第78話 出向中の同期たち
〈お疲れさまでした。明日も定刻に開く予定で問題ないですね。早まる可能性があるなら、仰って下さい〉
翠風に到着後、借りていた家に着くとフレイアに言われた。
「明日は帰るだけだから、別に必要ないよ。お休みしたらどう?このところ、ずっと働いてるだろ」
〈契約探査員が都市外にいる間は偏向感応は開いておくべきとマニュアルには記載されております。何が起こるのかわからないのが都市外で、ましてや街は魔獣災害も起こりえます〉
〈何度この話をしましたか?〉
中学生のクラスメイトを思い出した。飾り気のないひっつめ髪にメガネの委員長だ。口うるさく俺らの生活態度を非難していた。可愛いの欠片もない。フレイアも同じタイプだな。
「おっけー監査官。明日は定刻通り9:00から行動を開始する。それに合わせてくれ。今日も一日おつかれさん」
〈…………。では、感応を閉じます。お疲れさまでした〉
クソがつく真面目監査官だな。まあ真面目でない監査官なんて居ないかもしれんけど。ハイナスさんは、割とゆるい人だった気もするが、どうなんだろう。
「フレイア監査官なんだって?なにか問題でもあったか?」
俺の言葉になにかを感じ取ったのか、タクナに聞かれた。
「いや、いつものお小言だ。とくに問題ないよ」
それに今思えば、中学の頃の委員長。可愛らしい行動だったと思える。地味な子だったけど、彼女は幸せにやっているだろうか。
「んじゃ、明日は翠風探査に顔出して、役場に挨拶して帰るだけだな」
「ああ、そうだな。飲みに行くか?」
翠風探査のシオシオ社長から良いお店を教わった。美味いつまみと酒、そして飯が楽しめる。良い飲み屋だった。
「いや、俺は今日はパスだ。風呂入ったらそのまま寝るわ。帰ってミカを口説きにいかんと」
口説く?あれがか?まあ、いいか。いつか、ちゃんと話をせんといけない気はするが。
「おっけ。んじゃ、今夜は別行動な。明日、8:00行動開始な」
「りょーかい。お疲れさん」
バスルームへ向かうタクナを見送り、俺も別にあるシャワールームへ。今夜はひとりで静かにやろう。
翌朝、翠風から帰る前に翠風探査に顔を出した。タクナは役場に挨拶に行っている。
「マサトさん、おかえりなさい。顔を出すということは、もう終わりですか?」
「ああ、十分だってさ。社長さんは?調査結果の報告をしに来たんだけど」
「社長は今日立ち寄りしてから出勤予定。もうすぐ来ると思うわ。お茶淹れるからこっち来て」
豹頭の女子が答えてくれた。
「あ、レイラ。僕にも淹れてよ。KTSの探査員様がウチの仕事を手伝ってくれたんだ。接待して気分良く帰ってもらわないと」
軽口を叩くサイルに、少し嫌な顔をするがレイラは大人しく二人分を用意してくれるらしい。
翠風探査の応接コーナーに座っている。サイルとレイラを前にしているのだが、二人ともなんかかしこまっていて変。
「リエラとフィリアは?あとカインも」
「三人とも先輩方に連れられて北の街道整備に行った。風烈兎が増えているみたい」
初めて翠風に来た時を思い出す。良いように風烈を浴びて血塗れにされた。
「あいつら、嫌だよなー。すばしこくて、じゃんじゃん風烈飛ばしてくるじゃん。嫌な思い出あるわ〜」
「うん。リエラは魔法当たらないって愚痴っていたし、フィリアはみんな傷だらけになるから後が大変って言ってた。躱すより、もらって切り伏せた方が早いって思っちゃうんだよね」
サイルの言葉に笑いそうになった。
「いや、ちゃんと躱してから仕留める癖つけろよ。俺も最初、そうやって怒られたよ」
反省会でクロさんに呆れながら言われたのを思い出し、サイルに伝えておく。
「レイラはちゃんとやってそうだな。どう、都市外の探査会社はもう慣れた?」
白い目でサイルを見るレイラ。そこいらへんしっかり者だ。サイルはどちらかと言うと俺ら寄り。
「う〜ん。まだまだかも。初めて翠風探査で働かせてもらっているけど、KTSで甘やかされていたんだなって痛感してるところかな」
「なにそれ?北のパトロール頑張ってたと思うよ」
レイラがシャーしないのが意外。あれが可愛いのに。
「こないだ、魔獣災害あったの。Class1だけど。なんか慌ててしまって、街防隊の人に落ち着いて、大丈夫だからって励まされちゃった……」
サイルを見ると苦笑いを浮かべていた。サイルもかよ。
「マサトくんとタクナくんは、こんな厳しい環境で育ったのかって。格の違いを思い知らされてる」
なんかしょんぼりしているレイラ。これはいかん。探査員は気の強さが生死を分けるんだ。
「何言ってんだよ。レイラはすぐシャーするのが売りだぞ。しょげてる場合じゃないぞ」
「なによっ、そのシャーって!私そんなことしたことないわよっ」
ほら、シャーする。めっちゃ可愛い。
「それだよ、レイラ。マサトさんが言うシャーは」
サイルが笑いながらレイラに言う。
少しだけど同期っぽくなってきたかな。いつか言ったダリルの言葉を思い出した。
「それはそうと、カインはどうだ?」
都市外街が6つ消滅した古竜の襲撃。ハルモニア全土を震撼させた大災害に見舞われた都市はカインの故郷だ。
「カインは大丈夫だよ。ただ彼女、いや奥さんか。奥さんがまだ本調子じゃないかも」
