第72話 他に理由など存在しない
放課後の育成校。部活だろうか、生徒たちが戦闘服に身を包み走っている。校庭では、タイムを測る生徒の号令に、溜まった生徒が飛び出す。
青春なのか訓練なのか。必死にやっているが、笑い声も聴こえる。
そんな学生たちを横目に見ながら、タクナと歩いている。
「で、マサト、どう思った?」
「隙だらけのお前と戦ってるみたいだな、いつでも倒せるけど、パワーが半端なくて怖いわ」
レオスくんに大剣を押し付けてそのまま朱路に行ってしまった。気になって様子を見てきたのだ。
「お前はどう思ったんだよ」
「同じだな、隙だらけのお前みたいだ。いつでも倒せるけど、手数が多くてやってられん。大剣ってあんな風に使えるもんだとは知らんかった」
だよな。レイピアじゃねぇんだ。KTS印の大剣だぞ。頑丈さだけが売り、重すぎて不人気で絶版になった剣だ。
「めちゃくちゃだったな。けど、すげぇ。俺には絶対に真似できねーしな」
「同感だ。俺も怖くてあんな風に捨て身になれねぇ。守るとか躱すとか知らねぇのかな」
あいつ強くなるな。
なんとなく入社試験を思い出した。ガレルさんとの一騎討ち。夕陽を背景に黒い影が二つ。激しく打ち交わす光景が忘れられない。最後は、タクナが崩れ落ちた。
「タクナ、ちょこちょこ見てやれよ。あんな風に戦ってたら強くなる前に死んじゃうよ」
「あぁ……そだな。大剣握らせた責任あるしな。お前も見てやれよな。無駄振りが多くて酷すぎ、あれじゃ殺して下さいと言ってるみたいだ」
「それは確かに!お前も、守り方メインでだな」
レオスくん強化計画を話しながら会社に帰った。
エントランスでサルディに捕まる。
「あ、マサトさん、良かった。連絡しようかと思ってました」
「ん、なんかあった?」
安堵する様子のサルディ。俺の顔をみて安心するとはなかなか可愛らしいではないか。そんな艶のある話では絶対ないだろうが。
「蒼白竜の素材の割り当てが監査庁から来てます。マサトさんの単独討伐なので、すごい量です。確認して不服がないならサインして下さい」
ああ、そう言えばそんな制度もあったか。十二分に給与があるから、白峰の時から会社に渡していた。
「今までサインなんかした事ないよ。会社に渡す。そう手続きしてたと思うけど。書類あるならサインするよ」
サルディの端末を寄越せと手を出す。
「あのねぇーマサトさん。そんな簡単にサインするとか言わないで下さい。甲種Ⅰ類二種、しかも竜なんですよ」
溜め息まじりに言われてしまうが、白炎と月白がある俺には不要だ。貰った弓もあるけど、あれはまだ使いこなせていない。
「でも鱗とか牙とか貰っても困るよ。タクナいる?」
「いや、お前そんな簡単に……いや、ちょっと待てよ……。」
タクナは考え込んでいる。
「とりあえず、休憩室に行きましょう。他にも相談があるんです」
サルディに誘われて休憩室に行くことにした。もはや棲家だな。
休憩室の新人エリアには誰も居なかった。俺らが勝手に定めた同期が集う一角。自販機が近くてとても良い。
「ちょっと待って下さいね。連絡しろ言われてるんです」
背の高い机に足の長い椅子。フロラだと足がつかないが、スタイルの良いサルディは様になる。
「はい。いま休憩室です。はい。マサトさんとタクナさんの二人です。はーい、待ってまーす」
誰を呼んだのだろう。偉い人ではなさそうだけど。
「サルディさん、どなたがいらっしゃるんですか?帰っていいでしょうか?」
「どうしてそうなるんだよ……」
タクナが突っ込んできた。
「マサトさんって、謎に卑屈になりますよね。そのくせ、蒼穹探査のサリアさんやティーナさんとかと親しげにしているし」
サリアとティーナが引き合いに出されるとは思わなかった。サルディさんの情報収集能力高すぎる。
「大丈夫ですよ。呼んだのは開発部の人たちです。内容もわかってます。可能なら素材を分けて欲しいみたいですよ。割当て分だと寂しいんですって」
なるほど、開発部か。ほぼ接点がないので、どんな人が来るのかわからん。魔素駆動練習機につけた名前からして、いかれた連中だということは想像がつくけど。
「サルディのよく知ってる人が来るの?」
「いえ、名前くらいしか知りません。開発部長なので流石に名前は知っています」
ふーん。開発部長ね。やっぱ少し帰りたくなってきた。
「開発部の人って、ちょっと変な人多いんですよね。悪い人じゃないんですけど。なんかズレているというか……」
「見方を変えると、探査部の人たちより頭おかしい集まりですかね」
サルディさん?ここに探査部員が二人いますよ。
「サルディからみて会社内でまともな部署はどこよ」
タクナが口を挟んできた。
「んー。とりあえず総務と経理ですかね。ワンチャン、整備部もまともかもしれません」
「た、探査部もまともな人、いるし!」
思わず声を上げた。探査部の名誉のためにも反論せねばならぬ。しかし、サルディは疑いの眼差しを遠慮なくぶつけてきた。
一課からひとりずつ課長の顔を浮かべていく。ダメだ。どんどん酷くなっていく。やはり探査部とはイカれた連中しかいない……
ハッ!
