第79話 フロラとリーヴァー
「で、なんでこんな事になったか説明しろ」
「はっ!フロラ二等操縦士が自分の能力に疑念を呈したので、それを払拭するために行いました!」
目の前には問題児が3人。いや、2人と1匹が立っている。
「それで?」
「はっ、魔素駆動機を起動し、制御器を起こすと同時に推力偏向制御に魔素を」
「違う!誰がお前のヘマの詳細を解説しろと言った!そんなものはフロラの始末書を見てわかっている。バカさ加減に二度と見たくない。やらかした本人に口頭で説明させるなど考えておらん!」
「えぇ〜。じゃあ何のために、なにが悪かったのか検証を頑張ったんですか。無駄になるじゃないですか言い訳、いや説明させて下さいよ」
頭が痛い。正直もう帰って寝たい。ヘリは予備部品が確保されているから、そろそろ直っているだろう。問題は新たな部品購入申請だ。
「今回のやらかしで、どれだけの金が使われるか知っているか?」
「タクナ探査員が試算済みです!2000万円は超えないとの事です」
タクナの顔を見る。なに得意気な顔してるんだお前は。だからバツ印が治らないんだぞ。
「2000万円も掛かるだ。軽く言うんじゃない」
「はっ!反省しておりますっ!」
「お前ら2人は3ヶ月の減給だ、いいな」
「えぇー良くありません!業務中の些細なミスじゃないですかー。怪我人もいません。支社でなんとかして下さいよー」
「自分は現場に居合わせただけです。納得いきません!」
怒鳴りつけそうになったが耐えた。自分はKTSアルカディア支社の探査部長だ。冷静でなければいかん。代わりに言ってやる。
「俺は4ヶ月の減給だ。しかも減給率は同じだ。わかるな?」
「じゃあ、良いです」
もう我慢できなかった。じゃあってなんだよ。
ひとしきり2人を罵倒して小突き回してやった。なんでこんな奴らを雇ってしまったのだろうか。
「整備部と六課には謝ったのか?」
「当然であります!整備部には携帯糧食の詰め合わせを3箱。ラド課長には、コーヒー缶も2ケース付けました」
なんでいつも携帯糧食なんだよ。お前ら二人だけだよ。あれ喜んで食うのは。
「そうか……それと職員でない者を社内に連れて来るな。いつも言ってるだろ?」
「はっ!失礼しました」
そういって目の前の馬鹿が肩に手をやる。小さな蜘蛛を掴むと、馬鹿2号にそれを渡す。2号はそのまま窓を開けて蜘蛛を放り投げた。
「あーーひどいー」
シマが叫んで消えて行った。なんで着いてくるんだよアイツは。お前は呼び出してない。
……開発部で跳ね回ってるのも見たぞ。どうやって入ったんだ。
アルダ部長のお説教から解放されグラウンドに出てきた。シマを回収するためだ。どこいらへんに落ちているかな。
「マサトさん!こっちに来なさい!話がありますっ」
シマを探していると格納庫から声がした。
「マサト、フロラがカンカンだ。行ってこいよ」
知ってる。目が合うと怖いから見てないけど。
「タクナさんもです!なに他人事みたいな顔してるんですか。一緒に来なさいっ」
タクナを見るとすごく嫌そうな顔をしている。なるほど、なら行くか。
「タクナ、そんな顔をするな。行くぞ。一緒に怒られてやるから」
「ふざけんなっ!おまえが、やれるつーから俺はな」
騒ぐタクナを引き摺り格納庫へ向かった。
「わたし課長にめっちゃ怒られたんですからね!セレナさんが助けてくれなかったら、きっとまだ怒られてる最中です!」
両手を腰にあて俺らを見下ろしているフロラ。二人で正座させられている。まあ言ってもフロラなので、見下ろされている感が少ないが。
不貞腐れるタクナの態度に腹を立てたのか、フロラが右足を床に振り下ろす。
ターンッ!
靴底が床を叩く良い音がする。
「タクナさん、聞いてるんですか?なんですかその態度は!」
「えぇ〜。俺かよー。どう考えてもマサトが」
いいぞタクナ、その調子だ。後は俺に任せろ。
「待てタクナ。いずれにせよ、俺らが悪いのは確かだ。フロラは被害者とも言える」
「俺らつーより、おまえとフロラだろ。フロラが首謀者っても良いくらいだぞ」
ターンッ!
フロラがまた右足で床を叩く。様になっているなぁ〜。
あれをやられた一課の新人が震え上がっているのを見たことある。同期な俺らもちょっとビビる。
「いや、フロラ。聞いてくれ。フロラはラド課長からのお叱言で済んだようだが、俺らは違う。アルダ部長に呼び出された。めっちゃ怒ってた」
「そりゃそうでしょ。整備部も呆れ果てていました」
大丈夫だ。整備部とは強いコネクションがある。ヴァイスさんが部長に就任している。ラチェットくらい投げつけられるかもしれんが、後を引かないのが整備部の方々だ。
「アルダ部長は厳かに俺らに言った。減給3ヶ月だと。しかも、アルダ部長は責任を感じて自らは4ヶ月の減給を申し出たと仰っていた」
「え、ほんとに?部長までそんなことになっているの。大事じゃない」
多少脚色はしているが、大筋では本当の話だ。
「うん。部長も今回の事故に心を痛めているご様子だった。あとフロラの報告書がわかりやすかったのか、俺らは説明をしなくて済んだ。もしかすると報告書が気に入ったのかもだ」
「え?そうかな?あと報告書じゃなくて始末書だよ」
勝ったな。あとは適当に煙にまいて離脱を図るだけだ。
「始末書だって?あれは物語。いやもはや文学だ、アルダ部長は」
バンッ!