カインの彼女はあの災害で父親を亡くしている。あの時のカインの行動力は凄かった。すぐに休暇申請をすると、彼女を連れて故郷に帰った。そして傷を負った彼女の母親を見つけ出して、アルカディアに連れて帰った。そして彼女と結婚した。育成校卒業したばかりの若者とは思えない行動力だ。
「奥さんも大丈夫だと思う。翠風に来る前に、しばらく会えないからって、一緒にカルチャースクールに行ったの。絵を描いてきたけど、前から好きだったんだって。これからアルカディアの風景を描きたいって」
レイラが言う。
カインは結婚後すぐに、同期の女子たちに頭を下げて言ったらしい。嫁と友達になって欲しいと。
正直、惚れそうになったね。男前すぎだろ。
そんなわけで、レイラたち、俺の同期女子はカインの奥さんとお友達になっている。
「そっかー。カインに会いたかったな。あとフィリア」
フィリアは同期女子で一番の美人である。エルフの持つ神秘的な雰囲気と僧侶が持つ神聖な空気。優しげで儚げ。属性てんこ盛りで男子として放っておけないのだ。
「みんな、フィリアのこと好きよね〜。まあ私も男だったらそうなるだろうから、気持ちはわかるけど」
「でも、フィリアって探査員の彼氏なんか絶対に嫌って言ってるんだろ?特にKTSはお断りだって」
なんだと!?そんな話初めて聞いたぞ。詳しく聞かせてもらおう。そう思ったタイミングでタクナがやってきた。翠風探査の社長を伴って。
「おはようございます!」
サイルとレイラが立ち上がり、社長に挨拶をする。遅れて俺も立ち上がり挨拶をする。
「おはようございます社長。引き受けたD案件の報告に伺ったんですが、もう済んでいるようですね」
「うん。役場でタクナくんに会ったからね。帰り道であらかた聞かせてもらった。ヒポグリフが出たんだってね。甲種を二人で撃破とか、笑っちゃったよ。本当にすごい探査員になったね君ら」
社長の言葉にサイルとレイラがこちらに振り返る。なんだその驚愕した顔は。俺はELC探査員だぞ。D案件だけど、ちゃんと討伐の許可は得ている。
「な、なんだよ。ちゃんとカナンの許可は貰っての討伐だ。そんな顔されるいわれはないぞ……」
交戦禁止の調査D案件だ。ちょっとミスはしたと思うけど。
「いや、そういう話では……」
「私、マサトくんとタクナくんと、同期だと思うから凹むんだわ。ここでもっと頑張ろう」
なんだよ。そっちか。
「二人もヒポグリフ程度なら倒せるよ。出会ったら慌てないで落ち着いて対処しな。やれるから」
本当にそう。二人に足りないのは経験だけだ。甲種に勝てるだけの技術はある。蒼白竜は知らんけど。アレは俺ももう一度やって勝てるかはわからん。というか二度とごめんだ。
「ははは、さすが天征章を持ってる探査員だ。ヒポグリフ程度か。でも、そんな二人もウチで荷運び蜥蜴の卵集めしてたんだ」
懐かしいな。そんなに前の話ではないのに。
シオシオ社長とタクナと三人。翠風のD案件の話をした。その後はサイルたちを交えて、雑談まじりの案件話をしていた。そこに声が響く。時間をみるとピッタリ9:00だ。
〈おはようございます。マサトさん。すでに行動開始されているご様子ですね〉
左耳の後ろに手をやる。
「おはようフレイア監査官。出向中の同期と雑談していただけだよ」
〈D案件の報告もお済みなご様子ですが?〉
隠し事ができないというのもな。
「悪かった。フレイア監査官を待って帰還する予定だった。街の外でなければ、魔獣との遭遇はないものと考えてしまうんだ。都市外育ちなものでな。今後は気をつけるよ」
〈……。別に咎めるような意図はありません〉
本当か?怪しいな。
〈本当です〉
左手を外す。みんなを見回す。社長は面白そうな顔をしている。
「フレイア監査官がご登場だ。そろそろ帰る時間みたいだ」
「ELC徽章まで付いているんだよね。信じられない気持ちになるよ。ごく限られたエリートに与えられる徽章だ」
まるで眩しい物を見るかのような社長の言葉。
「やめてください。俺は変わりませんよ。今度、荷運び蜥蜴の卵集めにでも来ますよ」
立ち上がり、社長へ言うと、さらに眩しい物を見るように目を細め笑っていた。社長も立ち上がり右手を差し出してきた。
「そうだね。次に会う時は荷運び蜥蜴の卵集めの時が良いね。元気でね」
社長の右手を握った。
「社長もお元気で。今度来た時は、クロさんの悪行を聞かせて下さい。聞きそびれてますから」
社長は笑ってくれた。
街の入り口に停車していた魔素駆動二輪車に跨りヘルメットのバイザーを下ろす。
見送りにきてくれたサイルの肩を叩く。レイラは頭を撫でておいた。嫌そうな顔をしていたが、振り払われはしなかった。やはり可愛い。
「じゃあな。カインたちにもよろしく伝えてくれ」
「大怪我するなよ。俺みたいな人相になると、デリカシーのない同僚に死ぬほど弄られるからな」
デリカシーのないのはお前だ。あと、こいつらはお前みたいに誰かにダメ出しされたりしない。早く謝ってそのバッテン消してもらえ。
(行くよフレイア。道中、危険があったらよろしく頼む)
〈おまかせ下さい。そのために私がいます〉
実に頼もしい。
最後にもう一度翠風の街を眺める。小さな街だ。サイルとレイラに軽く手を挙げ別れを告げて、クラッチを雑に繋いだ。
さてアルカディアに帰るとしよう。




