入した。
「あーーーーっ!入ったぁー!」
「あぁ、なんてことを……カナン様お赦し下さい。お赦し下さいっ」
大袈裟だなぁ二人とも。入り口からこちらを覗き込み驚くティリエナ、愕然としているカレナ。心配するな、少なくとも俺はアミカ教徒ではない。
よし、ではこの巨大ブルーダイヤを掘り出すとしよう。白炎を岩の隙間に差し込む。一気にドカンと大きく切り出そう。
ガコンッ!
岩から結晶を外したが、なんか手応えがいまいち……あれぇ〜?なんか想定と違う感触だ。切り出した石の切り出し部を見ると単なる石。
思ったより小さい?白炎は長くて使い辛いので、月白を抜く。サクサクと石を削り落としていくと、どんどん小さくなっていく。
え、小さくね?あらかた削り取ると、結晶は母岩からポロッと分離した。
とても綺麗な正八面体だけど、ちっちゃ!なんだよ〜随分と小さいな。ビー玉よりは大きいけど、500円玉よりはだいぶ小さい。
あんなに強く蒼く輝いていたのになぁ〜。そう思い小さな結晶を眺めて驚いた。
なにこれ。すげぇ透明度高いんだけど……。そして、中央部が蒼く輝いている。
いや、濃い蒼を囲むように透明な。たしかフローレスと言うんだったか、高品質なクラリティのダイヤモンドをそんな風に呼ぶはず。
無色透明な石が透き通る蒼い中心核を包んでいた。
こんなの存在するんだ……ただ美しい。ビー玉よりちょっと大きい正八面体結晶を眺めていた。
〈貴方は何をしているんですか?〉
悲鳴を上げなかったことを誇りに思う。フレイアの声は怨嗟に満ちたとても恐ろしい声音だったからだ。
とにかく、ダンジョンから出ろとうるさいフレイアに追い立てられるように外に出た。
〈貴方は本当に何をしているんですか。未記載ダンジョンに許可なく入るなんて、聞いたことありません〉
「あー、それはもう聞いた。ティリエナが言ってた気がする。カレナだったかな?」
二人を見るが、青ざめて俯いている。まるで恐ろしい上司に、大失態を見られた新入社員のようだ。
〈貴方はあれはダメこれはダメと、いちいち言われないと、やって良いことの区別がつかないんですか?〉
「いや、ダメ言われてもなぁ〜。それにダンジョンに入ったのは探査員マサトじゃないよ?少年のようなピュアな心を持ったしがない宝石ハンターさっ」
「あ、あのマサトさん。ちょっと、大人しくした方が……」
奔放な性格のはずのティリエナが青くなっている。大丈夫だ。フレイアの扱い方は心得ている。俺に任せろ。
〈心得ているわけないでしょう。わたしをなんだと思っているんですか?会社に報告しますからね〉
「会社に報告?大丈夫だと思うよ。うちって色々やらかし過ぎて感覚が馬鹿になってるみたいだし。やらかし日記の頁が増えた程度だと思うなぁ〜」
〈ならば直接上に報告します。そもそもわたしは監査官です〉
監査庁かぁ。この間、サルディと二人で会ったテルク支局長とカトエラさんの顔が浮かぶ。
「大丈夫じゃね?二人とも優しそうな人だったし、もし仮に怒られるとしても俺ではなく、立場的にフレイアの叔父さん……」
〈…………。カナン様に言い付けます〉
「あぁん?カナンだと!?上等だよフレイア!報告してもらおうじゃねーか。カナンには一つ二つ言ってやりたい事もある。いい機会だやってみろよっ」
「ま、マサトさん。本当にもうやめて!なんで斎女様を煽っちゃうのよ。フレイアさんに謝って、いますぐよ。らいとふぁきっんなうっ!」
「フレイア監査官、落ち着いて下さい。偏向感応をそんな風に使う斎女様なんて聞いたことありません。どうかうちの大馬鹿な探査員に惑わされないで!」
味方がいねぇ……あとティリエナは汚い言葉を使うな。斎女監査官さまの御前にあらせられるぞ。
〈もう言いつけてしまいました。たくさん怒られると良いです〉
俺たちの素行不良を、鬼怖い生活指導教諭に言いつけた委員長を思い出した。
「もう言いつけちゃったってさ」
ティリエナは天を仰ぎ、カレナは崩れ落ちた。
「大丈夫だカレナ。カナンとは一度話をつけなければならないと思っていたんだ。良い機会、いやむしろ遅すぎたまである」
「大丈夫って何が!?どこらへんが大丈夫なんですか!?」
再起動したカレナが俺の胸ぐらを掴みガクガクしてきた。神官って大変なんだなぁ。揺さぶられながら、神職者の苦悩を考えていた。
〈マサトさん、拾った石を見せて下さい〉
なんだ?突然。
カナンにチクりに行ったはずだが、どうしたのだろうか。そう思いつつ、手にしていたお宝を眺めてやる。
〈はい。……はい。お言葉の通りだと思います……〉
フレイアの思考が伝わってくるが、俺へのものではない。手にしたレアカラーのダイヤを眺めながら彼女の声を聴いた。
〈カナン様がわたしも良く見ておくように仰いました〉
なんだと!?
「すると、カナンのお咎めはなしという事だな?」
こちらを窺っていた二人が色めき立つ。
〈あまりヤンチャさせないようにと言われました〉
「なんだよ、それ。お前は俺のお母さんか。実に不愉快な言い草だ」
〈わたしの方が不本意です!なんで、わたしがちょっと悪いみたいになっているんですかっ〉
知らんがな……それにしても、カナンがこの石を見たがるとはな。
「フレイア、カナンこれに関してなんか言ってたの?」
〈とても美しい石だと〉
「マジか!カナンの奴、思ったより話がわかるじゃないか。男のロマンを理解できるとはなかなかどうして」
〈カナン様です!なんで呼び捨てにするのですか〉
フレイアの奴、何故か疲れ切っているようだ。ふむ、可哀想に……。綺麗な石を見てもらって和んでもらおう。
腰袋からピンクの原石も追加して眺めてやる。
「どうだ?フレイア、二つとも綺麗だろ?虎穴に入らずんば虎子を得ずだ。まったく苦労したぜ」
〈ゴミ屑みたいな男子です〉
「ふざけんなっ!フレイアっ、お前いまなんて」
台詞は最後まで言えなかった。ティリエナが用意していた雷撃を俺に落とし、カレナは振りかぶった錫杖を思い切り頭に振り落としたからだ。
なるほど、KTSの探査員は頭おかしい。なんてことをしやがる。




