第68話 本屋に寄って帰ろう
「ブフォ!」
ザイロウのロッカーを片付けていたエイナルが突然噴き出した。手には手紙らしきものを持っている。
「なんだよ、エイナル」
「ご、ごめん。ちょっと待って……」
肩を震わせ手紙を読むエイナル。しばらくすると、俯いて手紙を渡してきた。笑いを堪えているのか、ぷるぷると震えている。
親愛なる上席の皆様方へ
この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世に居ないのでしょう。
もし違うなら、すぐ読むのをやめて下さい。人のロッカーを漁るとか、上司でも許されませんよ。
それと、もし私が生きているうちにこれを読んでいるなら、私はもう永くありません。私を殺すのはこれを読んだ貴方です。人殺しになりたくなければ読むのをやめて下さい。
馬鹿ばっかやっていたザイロウだ。嫌な予感しかしない。読まない方が良いまである。しかし、読まずにはいられなかった。
…………。
「ザイロウの野郎、ブチ殺してやる!あのハルバートに俺が幾ら注ぎ込んで作ったと思ってるんだ!」
「いや、後から知ったから、言い出せなかったって書いてあるでしょ」
エイナルは顔を赤くして笑いを堪えている。
「お前だってやられてるんだぞ!なに他人事みたいな顔してんだ!腹が立たないのか?」
「いや、一生懸命言い訳してるのが可笑しくてさ」
あの野郎、色々とやらかした件の告白を手紙に書き連ねてやがる。しょうがなかったとか、時代がまだ追いついてなかった。後輩を責めるのはやめて欲しい、俺も責任がないわけではない。とか、言い訳を書いている。
どう見ても全部お前のせいだろ!
挙げ句の果てに、墓場まで持って行こうと思っていたが、良心の呵責に耐えられなくてここに記すことにした。だと!?
お前に良心などない!
ご丁寧にアップデートしてやがる。確信犯じゃねーか。
ふざけんな!お前の悪さの全貌が明らかになって色々と繋がったぞ。悪戯ばっかししやがって。洒落にならない結果ばっかじゃねーか。
「いやー酷いよねー。これは言い出せないよ」
エイナルは笑いすぎて涙を浮かべている。俺も違う意味で泣きたくなった。
「社長の真核機動機なんて新車だったんだぞ。整備部に泣きながら修理を頼んでいたんだ。可哀想に……」
「まぁまぁ、ザイロウも最後には俺たちに感謝の気持ちを書いているじゃないか。許してあげようよ」
クスクスと笑いながらエイナルは言う。
「いや、あいつそこまで計算して、この手紙書いてるぞ。きっと」
「だろうね〜。ザイロウらしいよね」
エイナルは手紙をジッと見ていた。
あいつ、楽しそうに書いていたんだろうな。
最後の悪戯か。
「で、これどうするの?部長にも見せてあげる?」
エイナルも楽しそうだ。
「当たり前だ、部長は監査庁にひと月近く通うことになったんだぞ。あの時は流石に気の毒に思ったわ」
「そうだね〜。部長なんて言うかな」
「わからんが、エイナル。俺は死ぬのが少し楽しみになったぞ。あの世でザイロウを見つけ出して真っ二つにしてやる」
「物騒だなぁ〜」
「はぁ……遺品整理って何回やっても疲れるな。怒れば良いのか悲しめば良いのかわからん」
「はいはい。次行くよ。明日、支社長たちが遺族に持って行くんだ。ちゃんと片付けないとだ」
コラナスの奴め、ロッカーを開けたら扉に女の写真があった。そこかしこに貼りやがって。
「これサファクラのソフィエラちゃんだろ。無理だって言ったのに、挑戦してたのかあの馬鹿」
「だよねー。俺も止めたんだけどね」
エイナルの奴は苦笑いしている。わかってたんなら殴ってでも止めろよ。おまえはそこらへんが甘いんだよ。
「エイナルおまえさ、ソフィエラと仲」
「いやだよ。ガレルの役目でしょ」
気が重くなる。俺が伝えるのかよ。まぁ家族に連絡したアルダ部長よりはマシか。
最後まで残していた一枚を剥がす。コラナスが笑っている。良い笑顔だ。ソフィエラの肩に腕を回している写真。少し悩んだが、考えを振り払いダンボールに詰めた。コラナスに怒られそうな気がしたからだ。
ガチャ。
ロッカー室の扉が開いた。
「あ、お疲れさまです」
「おう。マサト、もう大丈夫そうだな」
身体の方はもう大丈夫だろう。医師も、早い段階でお墨付きをくれていた。アルダ部長の安心した表情を見せてやりたかったぞ。まぁ俺たちも似たような感じだったろうけどな。
名前の入ったダンボールをマサトが見ていた。
「遺品整理ですね……手伝いましょうか」
「いや、ダメだ。触るな!」
マサトがビクッとする。いかん。強く言い過ぎた。
「これは俺たちの仕事なんだよ。偉くならないとできない仕事だよ」
「そうだぞ、やりたかったら出世しろよ。部下の恥ずかしい過去を暴くのは俺らの特権だ。今もコラナスの恥ずかしい写真を見つけたばかりなんだ」
俺たちをジッと見つめるマサト。無理があったかな、エイナルに任せておけば良かったか。
「わかりました。いつか、みんなの恥ずかしい話を聴かせてくださいね」
それだけ言ってマサトは自分のロッカーへ向き直る。
「マサトは何しに来たの?休み中だろ」
「いや、暇なんで来ました。総務から制服回収するからすぐ持ってこいって言われて」
そう言ってハンガーに吊るした礼服を見せてきた。礼服の胸についた階級章を見てエイナルが言う。
「ああ、徽章の張替えかー。いや追加もか」
「出世だな」
「そうですか。わかりました。総務行ってから帰ります。お先に失礼します」
「おう、お疲れさん」
マサトは出て行った。
「興味ないみたいだね」
そりゃそうだろうな。
「それに見た目ほどは、回復してなさそうだね」
「ああ、タクナとは逆だな」
出て行った扉を二人で少しの間眺めた。
さて、死んだ部下の面白グッズ集めを再開しよう。
ドルヴァンの奴、なに置いてるんだよ。笑いそうになった。後輩に嫌われない先輩になろう!こんなタイトルの本をよく恥ずかしげもなく買えたな。付箋があるので開いてみた。
寡黙なあなたはこうする!
そんな見出しで始まる文章は、俺らに合ってるとは思えない内容だった。
「…………。」
なんだよ、笑顔を絶やさないようにって。ドルヴァンがいちばん出来なさそうなことが真っ先に書いてある。
あいつがロッカー室でこれをこっそりと見ていたかと思うと笑える。あの引き攣った顔は笑顔のつもりだったのか。若手がざわついていたぞ。
年季の入った啓発本の表紙は折れ曲がり、頁は手垢に塗れていた。傷まないよう、丁寧にダンボールへ入れた。最後にもう一度、タイトルを見てから封をした。
今日は本屋に寄って帰ろう。