スイッチが落ちて、格納庫の照明が消えた。同時に赤色灯が入る。
【救援派遣要請。蒼汐にて発生中のclass5魔獣災害にて乙種の一種が複数発生と連絡が入りました。class6へと規模が拡大。8等級以上の探査員は出動準備をして格納庫へ向かって下さい。なお、現場は蒼穹探査が初動対応中、余計なトラブルは厳禁と部長からです】
右手を耳の後ろに。
「フレイア、聞いているな」
〈もちろんです。酷い態度に呆れていました〉
大きなお世話だ。それに聞いていたか確認したのはフロラを煙に巻く方じゃない。
〈そちらは聞くまでもありません。わたしは監査官です〉
「タクナ、フロラはどこ行った?」
立ち上がり、装備を確認しているタクナ。
「リーヴァーだろ。フロラが出る気満々だった。蒼汐でしかも救援派遣だ。ラド課長が押し切られるだろうな」
フロラとリーヴァーか。クソみたいな組み合わせだ。実に盛り上がる。
「よし!行くぞタクナ。先行部隊はKTSの華ってな」
格納庫からグラウンドへ進むKTS-97リーヴァー。凶悪な紫の制御リングを震わせている。現場へ向かう探査員を飲み込むかのようにハッチを開口していた。
「蒼汐って何が出るんだっけ?」
リーヴァーの魔素駆動機音に負けないようデカい声でタクナに話しかける。答えようとするタクナを割って入る声がした。
「また、お前らか。8等級以上だぞ、いつの間に昇格したんだ?」
ミルナスさんがクレイモアを背中に装着しながら話しかけてきた。
「先月です!ガレルさんが承認してくれました!」
タクナが怒鳴るように答える。
「俺は4等級ですけど、タクナが昇格したんで良いですよね。俺は連れていくと便利ですよ!」
腕に付いた大きなELC徽章を見せる。
少し思案したようだが、ミルナスさんは開口したハッチへ手を振る。オッケーみたいだ。
キャビンへ入ると少し音が小さくなる。何回乗ってもこの感覚は不思議すぎて慣れない。異世界魔法科学ってどうなっているんだろう。
「とりあえず前衛は良いとして、魔術士と僧侶は誰が来るかな?」
タクナに問いかけるとミルナスさんが答えた。
「ラナとルナだろうな。さっき、休憩室でラグナさん相手にカードで金を巻き上げているのを見た」
あの二人は……今度天誅を下さねばならない。
「じゃあもう一人の前衛はラグナ課長ですかね?」
タクナが問うと答えが搭乗してきた。
「残念、俺だね。ラグナは後発組に入ってもらった」
「え?エイナルさんが出るんですか?先行するの珍しくないですか」
「蒼汐は飛竜種が出る。群れなきゃ何もできない雑魚だけど、数が出るとヤバい。俺の出番だろ?」
確かにそうかも。俺も弓は練習しているが、エイナルさんは当然として、他の二課の人にも及ばない。
なるほどな。そう思っていたら、ミルナスさんが声を上げる。
「げ、フロラじゃん。なにしてるんですか?」
操縦席に座るフロラに気がついたらしい。
「なにって蒼汐ですよ?私とリーヴァーが出ないでどうするんですか。誰よりも早く現場に皆さんを送り届ける。最適なのが私です」
まあ合ってる。蒼汐は遠いからね。しかし、ミルナスさんは諦めない。
「あ、相方は誰が来るの?」
「たぶん、セレナさんが来ると思います。というか、なんですかミルナスさん。私じゃ不満なんですか?」
そりゃそうだ。ワイバーンの群れに突っ込んでいって、空中で何体か倒せますよね?と、探査員をワイバーン目掛け落としていく操縦士だ。しかも、大して減速してくれない。
「ふ、不満なんかないよ。フロラさんで良かったなって思っている」
ミルナスさん……負けてどうするんですか、あなたは12等級のベテランです。相手は俺らと同期の若手ですよ?
エイナルさんは苦笑いだ。タクナは死んだ魚の目をして空中を見ている。降下が何より嫌いなタクナだが、最近はフロラに叱り飛ばされる方が恐ろしくなったとこぼしていた。
右手右足が義足になってなお、操縦徽章を取り戻した女傑だ。逆らえる探査員などいない。
「ごめん。遅くなった」
言葉と共にセレナさんが操縦席につく。同時にラナさんとルナさんも飛び込んできた。
ハッチが閉められる。三人が準備を終える前に発進動作に持っていくフロラ。まったく勝てる気がしない。俺もきっと苦笑いしているだろう。
〈マサトさん、規定では搭乗員の発進準備が整うまで〉
「気にすんなフレイア。なにより優先されるのは速度と戦力だ。ウチはそれしかない」
〈…………。〉
声に出してフレイアと話しているのをみんなが見たが、気にする様子はない。ウチの担当監査官が現場に同行するのを嫌がるわけだ。
だが、フレイアに拒否権はない。付き合ってもらうぞ。
リーヴァーの二重反転ローターが金属を切り裂くような音を立て本気を見せる。
行くぞ。お仕事の時間だ。