「六課はまともだろ!ラドさんを見ろ、人格者と言える。ほらみろ探査部にもまともな人いるじゃないか!」
酷すぎる四、五課を抜けたら、そこには光り輝くラドさんの姿があった。しかし、サルディは顔色を変えないで言った。
「六課が一番酷いと思いますよ?操縦士って戦闘能力ゼロの人たちですよ。なのに災害で魔獣が溢れかえっている現場に、魔素駆動機を突っ込ませるんです。正気とは思えませんね」
すまし顔でこちらを見つめてきた。
ぐぬぬぬ……。
何か言い返したい。しかし思いつかない。その時、シュンッと空気を裂くような開閉音がした。
「遅くなってすまないね」
薄緑の作業着に白衣を纏う、兎人が現れた。
「開発部のカルナスだ。ありがとう、交渉の席についてくれて」
そういって兎人の男性は右手を差し出した。
「マサトです。こっちはタクナ。二人ともラグナさんの下でやらせてもらっています」
二人で頭を下げた。
「うんうん。知っているよ。優秀な新入社員と聞いている」
怪しい情報だ。きっとおべんちゃらに違いない。とは言え、竜の鱗なんか1ミリも必要ない。さっさと渡してこの場を。
「単刀直入に言おう。マサトくんの個人取り分を分けてもらいたい。支社だけなら会社の割当てで充分なのだが、他の支社からも声を掛けられている。貴重な蒼白竜の素材だ。私としても、会社のために少しでも多く手に入れたい」
ふむふむ。別に問題ない。まるっと渡してしまおう。口を開きかけたが、先ほどのタクナの顔を思い出した。
「条件を口にして良いでしょうか。叶うなら全てお渡ししましょう」
「当然だ。私はそのためにここに来た。なんでもとは言えないが、出来うる限り応えよう。なにが望みかな」
サルディの言葉にビビっていたが、実にまともな人だ。イカれているとは?
「先日、黒牙狼との戦闘で、タクナの大剣が壊れました。同じものをと思いましたが、入手困難だと知りました。今回の素材を利用して同型の強化大剣を作ってもらえませんでしょうか」
「おい、マサトっ」
うるさい黙っとけ。これは俺の役目だ。タクナを制して言葉を続けようとしたが、カルナスさんが先に口を開いた。
「ふむ……アレは君のだな。見せてもらえるかな。ついでに盾も見たい。持って来てくれたまえ」
壁に置かれた大剣と盾に視線をやっていた。
言われた通りにするタクナ。
「すまんな。私じゃ運ぶことさえままならない。武骨なだけの大剣だ。机に上げてくれ。いやそうじゃない。縦に置いて支えておいてくれ」
それだけ口にすると、懐から何かを取り出し大剣を調べ始める。
しばらく眺め回して、視線をタクナへやった。睨みつけるように見つめ口を開く。
「わかった。蒼白竜を使った同型を作ろう。細かい仕様に関しては、ゆっくり相談しながらだな。使っている君の意見が何より大切だ」
おお!通ったか!言ってみるものだな。
「あ、あの、よ、予備も含めて2本お願いしたいです。出来れば少し仕様も変えて……」
タクナが口を挟んだ。そりゃそうだ。ぶち壊れたら終わりとか怖すぎるよな。
「2本だと?しかも仕様を少し変えて?」
鋭い視線でタクナを見るカルナスさん。ダメなのか。いや、押し切ろう。俺が口を挟むところだ。と思ったのだが。
「2本どころか10本でも作ってやる。そのくらい安いものだ。ついでに生産部に掛け合って、スタンダードモデルの生産も復活させよう。そっちは大量にとはいかんが約束しよう」
「え?」
タクナと二人、声が出た。
「なんだ?作って欲しいんだろ。スタンダードモデルの件は、本社の生産部と交渉だ。ぐずぐず言うかもしれんが任せたまえ」
「いやカルナスさんっ、そんな大見得切って大丈夫なんですか?廃盤の復活ってそんなに簡単には」
カルナスさんが、サルディの言葉を手で遮った。
「サルディくん。現場で働く探査員二人が必要だと言うんだ。それ以上の理由など存在しない。それにこの大剣はな、いやこれは関係ない話だ」
「とにかく同型の大剣を蒼白竜素材でオーダーメイドしよう。他に何か欲しいものはないか?これじゃ勘定が合わん」
タクナと顔を見合わせる。勢いよく首を横に振っている。
「いや、じゅ、充分です」
きっぷの良さに驚きつつも答えた。
「盾の具合はどうだ?性能や使い心地について聞かせてくれ」
「つ、使い心地はとても良いです。困ったときに助けてもらっています。性能に関しては俺はわからないです……」
そう言って俺を見てくる。
カルナスさんも、タクナに合わせて俺を見る。どうなんだ。はっきり答えろ。圧すら感じる強い視線だ。
「え、えっと。蒼白竜とやり合った時に役に立ちました。フロラ、あ、同期の操縦士ですが、助けられたのは盾のおかげです」
「そうか。ならば良かった。溶けているのはブレスを防御したんだな?」
「そ、そうです」
「うむ。理論値より耐久性があったのは、君の能力だな。過信はダメだが、信じてもらえてありがたい。この盾もやろう。倉庫に山積みになってるから、好きなだけ持っていけ。いや、邪魔になるな、好きな時に持って行ってくれてかまわん」
「サルディくん、手続きをしておいてくれ。まだまだ足りん。他に何が欲しい?」
カルナスさんが、楽しそうに笑いながら言った。




